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月からの使者 創世編  作者: 朝太郎
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光の間―星の道にて

気付けばそこにいた。

「お前はなんのために生きている」

そしてまた謎の影がそこにいた。

「お前は……アルルじゃないのか」

もう一人の自分。自然と脳裏を過ぎる言葉が頭から離れない。雪原を彷徨っていたクロノスの前にいた者とは別なようだ。アルビノの力と覚醒、この言葉も強く頭から離れない。目の前の影はクロノスが見上げなければいけないほどの巨大なものだった。シルエットだけで見るなら空を支えられる柱とでも表現できなくもない。

だが、それは事実とは反するクロノス個人のイメージだ。クロノスはこの目の前に現れる彼らについてなにも知らない。知ることさえ拒まれていた。ただ、一つ。クロノアのことを知れ、それだけを口にしてきた連中だ。

「俺たちが何者など、お前にはどうでもいいはずだ」

巨大な影はそう言った。

「俺たちはお前を見定めるためにここにいる」

次の瞬間、目の前の影が変化した。今度は二頭の巨大な獣のシルエットだ。獅子の体躯は体毛の一本までも完全に目視できる。その背後に見たこともある人型のシルエットが四つ、こちらは各々手になにか持っているようだった。声も変わる。どれも力強い意志を感じた。

「わたしたちは事象神。そして、もう一人のお前自身だ」

そしてまた変わる。彼らは順番にクロノスを見つめる。

「わたしたちはあなたと共に始まり、終わる存在……」

「俺はなにもしていない」

どう反応していいのか分からない。クロノスからなにが始まったのか?

言われても覚えがない。それに終わるという意味も理解不能だ。

「人は生まれながらにして始まりから終わるまでの道筋が定められている。それが創造主たるエイジアスが与えた道だ。本人は無自覚のまま、自分の意思で考え、他人の言葉を受け、生き続ける。苦難の道を進んだ先にある幸福を手に入れるために、人々は必死に生きるものだ。だが、お前は違う。お前はクロノア・ルナリアによって生み出された。エイジアスの道が与えられなかった唯一の存在だ」

「その話を俺が聞いたところでなにも起きやしない」

「お前の意思など関係ない。お前自身が動けばそれだけで、全てが救われる」

「俺のやることで世界が救われるだと? 」

「エイジアスというたった一つの闇に対抗するためにお前という光は生み出された。クロノア・ルナリアは未来のこの瞬間を見越してお前という存在に全てを托した。過去、エイジアスはお前に何度も接触を図ろうとした。だが、クロノア・ルナリアがこれを阻んだ。お前を守ることで、近い未来自分が壊してしまうこの世界を救うために闇に全てを捧げた」

「クロノアが俺を助けただと……」

「アルルの言葉の意味をもう一度考えろ、いまのお前ならわかるはずだ」

「ま、待ってくれ……」

「お前のやることがわかったならいつまでも立ち止まるな。彼女はすでにエイジアスに呑みこまれた」

クロノアが負けた? 誰よりも強く完璧に物事を遂行するクリスタル王国が生み出した最強の魔術師。彼女がなにを考えているのか、それに付き合わされることに嫌だと思わないことはなかった。それでも怨みはしなかった。殺すことにも抵抗を覚えるほどに大切だったのは確かだ。

しかし、アルビノとして覚醒を果たした彼女を見てから自分の中でなにかが崩れ落ちていく感覚が次第に彼女との距離を開けていった。

姉という存在がクロノスを苦しめたのは確かだ。彼女がいたから自分はここまで廃れたのだと叫んでもよかった。

だが、ここまでの話を聞かされていまの同じことが思えるだろうか?

見捨てることが、卑劣になることが、その行動が破綻してようが、目の前の存在たちの言葉が正真正銘の答えだとしたら、クロノス・ルナリアという存在はどういう答えを言えばいいのか。

「クロノア……」

「彼女がこの世の全ての闇を背負うように、お前の背には全ての光が乗っている。対極の宿命を持ちながら、求めている者は同じものだ。お前に彼女の意思を叶える気持ちがあるなら、お前が正しいであろう姿をわたしたちに見せてみろ」

「お前たち……」

もしかしたら、最初から答えはあったのかもしれない。だとしたら、なんと滑稽なことだろうか。そして、アルルの言葉の意味が少しだけわかったような気がした。未来というものに興味がわいた。それほどまでに、自分は現実から目を背けていたというのか? 全くもってその通りかもしれない。


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