4 初対話
部屋を満たしていた閃光が消える。同時に、電子辞書が消えてしまった。
思わず、少年とじっと見つめあう。何か話さなければと思い、口を動かす。
「こ、こんにちは…?」
「……こんにちは?」
少年は、飴のように甘くも透き通っている声で、恐る恐る挨拶を返す。
(さっきはちょっとパニクってて気づかなかったけど、なんてかわいい声してるんだ…。)
私の頭の中の変態おじさんが暴走しかけるが、10トンハンマーでそいつを殴り、平静を取り戻した。
「この度は、助けてくれてありがとうございました。」
そう言って、頭を下げる。
少年は少し驚いた様子で目を見開く。しかし、頭を横に振り、口を開く。
「あの、お姉さんは、何者なんですか?」
私は一瞬固まる。
(………う〜ん…。私は一体何者なんだろうか…。その質問はちょっと厳しいな…。どこからどう見たときの「何者」なのか定義が曖昧だし…。)
「え〜と、地球っていう星の日本っていう国の女子高校生の阿久津真琴です。」
少年は困惑した表情を浮かべる。
「チキュウ?ニホン?コウコウセイ?……。お姉さんは壁の向こうの人なんですか?ところどころ、壁の白と同じ白してるし。」
(……オウ、ナンテコッタ!予想してたけど、少年が何言ってるのか分からないヨー!!)
私も困惑した表情を浮かべる。
「壁…?壁の白とは…?」
「……お姉さんの髪の毛とか瞳の白のこと言ってます。」
(……おやおや?これは…。)
ある説を思いついて、合点がいく。どうやら、本格的にこの世界には白しか存在しない、正しくはほとんどが白であるようだ。だから、「色」という概念自体が存在しないのかもしれない。
「髪の毛の白って、黒のこと言ってる?」
「クロ…?お姉さんの髪の毛の白って、クロっていうの?」
「そうだよ。黒っていうんだよ。」
少年はまた考え込む。
そういえば、話が進むにつれて、敬語が外れてきてるなぁとほのぼの思いながら、少年が話し出すのを待つ。
「やっぱり、お姉さんはきっと、壁の向こうの人なんだよ。」
私は、先ほどからの少年の発言から「壁」がどうやら私の世界の定義とは少しずれていると推察していた。
「壁ってなに?家にある壁とかの話?」
少年はまたもや困惑した表情を浮かべる。首を振る。
「違うよ!それももちろん壁だけど、『壁』といえば、この世界の端っこにある『大壁』のことだよ!僕たちの世界をぐるっと囲んでて、空を突き抜ける高さで、到底僕たちでは超えられない高い壁なんだ。僕はその壁を超えるのが夢なの。だから、もしかしたらお姉さん、壁の向こうから大壁を乗り越えてここに来たんじゃないかと思って。」
私は驚く。
(……なんだって!?そんな進◯の巨人みたいなことがあるのか!?この世界は!?………壁の中に巨人が眠ってたりしてね。)
たしかに、少年からしたら私は見たこともない「白」をしているのだろう。だから、まだ未開の「壁の向こう」の住人なのではないかと疑ったということだ。ただ、私の世界には「大壁」なんて存在してなかったし、「壁の向こう」の住人ではない。
「ごめんね。少年。残念ながら、私は壁の向こうの住人ではないんだ。ただ、この世界でも壁の向こうでもない世界からなぜかここに来たんだ。」
少年は私の発言を聞いて、一瞬残念そうにしたものの、目を輝かせる。
「この世界ではないところって?」
話せば長くなる、難しい質問をしてきた。どう答えるか悩む。さっきの自分の発言を思い返していると、そういえば、少年の名前を知らないことに気がつく。「少年」と呼び続けるのは良くない気がする。
「一言では言えないね。その前に、少年の名前を教えてほしいな。」
「ごめんね!そういえば言ってなかったね。僕の名前は、ルイーズ=アナージョだよ。気軽にルイって呼んでね。」
「オッケー、ルイね。私のことは真琴って呼んで。」
ルイの自己紹介に真顔で悶える。
(「ルイ」か…。ぴったりすぎる……。)
私はルイの変態になってしまうかもしれない。




