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赤い髪の剣士

青年は茂みの陰に身を沈め、気配を殺したまま前方を覗く。そこにいたのは赤い髪の女だった。大剣を両手で握り、周囲を取り囲む低位精霊の群れと対峙している。数は多い。十や二十ではきかない。土色、水色、風色に濁った塊が、汚染の滓をまといながら間断なく押し寄せていた。女は一歩も退かない。踏み込み、振り抜き、叩き潰す――重く、確実な一撃だ。だが数が減りきらない。大剣の軌道の外側から、別の個体が滑り込む。女はそれを読み、身体をひねって避け、逆手で刃を叩き込む。無駄がない。それでも押し切れてはいない。

単独では限界が近い。消耗も見える。このまま放置すれば、遠からず崩れる。――介入する。

茂みから飛び出す。足音を最小限に抑え、一気に間合いへ入る。

「エアカッター」

風をまとった斬撃が空を裂き、女の死角へ回り込もうとしていた低位精霊をまとめて切り払った。濁りが弾ける。女が一瞬だけこちらを見る。その目に驚きはあったが、すぐに戦場の視線へ戻る。状況の理解が速い。

そのまま横へ滑り込み、群れの一角を切り裂く。女は呼吸を整え直し、前へ出た。

「烈斬破!」

大剣が横に振り抜かれ、衝撃が円状に広がる。迫っていた低位精霊が一斉に弾き飛ばされる。闇色の靄が霧のように散り、空間が一瞬だけ開いた。その隙を逃さず前へ出る。

「ウィンドスラッシュ」

五連の高速斬撃が走る。衝撃で崩れきらなかった個体を確実に削り取る。女は大剣を振り下ろし、残った塊を叩き潰す。連携は言葉なしで成立していた。

群れは終わらない。奥からさらに押し寄せる。数が増えている。視線を上げる。まとめて削るしかない。

肩に重さを感じながら、息を落ち着けた。使いすぎは避けたい。時間がない。

「空より落ちる風よ重撃となり敵を打ち据えよ――ウインドフォール」

圧縮された風が上空から落ちた。衝撃が地面を叩き、周囲の低位精霊を一斉に吹き飛ばす。土が跳ね、汚染の滓が舞う。女はその衝撃に合わせて前へ出た。間合いを詰め、大剣を振り抜く。衝撃で浮いた個体をまとめて薙ぎ払う。

肩がわずかに落ちる。これ以上の連発は避ける。

残りは数体。動きが鈍い。統制が崩れている。一気に距離を詰めた。風をまとった刃が閃き、二体を切り裂く。最後の一体が跳ねる。女が地を蹴り、上段から叩き潰した。

すべてが崩れ、濁りとなって消えていく。森に静寂が戻る。だが先ほどまでのそれとは違う。戦いの余韻が残る、張り詰めた静けさだった。

二人は同時に距離を取り、互いを見た。剣はまだ下ろさない。敵意はない。ほんの短い沈黙のあと、口を開く。

「……助太刀した」

一言だけ告げた。女は小さく息を吐き、頷く。

「助かった」

やがて互いに名を名乗る。

「……クローディスだ」

女は一拍置いてから、

「ガラティア」

それだけ返した。名を知った瞬間、わずかに空気が緩む。だが警戒は解かない。ここが安全な場所でないことは、互いに理解している。

ガラティアが剣を構え直し、息を整えた。そして口を開く。

「光よ武器に宿り力となれ――エンチャントウエポン」

淡い光が大剣に宿る。間を置かず、

「光よ防具に宿り守りとなれ――エンチャントアーマー」

鎧の表面を光が静かに走った。

それに応じるように、周囲の風が再び集まり直す。剣と身体にまとわりつく流れがわずかに強まる。互いに準備を整えた状態で、二人は森の奥へと視線を向けた。

「奥に行く」

「依頼で来てる」

ガラティアが返す。目的は違う。だが進む先は同じだった。二人は並び、森のさらに奥へと歩き出す。

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