Chapter 25 : 互いの疑念……そして真実への道
人生には――
真実を知らないままの方が幸せだったと願う瞬間がある。
なぜなら、ある秘密は世界の見え方を変えるだけではない。
信じていた人々の姿さえも変えてしまうからだ。
たった一つの警告。
それだけで、レンの心には消えない疑念が芽生えた。
それ以来、誰を信じるべきなのか。
誰を疑うべきなのか。
その答えすら分からなくなっていた。
一つの答えに辿り着けば、新たな疑問が生まれる。
一歩真実へ近づけば、その先にはさらに深い闇が待っている。
だが――
真実は永遠に隠れ続けることはない。
逃げようとしても、抗おうとしても。
それは確実にレンへと近づいてくる。
彼を待ち受けるのは、求め続けた希望なのか。
それとも――
本当の悪夢の始まりなのか。
「リオを信じるな……絶対に」
カイがそう言い残して去った後、レンは白い病室の中で黙り込んでいた。
瞬きすらしない。
まるで時間そのものが止まってしまったかのようだった。
やがて彼は、かすれるほど小さな声で呟く。
「リオを信じるな……絶対に。あいつは信用できる人間じゃない……」
その言葉をもう一度繰り返す。
まるで、自分自身に言い聞かせるように。
その時だった。
病室のドアが静かに開き、一人の男が姿を現した。
伝説のファイター――リオ。
鋭い眼光。
そしてどこか底知れない笑み。
それだけで人を緊張させるには十分だった。
だがレンは、内心の動揺を隠しながら冷静に問いかける。
「……リオ。俺に何の用だ?」
リオはベッドの横の椅子に腰掛け、足を組みながら微笑んだ。
「よくやったな。驚くほど早く回復したじゃないか。正直、ここまでとは思っていなかった」
レンはわずかに目を見開く。
リオから褒められるなど予想もしていなかった。
しかし返事をする前に、リオは表情を少しだけ引き締めた。
「だが、なぜ立入禁止区域に入った?」
病室の空気が一瞬で重くなる。
「規則違反だということは分かっているだろう?」
レンの胸は激しく鼓動していた。
それでも表情は変えない。
視線を逸らさず、静かに答える。
「……間違って入り込んだだけだ」
リオの反応を見逃すまいと目を凝らす。
だがリオは軽く笑っただけだった。
「そうか。なら信じることにしよう」
そう言うと、彼はゆっくり立ち上がる。
「だが、次に規則を破ったら……真っ先に俺が知ることになる」
そして来た時と同じように、静かな足取りで病室を後にした。
扉が閉まる。
レンはしばらく沈黙した後、鋭い声で呟いた。
「……誰も信じない。みんな嘘つきだ」
◇◇◇
しばらくしてレンは退院した。
夜風は心地よかったが、その心は重いままだった。
質素な自宅へ戻ると、ソファに腰を下ろし、何を考えるでもなく天井を見つめる。
その時――
ピンポーン。
突然、玄関のチャイムが鳴った。
レンはゆっくり立ち上がり、玄関へ向かう。
ドアを開けると、そこには見慣れた顔があった。
「……カイ? こんな遅い時間に何してるんだ?」
カイはどこか意味深な表情を浮かべながら、濃い青色の髪をかき上げる。
「好奇心に負けたんだよ。まだ君の真実を知りたいと思ってる」
そして少し笑った。
「君自身が知らない、その真実をね」
レンは薄く笑う。
「誰がそんなこと言った?」
その声にはどこか諦めが混じっていた。
「興味なんてない。俺が望むのは妹を取り戻すことだけだ。それが終わったらファイターズを辞める。ただそれだけだ」
カイは露骨に肩を落とした。
しかし諦める気はないらしい。
どうすればレンの興味を引けるのか考える。
そして突然、何かを思いついたように眉を上げた。
「もし――」
カイは意味ありげに言う。
「その真実が、妹をさらった犯人と関係しているとしたら?」
レンの表情が変わった。
驚きと戸惑いが入り混じる。
「……もし君の言う通りなら、どうしてそんなことになる?」
その瞬間。
新たな疑問が生まれた。
新たな謎が動き始めた。
そしてレンはまだ知らない。
この疑念が、自分をどこへ導くのかを――。
時には――
真実が恐ろしいのは、それが何を明らかにするかではない。
むしろ、それによって何を疑わされるのかということだ。
そして今夜、レンが手にしたのは答えよりも多くの疑問だった。
謎めいた警告。
募り続ける疑念。
そして、彼をずっと探し求めていたものへ導くかもしれない一本の小さな糸。
あるいは――
それよりも遥かに危険な何かへと繋がるのかもしれない。
だが、どのような真実であろうと、
それはついにレンへ近づき始めているようだった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
この章を楽しんでいただけたなら幸いです。
なぜなら、レンの旅はまだ本当の意味では始まっていないのだから。




