第三十話:高橋さんのカッコいいバイカー姿を撮影する
さて、その後も土曜は、午前中、仕事の勉強。
午後に高橋さんの家に泊りで行くことにした。
もう、とにかく元気になるまで付き合ってやる。
撮影会は当分やめだ。
親には会社の先輩と麻雀をやる、断れないと言ってある。
麻雀なんて知らないけどな。
バブル親父は、「お、麻雀か。最近はやってないが、昔はよく同僚と徹夜麻雀をやったぞ。最近の若い連中は一人でテレビゲームなんぞをやってる。だから人と付き合えない根性無しになるんだ。麻雀は四人でやるから、コミュニケーション能力にも役に立つ。ちなみに勝つコツは気合と根性だぞ」と言いやがった。
もういいよ、気合と根性は。
とりあえず、都電での訓練開始。
西ヶ原四丁目駅から新庚申塚駅。
わずか一区間。
しかも短い。
一分もかからない。
しかし、高橋さんはその一分もかからない間に息が荒くなり、手足が震え、めまいを起こし、駅に降りて吐いてしまった。
一応、念のためビニール袋を用意していたのだが、本当に使うことになるとは。
ちゃんと薬も飲んでいるんだけどなあ。
「もう、私、だめ……」
すっかり落ち込む高橋さんと一緒に家に戻る。
もちろん徒歩。
「申し訳ありません。すみません」
ただ、俺に謝り続ける高橋さん。痛々しい。
「いえ、謝る必要なんてありませんよ。気長にいきましょう」
俺は慰めるが、正直、本当に治るのだろうかと不安にもなってくる。
ただ、歩道を歩いているときは全然普通の人なんだよなあ、外見は。
後、家の中に居るときは比較的元気なんだよな。
料理とか作ってくれる。ありがとうございます。
テレビを見て笑ったりもする。
夜の方も結構、積極的なんだな、彼女。
俺としては嬉しいのだが。
ただ、朝までぎゅうっと抱きついてくるんだな。
そういうのが好きみたい。
人間抱き枕の俺。嬉しいけど苦しい。しかし、苦しいけど嬉しいぞ。
その後も毎週訓練を続けるが、うまくいかない。
都バスや都営地下鉄にも乗るが、やっぱり一区間でも気分が悪くなってしまう。
こうなったらと、近くの十階建てマンションに、ちょっと住民の方には悪いが無断で入ってエレベーターに乗って最上階を目指した。
しかし、一階のロビーですでに高橋さんの息が荒い。
緊張して、手が震えている。
結局、これもすぐに気持ちが悪くなって、五階で降りるはめに。
俺たち二人以外では住民の方がお一人乗っていただけなんだけどなあ。
これじゃあ、一階にしか住めないじゃないか。
すっかり落ち込んで無言で非常階段を降りる高橋さんを見て、俺は悲しくなった。
彼女、すっかりしょげている。
それでも平日は一人で地下鉄西巣鴨駅のホームまで降りたり、わざと一番混んでいる時間のスーパーマーケットに入って行列に並んでみたりと本人なりに努力を続けているのだが、どうも気分が悪くなってしまうようだ。
図書館に入っても、調子が悪くなってめまいを起こす始末。
うーむ、なんで以前は一時的に元気だったのだろうか。
薬も飲まずに十分間とは言え、池袋まで行けたのに。
その後もはしゃぎまくってたなあ。
そうだ、思い出したぞ。
あの頃は撮影会を頻繁に行っていたなあ。
やたらアパートに押し掛けては高橋さんの優しさにつけこんで、エロい格好をさせてスマホで撮影するというマジ最低男の神聖変態帝国皇帝の俺であった。
よし、あれをもう一度やってみたらいいんだ。
もっとエロい格好になってもらって撮影しまくればいいんだ!
いっそ、全裸撮影だ! などど馬鹿な事を考える神聖変態帝国皇帝の俺。
そんな事、やる気は起きないな。
だいたい、俺のほうが萎えてしまう。
高橋さんを虐待していたのではと今では考えているのだからな。
気が弱くて断ることが出来ない高橋さんを半ば強制的にエロい衣装を着させて、卑猥なポーズをさせて撮影するなどやりたい放題。
そんなことはしたくない。
他に良い方法はないのだろうか。
ちょっと、ネットで検索。
うーむ、アホな俺なりの解釈によると、やはり脳内のドーパミンやらセロトニンとかいう物質が不足するとうつ病やパニック障害などの精神病になったりするようだ。
で、この物質、褒められると脳内に放出されると書いてある。
そういや、撮影会の時は、高橋さんを散々褒めまくったなあ。
事実を言っただけなんだがな。
しかし、あまり褒めすぎるのもよくないとも書かれている。
どっちやねん!
しかし、けなされるよりは褒められるほうが、本人は気持ちいいのではないかな。
と、ここまで考えて閃いた。
エロい格好ではなく、カッコいい格好をしてもらえれば良いのではないだろうか。
それに俺は女性のカッコいい姿も好きなんだよな。
俺の脳裏にカッコいいライダースジャケットを着てバイクを疾走させる、今は亡き従妹のお姉さんの颯爽とした姿が思い浮かんだ。
そう言えば、高橋さんにも一度そんな姿になってもらったんだよな。
但し、あれはキャットスーツの下は全裸になれとか、ファスナー下げて胸の谷間を見せろとか、鬼畜な発言を言いたい放題。
あれも気の弱い高橋さんを辱め虐待していたと今は思う、反省!
と言うわけで、高橋さんに提案してみた。
素敵なライダースジャケットにジーンズを履き、バイクに乗ったカッコいい姿を撮影するのはどうですかと。
「うん、面白そう。けど、私、バイクの免許とか持ってないけど」
「いや、走らせる必要はないんじゃないですか」
「オートバイも持ってないけど」
「うちの親父のを持ってきます」
というわけでライダースジャケットをネットで購入。
けっこう高いっすね。
まあ、本格派だからなあ。
エロ衣装なんて使い捨てだから安いのが多いけど。
後、ジーンズとブーツは本人の物を使用と。
今日は平日の金曜日。
明日の土曜日に臨時に出勤することになったので振替休日として休むことにした。
そういうわけで、午後にアパートの隣の空地で久々に素人アイドル撮影会の開始。
今回はデジカメを購入して撮影することにした。
スマホだと、高橋さんが動画流出とか怖がっているのを考慮した結果だ。
顔はNGかと思い、予備のヘルメットを持ってきて被ってもらおうと思っていた。
グローブも用意。
しかし、デジカメならパソコンにつなげなければ画像流出も無いので、顔も撮影OKとなった。
麗しいお顔も撮影できる。
俺もなんか嬉しくなってきたぞ。
まあ、仮にネットで流れてしまったとしても、単なるバイクと一緒に写っている女性の画像に過ぎないもんな。特に問題はないでしょう。
バブル親父には久々にツーリングに行きたくなったから貸してくれと言い訳。
バイクを走らせて高橋さんのアパートの隣の空地に停める。
そして、そのバイクの前にカッコいい黒いライダースジャケットを着てブルージーンズ姿、茶色のブーツを履いた高橋さんがいるわけだ。
ウヒョー! カッコいい! ワイルド! とにかく足が長いからカッコいいんだよな。
いろいろとカッコいいポーズを取ってもらう。
普通にバイクに乗ってもらったり、バイクに寄っかかって長い脚を見せたりと。
まあ、高橋さんがバイクに乗って後ろから撮影するとお尻が突き出した感じでちょっとセクシーな画像になるんだがそれくらいはいいでしょう。
俺はカッコいい、素敵、美しいと連発。
高橋さんもまんざらでもないようだ。
実際、カッコいいんだよなあ。
「高橋さん、どうですか、気分は」
「うん、なんか調子が良くなった感じがする」
ニコニコ顔の高橋さん。
これはいい兆候ではないか。
しかし、なぜ撮影されると元気が出るのか。
謎である。
脳内にどんな変化が起きているのであろうか。
エロは関係ないな。
やっぱり、女性は容姿を褒められると嬉しくなって元気がでるのかなあ。
いや男も似たようなもんだよな。
ブラック企業時代でも、ごくたまに褒められた時は仕事へのモチベーションが上がったし。
やっぱ、脳内ドーパミン放出のせいだろうか。
よくわからん。
「ねえ、佐藤さん。いっそこのバイクでどっかへ連れてってくれないかしら、だめ?」
なんとなく色っぽい感じでご依頼してくる高橋女神様。
これはますますいい傾向ではないだろうか。
池袋デートで俺をからかっていた時を思い出す。
元気が出てきた証拠である。
とは言うものの、高橋さんの体調を考えると、あまり遠出はよくないな。
本当は定番の江の島やら軽井沢とかに連れて行ってやりたいのだが。
時間も無いし、俺も明日は仕事があるしと。
うーむ、スカイツリーくらいにすっかな。
三十分くらいでいける。
「高橋さん、スカイツリーって行ったことあります」
「ないです」
「じゃあ、行ってみませんか。そこで、エレベーターに乗ってみて訓練しましょう」
「うん」
さて、スカイツリーを目指す。
後ろに乗った高橋さんがぎゅうっと抱き着いてきて、背中にデカい胸があたってきょどる俺。
しかし、これ俺が子供の頃、妄想していたシチュエーションだよなあ。
いやあ、幸せだ。
しかも、二人乗りなんて大学生の頃、久々に会った高校時代の類友を乗せたくらいだ。
途中、赤信号で停まると高橋さんが話しかけてくる。
「ねえ、もっとスピード出せないかしら」
「えーと、そうですねえ。もう少し出してみましょうか」
「佐藤さん、行けー! ゴーゴー!」
なんかハイになってるぞ、高橋さん。
しかし、胸をグイグイ背中に押し付けてくるので落ち着かない。
スピードを出すと言いながらも、なるべく安全運転。
目的地のスカイツリーに到着。
さて、エレベーター訓練だ。
高橋さんが深呼吸している。
「今日は薬の方もやや少なめにしてるの」
そして、東京スカイツリー天望デッキまでエレベーターで上る。
けっこう人が乗っていて混んでいるので、大丈夫かなあと高橋さんを見るが全然平気そうだ。
到着して降りる。
「どうでした」
「うん、全然平気。どうしたんだろう、私」
おお、うまくいってるではないか。
続いて、そこから東京スカイツリー天望回廊まで、またエレベーターで行くが高橋さん全く平気。
エレベーターから降りて、「やったあ」と大喜びの高橋さん。
俺に抱き着いてくる。
周りの人たちは、なんだこの二人って見ているが、どうでもいいや。
「全然気持ち悪くなかった、どうしてなんだろう」
「うーん、よくわからないけど、とりあえず成功ってことでいいんじゃないですか」
「うん、佐藤さん、本当にありがとうございます」
ニコニコ顔の高橋さん。
そう、この笑顔が見たかったんだ。
しかし、なんで大丈夫なのだろうか。
うーん、撮影効果? 写真に撮られたからって元気になるのか。
確かに前回もそうだったんだが。
本人も撮影されると気持ちがいいって言ってたが、あれは神聖変態帝国皇帝こと俺に話を合わせていただけと思ったのだが。
それともバイクに乗ったり、こんな高い塔に登ったから普段と全然違う雰囲気なので、逆に平気になるのだろうか。不思議な病気だ。
けど、本人、元気なんでそれだけで俺は嬉しい。
で、この天望回廊。
高すぎて怖い。
ビクビクしながら歩く俺に対してスタスタと歩く高橋さん。
すっかり機嫌がいい。
俺がおそるおそる外の風景を見てるのを笑う高橋さん。
うん、それでいいんだ。
充分、展望台で楽しんだ後、またエレベーターで降りる。
一階に到着。
「大成功!」とぴょんぴょん飛び跳ねる高橋さん。
かわいい。
「ありがとう、佐藤さん。まだ、私、大丈夫ってことですよね」
「そうですよ、俺がビビッてた展望台で全然平気だったじゃないですか。この病気、治りますよ」
「そうよね。私、頑張ったわ。とにかくこれからも努力します。佐藤さん、よろしくね」
「はい、わかりました」
とにかく、理由はわからんが、俺としては高橋さんが自信をつけていってもらえればそれでいいんだ。
「じゃあ、帰るとしますか」
しかし、高橋さん、何か考え事をしている。
「佐藤さんって、確か、明日土曜は出勤でしたよね」
「ええ、会社の都合で臨時ですけど」
「そう……」
また、なんか考え事をしている高橋さん。
「せっかくここまで来たんだから、周辺を散策しない」
「いいですよ」
ここら辺だと隅田公園とか浅草寺かな。
俺がバイクを置いてある駐車場に向かおうとすると、高橋さんが俺の腕を掴む。
「歩きましょうよ」
「はあ」
高橋さん、主導で散歩。
なんだ、どこへ行くのだろうか。
まあ、本人、すごく機嫌がよさそうなのでいいか。
高橋さんがズンズンと歩いていく。
どこへ行くのだろう。
この方向はJR錦糸町駅だな。
なんか面白い場所あったけ。
ちょっとスマホで確認。「すみだ北斎美術館」ってのがあった。高橋さん葛飾北斎に興味があるんか。
他には、「王貞治のふるさと墨田」ってのがあった。野球ファンだっけ、彼女。王貞治ってかなり古くね。
途中でコンビニへ寄る彼女、「外で待ってて」と言うので、何となく手持ち無沙汰で待つ俺。
また、副作用でトイレかなと思ってたらすぐに出てきた。
で、またスタスタと歩き始める。
どこへ行くんじゃ。
「高橋さん、どこへ行くの」
俺の質問に振り返って、ニコニコ笑顔の高橋さん。
しかし、この笑顔は女神ではなく、そうサキュバス。
いつの間にか変身。
なんだこの淫靡な雰囲気は。
突然、立ち止まる高橋さん。
「私、本当に佐藤さんに感謝しているの」
「いや、俺としても高橋さんが元気になるのは嬉しいです」
「うん、今日は本当に身体の調子がいいの。佐藤さんは?」
「え、俺は全然、元気ですけど」
「そう、けど、ちょっと疲れてない。歩いてばかりで」
「ええ、まあ」
なにやら、近づいてきて俺の腕に触って、デカい胸を押し付けてくる。
「だから、ねえ、今、休憩しましょうよ」
休憩って、あれ気がつくとそこにはラブホテルがあるぞ。
きょどる俺。そういや、俺、ラブホ童貞だったな。
俺を上目遣いで色っぽい目で見る高橋さん。
ポケットから小さい紙袋を取り出す。
「さっき、コンビニで買った新品よ」
え、まさか。
「ねえ、いいでしょ。私、佐藤様の言うことなら、なんでも聞きますから。されるがままになってもいいの。私のこと好きにしていいのよ。一切、逆らわないわ。それに、今日、メイドの高橋楓も頑張りましたから、ご主人様からたくさんご褒美を下さいませ」
おいおいおい、また何を言い出すんだ、この人。
そのまま、俺は高橋サキュバスさんに引っ張られラブホテルへと吸い込まれた。
いやあ、疲れました。
隣で静かに眠る、サキュバスから女神様にまた変身された高橋さん。
全裸でぎゅうっと俺の身体に抱きついてます。
しかし、ラブホテルってコスプレ用の衣装も用意されてるんですね。
知らんかった。オプション料金が必要ですが。
高橋サキュバスさん、なんでも言うこと聞いてくださるようなんで、バニーガールの格好をしていただきました。もちろん、黒いストッキング。
後、彼女、声がデカいですね。
いつもは抑えていたんですね。
まあ、あの安っぽいアパートじゃあ、デカい声出せないよね。
近所迷惑だよなあ。
気がつけば六時間経ってました。
されるがままになったのは俺の方か。
さて、休憩終了と。
ラブホから出ると、午後十時、すっかり夜だ。
いまだ、ご機嫌の高橋女神様。
ちょっと遅い夕食を取ろうと、飲み屋街を歩く。
「また、バイクでどっかへ連れてってくれるかしら」
「いいですよ」
「ありがとう」
ニコニコ顔で俺と腕を組んでくる高橋さん。
その高橋さんの足が突然止まった。




