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第二話:ひび割れた磁器の仮面

#犬神家の腐った系譜 #イヤミス #サイコホラー #閲覧注意 #救いのない結末

裏手の洗濯場へ足を踏み入れた途端、漂白剤の鼻を突く匂いが私を迎え入れた。目が沁み、喉の奥がちりちりと痒くなるほどに強烈な匂いだ。


そこでは、犬神静塚が古い木製の洗い桶の前に跪いていた。沸騰間近の湯から、白い湯気が立ち昇っている。彼女は朱里の部屋から持ってきた絹のシーツを、一心不乱に擦り洗っていた。化学薬品のせいで赤く爛れ、皮の剥けた彼女の手は、強迫的なリズムで前後に動き続けている。


白い布の上で、茶褐色の染みが薄くなっていくのが見えた。静塚は泣いてはいなかった。その表情は空虚で、口元は神道の祝詞を微かに呟いている。まるでその祈りが、この家に蔓延する歪んだ日常を浄化できると信じているかのように。母にとって、その汚れは誰かの痛みの証ではなく、ただ、犬神家の「体裁」を汚す不浄なものに過ぎなかった。


「母さん」私は静かに声をかけた。「手が血だらけだよ」


彼女は手を止めない。「この家は清らかでなければならないのよ、江戸。汚れも、隠し事も、決して許されないの」


私はあえて、彼女の隣にあるアイロン台の上に、今朝拾った朱里の服のボタンを置いた。彼女の冷徹な仮面に、変化が生じるかどうかを見たかった。


静塚はボタンに目をやった。一瞬、手の動きが止まる。肩が微かに震えた。それは極めて短い、拒絶反応だった。しかし次の瞬間、彼女はそのボタンを傷ついた指先でつまみ上げると、沸き立つ湯の中へと沈めた。


「ただの汚れよ」彼女は囁いた。


その時、一族の過去にまつわる断片的な記憶が脳裏をよぎった。二十年前、この同じ場所で、同じように虚無の瞳で床を磨いていた若い頃の彼女の姿。この連鎖は今始まったことではない。これこそが、代々受け継がれてきた犬神家の沈黙という遺産なのだ。


夕刻、私は離れのパビリオンで龍叔父の仕事を見ていた。暗室の中は薬品の匂いが立ち込め、壁には過去から現在に至る一族の歪んだ記録が影のように並んでいる。


「犬神の血は嘘をつかないよ、江戸」龍が低く呟く。「この家系に流れるのは、決して癒えることのない渇きだ」


その夜、私は自室で考えを巡らせた。母が望む「清潔」とは一体何なのか。それは単に汚れを落とすことではなく、不都合な真実をすべて消し去ることなのだろうか。


鏡に映る自分の顔を見つめる。この血筋から逃れることはできないのかもしれない。しかし、この連鎖を終わらせる方法はあるはずだ。


「母さん、家を綺麗にしたいんだろう?」私は闇に向かって囁いた。「僕がやってあげるよ。この一族が抱え込んできた膿をすべて曝け出し、真実という光でこの家を塗り替えてあげる」


「最後までお読みいただきありがとうございます。次回の更新は明日、22:00を予定しております。また明日お会いしましょう!」


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