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戦いの後

崩れた核の余韻が空気に残る。圧はもうない。耳に戻ってくるのは、風が葉を揺らす音と、遠くの小さな羽音だけだ。剣先を軽く払ってから鞘に収め、肩で息を整える。胸の奥で乱れていた鼓動が、ゆっくりと落ち着いていく。ガラティアは大剣を地面から引き抜き、刃を横に振って付着した汚染の残滓を払い落とした。重い武器を扱っていたにもかかわらず、立ち姿は崩れていない。ただ、呼吸の深さだけが消耗を物語っている。

春月さくらはその場で小さく一歩、また一歩と回るように足を運び、残っていた光を整えるように舞う。帯から春鏡にそっと触れる。淡いピンクの光が鏡面に広がり、桜の音色が静かに鳴り響いた。

「癒しの舞」

声は強くないが、はっきりと通る。淡い桜色の光が再び広がり、二人の身体に触れる。傷と呼べるほどのものは多くない。それでも細かな打撲や疲労がじわりと抜けていく。ふっと息を吐く。

「助かる」

短い言葉。春月さくらは少しだけ安堵したように頷いた。

しばらくして、舞が止む。光が完全に消えたあと、森は本来の色を取り戻していた。さっきまでの鈍い空気はもうない。地面を見下ろす。汚染の痕跡は跡形もなく消えている。何かがあった証拠は、抉れた土と折れた枝だけだ。

「……ここまで戻るのか」

ガラティアが呟く。視線は周囲をなぞっている。

「ああ。終われば戻る」

経験則のような言い方だった。ガラティアは横目でそれを見たが、深くは追わない。

「何度も来てるみたいだな」

「……似た場所はな」

それ以上、言葉は必要なかった。

春月さくらが二人の間に一歩近づく。

「あの……ありがとう。守ってくれて」

言葉に少しだけ躊躇いが混じる。戦いに直接関わっていない自覚があるからだろう。ガラティアは肩をすくめる。

「支援がなきゃ押し切れなかった」

クローディスが続ける。

「助かった」

春月さくらはぱっと表情を明るくした。

そのまま三人は少しだけ距離を詰め、周囲を見回す。先ほどまであったはずの歪みも消えている。空間は安定していた。目を細める。

「消えたか」

ガラティアが答える。

「核を潰せばこうなるってことか」

春月さくらはその言葉に首を傾げる。

「核……?」

視線を外し、ひと言だけ返す。

「さっきの中心だ」

説明はそれだけ。まだ断定できる情報ではない。

沈黙が一瞬だけ落ちる。森は穏やかだ。それでも完全に安心できるわけではない。一度だけ周囲を見回し、来た方向へ視線を向けた。

「戻る」

その一言に、ガラティアが頷く。

「ああ。依頼も終わりだ」

春月さくらは一拍遅れて二人を見る。

「……えっと、あの」

言葉が続かない。

「行く場所がないのか」

問いは淡々としている。春月さくらは少しだけ困ったように笑った。

「……うん。妖精界への戻り方も、まだ分からなくて」

ガラティアが小さく息を吐く。

「なら来い。ここに残る理由もないだろ」

それは提案というより、自然な流れだった。春月さくらは一瞬だけ目を丸くし、すぐに強く頷く。

「お願いします!」

その声には迷いがなかった。

踵を返す。ガラティアがその横に並ぶ。春月さくらは一歩遅れてついていく。三人の足音が、元に戻った森の中に静かに溶けていく。

風が木々を揺らす。先ほどまでの重さはもうない。三人の足音だけが、静かに森の奥へ続いていった。

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