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Chapter 24 : 重い約束……そして真夜中の警告

前書き


静かすぎる夜というものがある。


何も起こらず、ただ静寂だけが流れているように見える夜。


だが時として、その静寂こそが何かが狂い始めている証なのかもしれない。


この章では、一つの約束が交わされ、決して口にしてはならない言葉が胸の内に秘められる。


そして真夜中は、いつも通り訪れるはずだった――。


一分、また一分と時間が過ぎていく。


覚悟してほしい。


本当の危険は、必ずしもその姿を見せるとは限らないのだから。



 蓮が自分の過去を語り終えると、病室にはしばらく静寂が流れた。


 ハルは未だに聞かされた話を整理しきれずにいた。


 一方、カイは黙ったまま蓮を見つめていた。まるで、改めて彼という人間を評価しているかのように。


 そして突然、カイがいつもの鋭い口調で言った。


「リオには何も話すなと言ったな……その約束は守る」


 蓮が顔を上げる。


 ハルも驚いたようにカイを見た。


 だがカイは続けた。


「ただし、一つ条件がある」


 病室に再び沈黙が落ちる。


「条件?」


 蓮が静かに尋ねた。


 カイは即座に答えた。


「俺とハルを守れ。どんな代償を払ってでもな」


 ハルの目が大きく見開かれる。


 だが蓮は黙ったままだった。


 カイは視線を逸らさず続ける。


「お前は強い。俺たちなんかより遥かにな」


「だから、もし俺やハルが本当に危険な目に遭った時は――お前が助けろ」


 蓮はわずかに眉をひそめた。


 しかしカイは止まらない。


「距離なんて関係ない」


「怪我をしていようが関係ない」


「どんな状況だろうと関係ない」


 そして蓮を指差した。


「俺が求めるのはただ一つだ」


「俺たちを守れ」


 その瞬間、病室の空気が凍りついた。


 医療機器の電子音すら消えたように感じられるほどの沈黙。


 それは奇妙な願いだった。


 いや――あまりにも奇妙だった。


 カイは他人に頼るような人間ではない。


 ましてや、自分から助けを求める人間でもない。


 だからこそ。


 蓮とハルの表情には隠しきれない驚きが浮かんでいた。


 数秒が過ぎる。


 十秒。


 一分。


 時間が経つにつれ、蓮の表情に迷いが現れ始めた。


 皆が知る限り――


 彼がこんな顔を見せるのは初めてだった。


 いつものような冷静さもない。


 感情を押し殺した無表情でもない。


 考えていた。


 いや、自分自身と戦っていた。


(本当にできるのか……?)


(ルナすら救えない俺が、他の誰かを守れるのか……?)


 蓮は拳を強く握り締めた。


 そして長い息を吐く。


 およそ三分もの沈黙の末、ようやく顔を上げた。


「……分かった」


 再び静寂が訪れる。


 だが今度は違った。


 それはまるで、言葉にされない契約が結ばれた瞬間だった。


 カイは静かに頷く。


「それでいい」


 そう言って扉へ向かった。


「俺は帰る」


 それだけを残し、病室を後にする。


 ハルはしばらくその場に立ち尽くしていた。


 まだ信じられなかった。


 蓮――


 どんなことがあっても揺るがないように見えたあの男が。


 迷ったのだ。


 たった一度だけだとしても。


 ハルはしばらく蓮を見つめた後、静かに病室を出た。


 ◇ ◇ ◇


 病室を出た二人は、病院の長い廊下を歩いていた。


 しばらく進んだところで、カイが突然立ち止まる。


 そして振り返った。


「リオには絶対に話すな」


 ハルは肩を震わせた。


「わ、分かった……」


 だがカイは鋭い視線のまま続ける。


「蓮が約束を破った時を除いてな」


 ハルは唾を飲み込んだ。


「……了解」


 その返事を聞いて、カイは再び歩き出した。


 やがて二人は別々の方向へと去っていく。


 だが今夜の出来事だけは、二人の頭から離れなかった。


 ◇ ◇ ◇


 病院を出ようとしたその時――


 廊下の先に見慣れた人物が現れた。


 暗い赤髪。


 鋭い眼差し。


 そして常に浮かべられた謎めいた笑み。


 リオだった。


 カイの足が一瞬止まる。


 一方のリオはいつもの笑みを浮かべながら言った。


「試験、お疲れ様」


 ゆっくりと歩み寄る。


「よくやった」


 そして続けた。


「だが、俺はもっとやれると思っていたがな」


 普通なら。


 ファイターズの隊員であれば誰だって誇らしく思う言葉だった。


 だがカイは違う。


 彼は冷たい目でリオを見つめた。


 そこには怒りにも似た感情が宿っている。


 そして――


 完全に無視した。


 一言も返さず、そのまま横を通り過ぎる。


 近くにいた看護師の一人が目を丸くした。


 誰もリオをそんな風に扱わない。


 いや、扱えるはずがない。


 だが最も奇妙だったのは――


 リオが怒らなかったことだ。


 彼はその場に立ち尽くしたまま、小さく呟いた。


「……無意味だ」


 その顔には相変わらず謎めいた笑みが浮かんでいる。


 そして静かに歩き去っていった。


 ◇ ◇ ◇


 その夜。


 蓮は病院のベッドに横たわったまま、壁の時計を見つめていた。


 針はゆっくりと真夜中へ近づいていく。


 23:58


 23:59


 そして――


 00:00


 蓮は目を見開いた。


 だが、端末は鳴らない。


 一分。


 二分。


 五分。


 それでも何も起こらなかった。


 蓮の鼓動が速くなる。


 ルナが攫われて以来――


 犯人は一度たりとも連絡を欠かしたことがなかった。


 一度も。


 蓮はゆっくりと体を起こした。


 胸の奥に重苦しい不安が広がっていく。


(何かあったのか……?)


(ルナに何かあったのか……?)


 奥歯を強く噛み締める。


 そして目を閉じた。


「……いや」


 小さく呟く。


「犯人の方に何かあっただけかもしれない」


 そう自分に言い聞かせる。


「そうであってほしいな……」


 そして冷たい声で続けた。


「特に、それが最悪の出来事ならな」


 その瞬間――


 病室の扉が勢いよく開かれた。


 激しい音を立てて壁にぶつかる。


 蓮は即座に顔を上げた。


 そこに立っていたのは――


 カイだった。


 息を切らしている。


 いつもの彼らしくないほど疲れ切った様子。


 まるで何かが起きたかのように。


 だが数秒後には、再び鋭い表情を取り戻した。


 そして真っ直ぐ蓮を見つめる。


 次の瞬間、彼はたった一言だけ告げた――。

後書き


だが、その約束が何をもたらすのかを、まだ誰も知らない。


深夜に訪れるはずだった日常は崩れ去り、不穏な影が静かに動き始める。


そして、カイが告げようとしている言葉とは何なのか――。


その答えは、もうすぐ明らかになる。

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