表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/6

第5話「崩壊」

それは、

突然だった。



朝の巡回中、

病棟内に鋭い声が響いた。



「やめてください!」



患者Cの声だった。



慌てて駆けつけると、

部屋の中は異様な空気に包まれていた。



患者Cは、

壁際まで追い詰められている。



その前に立っていたのは——


患者Aだった。




「違うんです、私は——」



患者Aは、

落ち着いた声で何かを説明していた。



だがその内容は、

まったく頭に入ってこなかった。



視線が、

おかしい。




まっすぐ患者Cを見ているのに、

どこか焦点が合っていない。



いや——


違う。



“見ている”のではない。




“測っている”。




「どうしました?」



スタッフの一人が間に入る。



患者Cは、

震えながら言った。



「……この人、さっきからずっと部屋の前にいて……」



「急に入ってきて……何か、変なことを……」




言葉が途切れる。




患者Aは、

静かに首を振った。



「誤解です」




その声は、

あまりにも落ち着いていた。




「少し様子がおかしかったので、

声をかけただけです」




完璧な説明だった。



誰が聞いても、

納得してしまうような。




実際、

他のスタッフもそれ以上は追及しなかった。



「そうでしたか。大丈夫ですよ」




そのまま、

場は収まろうとしていた。




——違う。




何かが、

決定的に違う。




患者Cの表情は、

それを物語っていた。




明らかに、

“恐怖”だった。




ただの勘違いで、

あんな顔はしない。




私は患者Aを見た。




その瞬間、

目が合った。




——笑っている。




ほんの一瞬。




だが、

確かにそう見えた。




すぐに、

いつもの穏やかな表情に戻る。




「失礼しました」



患者Aはそう言って、

ゆっくりと部屋を出ていった。




その背中を見ながら、

確信した。




この人は、

“壊れている”んじゃない。




壊しにきている。





その日から、

病棟の空気は明らかに変わった。




小さなトラブルが増え始めた。



物がなくなる。

言い争いが起きる。

誰かが突然、不安定になる。




どれも、

決定的な証拠にはならない。




だが——



すべての中心に、

あの人がいる気がした。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


人は、

言葉や距離感だけでも壊れていきます。


直接傷つけるだけが、

人を壊す方法ではありません。


この作品で描いている「距離感」については、

noteでもまとめています。


▶ 無料note

https://note.com/kokoroyohaku


▶ カクヨム版

https://kakuyomu.jp/works/2912051597591372804

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ