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第一話:静寂なる茶会

#犬神家の腐った系譜 #イヤミス #サイコホラー #閲覧注意 #救いのない結末

京都において、静寂は一つの芸術である。しかし、犬神の屋敷におけるそれは、喉をじわじわと締め上げる絹の首縄にも似ていた。


その朝、庭のししおどしが、規則正しい音を刻んでいた。コン……コン……。その一打一打が長い町家の廊下に響き渡り、まるで判決を待つ者の鼓動のように聞こえた。


私は台所に立ち、犬神静塚の手伝いをしていた。母は白磁の皿を、異常なまでの力で擦り上げている。スポンジの擦れる音があまりに鋭く、耳鳴りがした。彼女は表面の清潔さに執着していた。一滴の汚れも彼女にとっては消し去るべき罪であり、化学洗剤のせいで自らの手が赤くひび割れていても、その手は止まらなかった。


「江戸、お祖父様の茶碗に指紋が残っていないか、よく確認してちょうだい」


静塚が囁く。その声は淑やかだが、比叡山の頂に張る氷のように冷たかった。


私は頷き、茶器を載せた盆を奥座敷へと運んだ。そこでは犬神宗一郎が待ち構えていた。祖父は最高級の白絹を広げている。皺の寄った指先が布を撫でる仕草に、私は言いようのない嫌悪感を覚えた。


「朱里、こちらへ」


宗一郎が命じる。


妹の犬神朱里が、廊下の闇から現れた。彼女は薄い絹の着物を纏い、顔色は青白く、まるで畳の目だけが唯一安全な場所であるかのように床を凝視していた。


「真っ直ぐ立ちなさい」


宗一郎が低く呟き、白絹を朱里の体に合わせる。彼の冷徹な視線は、孫に向けるものというよりは、冷酷な蒐集家のそれだった。


不意に、シャッターを切る音が静寂を切り裂いた。部屋の隅に、愛用のカメラを構えた龍叔父が立っていた。彼は何も喋らず、ただこの異様な光景を執拗に記録していく。龍は一瞬こちらを向き、薄気味悪い笑みを浮かべた。


昼食時、犬神賢治が帰宅した。父は疲れ果てた平凡なサラリーマンに見えたが、彼が食卓についた途端、空気は鉛のように重くなった。再び静寂が訪れ、箸の触れ合う音だけが響く。突如、パキッという音がした。朱里が箸を落としたのだ。


父は怒鳴らなかった。しかし、その無言の威圧感に朱里の肩がびくりと強張る。母の静塚はそれを見て見ぬふりをし、ただ茶を啜りながらこう言った。

「今日の京都はとても良いお天気ですこと。お庭に新しい椿でも植えましょうか」


外では鳥の囀りが美しく響き、家の中の歪んだ空気と残酷な対比をなしていた。


私は箸を完璧な所作で置き、自室へと戻った。隠し戸棚を開け、まだ滑らかな感触のプラスチック製のレインコートに触れる。その隣では、裁断包丁が電球の光を受けて冷たくぎらついていた。


明日、この家から白檀の香りは消えるだろう。

明日、私は犬神家の因習を、自らの手で断ち切る。


「最後までお読みいただきありがとうございます。次回の更新は明日、22:00を予定しております。また明日お会いしましょう!」

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