モゾト村へ
森を抜ける頃には、空気は完全に軽さを取り戻していた。木々の隙間から差し込む光が増え、足元の土も柔らかい感触に戻っている。戦いの痕跡は奥に置いてきた。それでも三人の歩みは緩まない。前を行き、視線だけで周囲を確認し続ける。ガラティアはその半歩後ろ、間合いを保ったまま並び、いつでも動ける位置を取る。春月さくらはさらに一歩後ろで、二人の背を見ながらついていく。
やがて森の縁が見えた。木々が途切れ、開けた地面が現れる。そこまで来て、三人はようやく足を止めた。
道は来た時と同じはずなのに、帰りはわずかに短く感じる。森の外へ出ると、遠くに人の気配が戻っていた。煙の匂い、かすかな話し声。日常の音だ。春月さくらはそれに気づき、少しだけ表情を緩めた。
「……人、いる」
安心したように呟く。ガラティアが横目で見る。
「当然だ。村だからな」
何も言わない。ただ足を止めずに進む。
しばらく歩いたところで、春月さくらがふと口を開いた。
「あの、呼び方なんだけど……」
クローディスとガラティアが同時に少しだけ視線を向ける。
「長いと呼びづらいし、いいかなって……」
春月さくらは少し考える。
「クロさん、ティアさん、とか」
ガラティアが軽く笑う。
「好きにしろ」
ひと言で答える。
「構わない」
春月さくらは嬉しそうに頷く。
「じゃあ、クロさん、ティアさん」
呼び方が変わる。それだけのことだが、距離が少しだけ縮まる。三人の歩調も自然と揃っていた。
やがて村の入口が見える。木柵と見張り台。中から人の動きが見える。ガラティアが歩みを少しだけ緩めた。
「報告はこっちでやる」
頷く。
「任せる」
依頼で来たわけではない。必要以上に関わるつもりもない。
春月さくらは二人を見比べる。
「あの……私も一緒でいい?」
問いは遠慮がちだった。ガラティアは即答する。
「来い」
クローディスも、ひと言だけ付け加える。
「問題ない」
春月さくらはほっとしたように笑う。
三人はそのまま村へ入っていく。背後の森は静かに佇み、何もなかったかのように風に揺れていた。
振り返らない。ただ前を向いて歩く。まだ知らないことが多すぎる。それだけが、次へ進む理由として残っていた。




