Chapter 26 : 闇に絡みつく真実の糸
たった一つの疑問が――
すべてを変えてしまうことがある。
そして疑いが生まれた瞬間、
真実への扉は静かに開き始める。
「もう気づいてないのか、レン?」
レンは顔を上げ、驚いた表情でカイを見つめた。青い瞳はまっすぐ彼へ向けられ、その頭の中で何かが初めて形になり始めているようだった。
その様子に気づいたカイは、嬉しそうに笑みを浮かべて続けた。
「ここまでの出来事が全部ただの偶然なんて、あり得ない。」
一瞬言葉を切ると、少し身を乗り出す。
「よく考えてみろ。すべては、お前があの化学薬品を間違って飲んだ日から始まった。そして、その同じ日に……妹のルナが誘拐された。」
レンの目がわずかに見開かれる。
カイはさらに真剣な声で言った。
「もし誘拐犯が最初から全部知っていたとしたら? もしずっとお前を監視していたとしたら?」
二人の間に沈黙が落ちた。
カイの言葉は重かった。
あまりにも重く、レンはすぐには返事ができなかった。
彼はあの日の記憶をゆっくりと思い返す。
工場。
あの薬品。
全身を襲った激痛。
そして、ルナの失踪。
本当にすべてが繋がっていたのだろうか。
あの日、自分は誰かに影から見られていたのだろうか。
数秒の沈黙の後、レンの口元にかすかな笑みが浮かぶ。
それは滅多に見せない笑顔だった。
「……いいだろう。」
カイは不思議そうに眉を上げる。
レンは続けた。
「興味を引くことには成功した。」
そう言って家の中を指差した。
「入れ。」
カイは小さく勝ち誇ったような笑みを浮かべ、そのまま家の中へ入っていった。
───
数分後。
二人はリビングに座っていた。
レンは腕を組んでソファに腰掛け、カイは興味深そうに部屋の中を見回している。
やがてレンが口を開いた。
「お前の推理が正しいなら……犯人は俺が薬品を飲んだ時、工場の中にいたことになる。」
少し考え込みながら続ける。
「あの時間には社員は全員帰っていたはずだ。」
そしてカイを見た。
「つまり……犯人は社員じゃない。」
カイは静かに頷く。
「その通り。」
軽く笑みを浮かべながら言った。
「泥棒だった可能性もある。」
「泥棒?」
「ああ。武器や化学薬品を盗むために工場へ忍び込んでいて、偶然お前を見つけたのかもしれない。」
再び沈黙が流れる。
しかし今度、二人の頭にあるのはただ一つ。
真実。
長い間、闇に隠され続けてきた真実だった。
するとカイが突然言った。
「確かめる方法は一つだけだ。」
レンが眉をひそめる。
「何だ?」
カイは大きく笑った。
「俺たちで工場へ行く。」
「……。」
レンは数秒間じっと彼を見つめた。
「今からか?」
「もちろん。」
カイは当然だと言わんばかりに答える。
「まさか明日まで待つつもりじゃないよな?」
レンはため息をつき、壁の時計へ視線を向けた。
もうかなり遅い時間だった。
「そのやる気は認める。でも今は工場は閉まってる。」
するとカイの笑みはさらに深くなる。
その笑顔を見た瞬間、レンは嫌な予感を覚えた。
「だからこそ都合がいい。」
「……は?」
数秒黙った後、カイは静かに言った。
「忍び込むんだ。」
「お前、本当に頭がおかしい。」
「かもな。」
カイは一切ためらわずに答えた。
「でも好奇心は恐怖より強い。」
レンは今日二度目のため息をついた。
どうしてこんな無茶な計画に付き合うことになったのか、自分でも分からない。
それでも――
心の奥では、自分も真実を知りたかった。
だからこそ――
レンは頷いた。
───
しばらくして、二人は工場へ向かった。
夜はすっかり街を包み込み、
通りにはほとんど人影がない。
そして工場は――
レンの記憶とはまるで別物になっていた。
以前より静かで、
以前よりも威圧感に満ちている。
二人は安全な距離で立ち止まった。
その瞬間、二人は同時に目を見開く。
「……これは多すぎる。」
レンが思わず呟いた。
警備は以前とは比べものにならないほど厳重だった。
門には警備員。
敷地全体を照らす強烈なライト。
至る所に設置された監視カメラ。
レンの事件以来、この工場はまるで要塞へと変わっていた。
カイは唇を噛み、小さく息を吐く。
「予想以上に本気で警備を強化したみたいだな。」
レンも無言で頷いた。
正面から入れば――
数秒で捕まるだろう。
しかし、工場を観察していたその時――
カイの目が鋭く光った。
「見つけた。」
「何を?」
カイは建物の側面を指差す。
レンが視線を向けると――
工場の高い位置に、
小さな窓が一つあった。
地上からはとても届かないほど高い場所。
だからこそ――
そこには警備員が一人も配置されていなかった。
カイの口元に、不敵な笑みが浮かぶ。
一方レンは――
今夜は絶対に何事もなく終わらない。
そんな確信だけが胸の中で大きく膨らんでいた。
つづく
次回――
静寂に包まれた工場で、
レンとカイを待ち受けるものとは……?
そして、二人がそこで見つけるものは、
長い間隠されていた真実へと繋がるのだろうか。
この章を読んでいただき、ありがとうございました。次回もぜひお会いしましょう!




