2 ここはどこ?
(……え?ちょっと待ってください。白すぎないですか?)
植物も空も大地もすべてが白い。
(今までの風景はどこに行った?さっきまで、桜が満開で、菜の花の黄色と相まって、春らしい、きれいな景色があったよね?あと、私の自転車はどこに行った。水色で、この世界の白には合わないからどこかに行ったんか。)
ふと、自分の荷物が詰まっているリュックを凝視する。
(このリュック、あまりにもカラフルだから、これもなくなっちゃうんかな?)
あまりの非現実感を前にして、脳がどうでもいい現実逃避を始めていた。
(どうしようかな〜。ここ、特に寒くも暑くもないんだよなぁ。だから、雪原とかでもなさそうだし。とりあえずスマホ起動するか。この感じだと、圏外っぽいな……。ま、ダメ元で。)
リュックの中に手を突っ込んで、黒いスマホを取り出して画面をつける。
(……やっぱり圏外か。どうしようもないな。う〜ん……。下手にここから動いてトラブルが起きたりしたら面倒くさいし。さすがに、トイレに入って出てきたら知らない世界?知らない場所?に迷い込むとは思わなかったから、対策してなかったもんな。自分が通り魔に遭遇したときの対策は完璧だったんだけど。)
途方に暮れて、これからの生存に役立つかもしれないリュックの中身を整理する。
スマホ、ハンカチ、ティッシュ、筆記用具入ってる筆箱、財布、お腹が空いたときのための干し芋、チョコ、ラムネ、弁当、麦茶が入ってる水筒、ペットボトルの水、エコバッグ、家の鍵、小説、電子辞書、防犯ブザー。
(……ま、1週間は餓死せずに済むでしょ。)
ちなみに、リュックの中に教科書類が一切入っていないのは、置き勉しているからである。決して家に忘れたからではない。
(よくよく考えたら、あんなサイクリングロードの途中にこんな建物があるのがおかしいんだよ。お腹がピンチすぎて気づかなかったわ……。そうだ!この小屋の中になにかあるのでは?)
さっそく小屋の中を探索し始めた。
正面に大きなスライド式のドアがあり、内部は誰でも使える多目的トイレになっている。入るとすぐに、何もない少し広い空間があり、壁際には折りたたみ式の大型ベットが備え付けられている。そこからちょっと離れたところにカーテンがあり、奥の便器と空間を仕切れるようになっていた。便器の近くには鏡と洗面台がある。便器は四角い。便器のすぐ横の壁に、トイレットペーパーホルダーと洗浄ボタンがついている。
洗面台の下に、なにか白くて小さくて薄いものが落ちている。それを拾う。
(…なんだこれ。SDカードの形してるぞ?でも、ただの木の板にしか見えないな。)
不思議に思いつつ、なにも変化が起きなかったので、とりあえず制服のポケットの中に入れておく。そして、周りを見渡す。
(う〜ん…。トイレとしておかしいのは便器が四角いくらいか。ん?でも、こういうところって、清掃するときに使う掃除用具入れがあるよね。外についてるのかな。)
小屋から出て、小屋の周りをぐるりと歩く。しかし、何も見当たらなかった。とりあえず小屋の中にまた戻る。
(……これからどうしようかな。思いがけず暇になっちゃったな。いったいここはどこなんだろうな…。)
じわじわと状況が頭に追いついてきたからなのだろうか、急に猛烈な心細さが襲ってきた。小屋の中で床の上にペタリと座り込む。
(私、帰れるのかな……。どう考えてもこのトイレのせいでここに来たよね。はあ……。昨日っていうか、今日4時30分まで夜ふかしして読書しなければよかった。でも、7年追いかけ続けた大好きな作品の最終巻だったからしょうがないよね……。抗えるわけないよね……。)
やることもなかったので、リュックに入れたお気に入りの作品の最終巻を読み返し始めた。
◇
6時間後。
小説を読み返し終わると、ちょうどお腹の虫が鳴った。お弁当のご飯を口に運び、何度も何度も噛み締めて食べる。
(……今のところ、外を出歩く予定がない以上、食べ物は少しずつ大切に食べないと。)
弁当の保存が効かなそうなものを選んで食べる。
(後で食べて、お腹を壊したくないからな……。ま、いくらでもトイレに行ける環境は整ってるんだけどね。)
自分の置かれた皮肉な状況に自嘲気味な笑いが漏れた。
お腹が満たされた気がし、また小説を読み返し始める。
読み返し終わると、眠気が襲ってきた。ベッドを倒し、そこに横になって目を閉じる。
◇
最初の3日間はお弁当を消費する。
食料がない以上、一日の食事は一回だけだ。洗面台の水は出るので、ありがたく飲む。
朝なのか夜なのか認識できなかったため、眠気が来たら寝る。
次の4日間はチョコ。
次の3日間はラムネ。
次の4日間は干し芋。
そんな生活を2週間続け、いよいよ食料も尽きたある日。
バンッ!
突然、小屋のドアが開かれた。




