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森の奥へ

二人は言葉を交わさず森の奥へ進む。足音は抑えられ、視線は常に周囲を走る。黒く濁った気配は先ほどよりも濃い。草はさらに色を失い、木の幹の歪みも増えている。地面を踏む感触がわずかに軋むように変わった。

「増えてるな」

ガラティアが小さく舌打ちをした。

「ああ」

それだけで通じた。

次の瞬間、右前方の低木が揺れた。ほぼ同時に三方向から飛び出す。土、水、風。クローディスは半歩前へ出た。剣を横に走らせ、最初の一体を斬る。濁りが散る。間を置かず左から水色の塊が滑り込む。低く体勢を落とし、足元で斬り払う。ガラティアは逆側を受け持つ。地を蹴ると同時に大剣を振り下ろし、土色の塊を叩き潰す。だが終わらない。

茂みの奥からさらに数が押し寄せる。さきほどより明らかに多い。個別に処理していては押し切られる。魔法は多用できない。消耗は避ける必要がある。

――密集した一角を崩す。それだけでいい。

「エアカッター」

飛ぶ斬撃が一直線に走り、密集していた一角をまとめて切り裂く。闇色の靄が散り、空間に隙間ができる。ガラティアはその隙へ前へ出た。

「烈斬破!」

大剣が横に振り抜かれ、衝撃が広がる。飛びかかろうとしていた個体が弾かれ、まとめて距離を取らされる。だが完全には崩れない。何体かが態勢を立て直し、再び寄る。

角度を変えた。真正面ではなく、群れの側面へ滑り込む。剣を低く構え、身体ごと流すように動く。

「ウィンドスラッシュ」

五連の斬撃が側面から走り、密集を崩す。動きの軸をずらされた低位精霊が一瞬遅れる。その遅れにガラティアが重ねる。上段からの一撃で二体を同時に叩き潰した。

それでもまだ残る。数は減ったが、終わりではない。背後から気配が膨らむ。振り向きざまに斬る。だが同時に二体、三体と重なるように来る。剣で受けきれない。一歩引いた。

一瞬の判断。ここで削る。魔力の残りを確かめる。まだある。だがこれが最後だ。

「空より落ちる風よ重撃となり敵を打ち据えよ――ウインドフォール」

風が落ちた。地面を叩く衝撃が広がり、群れをまとめて吹き飛ばす。土が跳ね、汚染の滓が舞う。肩がわずかに沈む。今度こそ限界だ。次はない。

ガラティアが前へ出る。空いた間合いを一気に詰め、大剣を振り下ろす。衝撃で浮いた個体を確実に仕留める。続く。残った数体を一体ずつ切り落とす。最後の一体が逃げるように引いた瞬間、前へ出た。

「エアカッター」

一直線に走った斬撃がそれを捉え、塊は崩れた。濁りが風に流れ、消えていく。

静寂が戻る。だが先ほどよりも濃い沈黙だった。森の奥が近い。二人ともそれを感じていた。

「さっきより多かったな」

ガラティアが息を整えながら言う。

「奥に近い」

剣を軽く払った。言葉はもう要らない。

二人は視線を交わし、再び歩き出す。進むほど空気が歪む。魔力の濃度が上がっている。何かがある。

やがて、前方の景色の一部がわずかに揺れているのが見えた。空間そのものが薄く裂けているような違和感。

ガラティアが足を止める。

「……なんだ、あれは」

クローディスも立ち止まり、目を細めた。

空間が裂けている。次元が歪んでいる。

「……何かが、起こっている」

低く、静かに言った。断定はできない。

だが似たような現象を、過去に見たことがある気がする。

確信に近い、しかし確信ではない。

その言葉だけを置いた。

小さな歪みだった。手のひらほどの裂け目が、空中に浮かんでいる。周囲の空気が引き寄せられるように揺れ、かすかに光が滲む。

次の瞬間、その裂け目がわずかに広がった。

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