ギルド
ガラティアはギルドの重厚な木の扉へ手を掛けた。
ギィ……
「悪ぃ! 先越された!」
「うわぁ……またかよ!」
扉が開いた途端、賑やかな声が耳へ飛び込んでくる。
笑い声。
鎧のぶつかる音。
片隅の酒場からは景気の良い乾杯の声が響き、受付では次々と冒険者が呼ばれていた。
春月さくらは思わず立ち止まった。
右を見て。
左を見て。
受付を見て。
酒場を見て。
最後は壁一面を埋め尽くす依頼書へ。
「すごい……」
思わず声が漏れた。
「先に報告を済ませてくる」
ガラティアは受付へ向かった。
春月さくらは、依頼書へもう一度視線を向ける。
「依頼って、こんなにたくさんあるんだね!」
目を輝かせながら掲示板を指さす。
「ちょっとアレ見てきてもいいかな?」
「あまり離れるな」
「はーい!」
軽く手を振ると、人混みを縫うように小走りで駆けていった。
クローディスは、その背中を静かに見送る。
「ちょっとすまないが……」
不意に声を掛けられた。
振り向くと、三人組の冒険者が立っていた。
先頭に立つ男は銀色の短髪。
軽装の隙間から覗く左肩には、大きな古傷が左腕まで一直線に走っている。
背には使い込まれた大剣を背負っていた。
「少し話せるか?」
「……何だ」
男は少し申し訳なさそうに言った。
「俺はCランクのバイルってんだが」
親指で後ろの二人を示す。
「今日組んだ即席なんだ」
「あと一人、前衛が足りなくてな」
隣の男が苦笑した。
「このままだと依頼を受けられねぇ」
「条件だけでも聞いてくれ」
クローディスは黙って続きを待つ。
「近場の日帰り」
「報酬は山分け」
「もちろん無理なら断ってくれて構わねぇ」
「クロさん!」
元気な声が飛ぶ。
春月さくらが嬉しそうに小走りで戻ってくる。
男はさくらを見ると、得心したように頷いた。
「仲間と一緒だったか」
「悪いな」
クローディスは短く返す。
「いや、急に声を掛けたのはこっちだ」
男は軽く手を挙げた。
「また縁があったら頼む」
三人組は再び人混みの中へ歩いていった。
その頃、受付ではガラティアの報告が終わっていた。
職員は報告書へ目を通し、頷いた。
「依頼達成を確認しました」
奥へ向かい、ほどなくして小さな革袋を手に戻ってくる。
「依頼主様よりお預かりしていた、今回の報酬です」
「ありがとう」
ガラティアは革袋を受け取り、クローディスたちの元へ戻った。
その時、近くで話していた冒険者たちの声が耳に入る。
「西の山岳も妙だ」
「ああ。ゴブリンが増えてる」
「しかも妙に統率が取れてやがる」
「ただの群れじゃねぇ」
二人はほぼ同時にそちらへ視線を向けた。
冒険者たちは気付く様子もなく話を続ける。
「何かに押し出されているのか……」
「それとも、集められてるのか……」
やがて話題は別の依頼へ移った。
クローディスは掲示板へ歩み寄る。
壁一面に並ぶ依頼書へ目を走らせ、一枚を手に取る。
「西山岳地帯・ゴブリン討伐……」
ガラティアも隣へ歩み寄った。
「ゴブリン討伐か」
クローディスは依頼書を見つめたまま口を開いた。
「西の山岳で何が起きているのか、この目で確認しておきたい」
ガラティアは依頼書へ目を落とした。
しばらく無言で依頼書を見つめる。
やがて静かに息を吐き、小さく頷いた。
「そうか。ここまで一緒に来た何かの縁だ」
「私も同行しよう」
「さくらも行く!」
春月さくらが元気よく手を挙げる。
クローディスはさくらへ視線を向けた。
「パーティー登録をしてくる。ここで少し待っていてくれ」
「うん!」
春月さくらは笑顔で答えた。
二人は受付へ歩を進めた。
「この依頼を受けたい」
受付係は依頼書を受け取り、内容を確認した。
「西山岳地帯・ゴブリン討伐依頼ですね」
クローディスとガラティアは、それぞれ冒険者プレートを差し出す。
受付係は二枚のプレートを確認し、頷いた。
「では、パーティー登録を行います」
二枚のプレートを認証台へ並べる。
淡い光が灯り、すぐに消えた。
「登録が完了しました」
続いて依頼書へ受注印が押される。
「こちらの依頼を受理いたします」
受付係はプレートと依頼書を返した。
「ありがとうございます」
クローディスは依頼書を受け取り、ガラティアと共に受付を離れる。
待っていた春月さくらが駆け寄った。
「終わった?」
「ああ」
クローディスは短く応じた。
「行こう」
三人は人混みを抜け、ギルドの出口へと歩いた。
重厚な木の扉を押し開ける。
昼の日差しが三人を包み込んだ。
街には相変わらず活気が満ちている。
行き交う人々。
荷車を引く商人。
露店から響く呼び込みの声。
ガラティアは通りを見渡した。
「まずは宿を取ろう」
「明日の出発に備える」
クローディスは頷いた。
春月さくらも笑顔で二人の後ろへ並び、新たな依頼へ向けて歩き出した。




