1 いつもの朝?
ヴワンヴワンッ、ヴワンヴワンッ……。
水色の布団の上に置かれたスマホのバイブが鳴る。
「う〜ん……」
布団に顔をうずめた少女は無造作に腕を伸ばし、アラームを止めた。
5分後、再びバイブが鳴る。少女はまた止める。それを3回繰り返したところで、スマホは諦めたように静かになった。
それから10分後。少女はのっそりと起き上がった。カーテンの隙間から朝日が差し込み、部屋を少しだけ照らしている。スマホを開き、時刻を確認した。
◇
(おはようございます。……もしかして私、寝坊した? ううん、完全に寝坊したよね。)
現在の時刻は7時30分。学校の始業時刻は8時30分。登校にかかる時間は40分。
(ということは、家を出なきゃいけないのは7時50分。あと20分……!? ここから朝ごはんと弁当を作って身支度? できるかなあ……いや、やるっきゃない!)
普段からは考えられないスピードで支度を進めていく。しかし、どれだけ頑張っても20分で終えることはできず、家を出たのは7時55分だった。
紺のセーラー服に身を包み、玄関の鍵をしっかり確認すると、中学1年の頃から乗り続けている愛車——今年で6年目となる水色の自転車にまたがり、勢いよく漕ぎ出した。
(か〜っ! きっつ! 万年無遅刻無欠席のこの私が遅刻なんて、ありえないんだけど! ……ハッ! 自己最速記録を更新すれば間に合うのでは? 本気出すわ!)
自転車の速度がぐんぐん上がっていく。だが、学校までの3分の1ほどの距離に差し掛かったとき、異変が襲いかかった。
(……っ! 腹の中のヘビがのたうち回ってる! やばい、お腹痛い……っ!)
原因は昨夜の牛乳の飲み過ぎだろうか。
(どうしよう、ただでさえ遅刻しそうなのに! しかもここ、田舎の川沿いサイクリングロードだから学校までトイレがないじゃん! 見渡す限り田んぼ、川、雑草、林……。え、最悪野糞……? いやいや、いくら人がいないからって乙女としてそれはナシでしょ! 地元の進学校のセーラー服を着てるんだから、見られたら一発で通報されるって! うぅ……でも痛い、このままだと漏れる……っ!)
満開の桜並木は美しかったが、その甘い匂いですら凶器だった。腹の中のヘビが分裂して暴れ回っているような激痛と、じわじわと込み上げる寒気。
あれほど上がっていた自転車のスピードが徐々に落ちていく。
(ふぅ……おさまった……。)
しかし、これは嵐の前の静けさに過ぎない。
(こういうときって、波みたいに第二波、第三波が来るんだよね……。)
予感は的中し、すぐに次の激痛が到来する。
(無理無理無理無理!!!!! どこかにトイレはないの!? 学校まであと15分……無理だ、もう野糞しよう。川だし。 全部水に流せるでしょ……。)
若干遠い目をしながら自転車を漕ぎ続けると、前方に白いコンクリートでできた小屋が見えてきた。公園の公衆トイレのような見た目をしている。ちょうど一人の男性がいそいそと出てくるところだった。
(トイレだ! 間違いない! もう背に腹は代えられないわ!)
近くに自転車を止め、荷物を抱えて小屋へ駆け込む。
◇
しばらくして、小屋から水を流す音が聞こえてきた。
(ふぅ〜……あぶねー! 間に合った……。便器ちょっと冷たくて、座るときヒヤッとしたな。ま、何はともあれトイレありがとう! ここに作ってくれた役所の人、本当にありがとう! 便器が丸じゃなくて四角かったけど、最新型なのかな。いつも通ってるのに全然気づかなかった。……もう完全に遅刻だけど、背に腹は代えられないし気にしない!)
安堵の溜息をつきながら小屋のドアを引き、外へ出る。
しかし、その場で呆然と立ち尽くすことになった。
「……なにこれ。全部真っ白なんだけど。」
1話目なのに、少し下品でごめんなさい。




