光の間――星の泉にて
意識してここにくるのは、初めてだった。ここにくることが問題解決になるのかなんて、関係なくただ、これまでの体験からそうさせた。
「お前たちに聞きたいことがある」
目の前の美女に、言葉を投げた。
「あなたから来るなんて珍しいですね」
アルルはそう返した。
赤髪の翼の持つ美女は、以前とであった時とは違い、神聖な雰囲気を発しながら目の前に立っている。
アルル・スフォルツァンド・ラヴァー。
異世界で出会った美女だった。だが、この雰囲気は人間が纏うものではない。
その背後に薄っすらと潜んでいる無形の気配になにかが弾けた。人間が持つ当たり前のことをクロノスは叫んだ。
「お前たちはなんだ? その姿もそうだが、俺は一体なにをするために生まれてきたのか教えろ!」
「月の使者、あなたはまだ気が付かないのですね」
赤髪の美女が言った。淡々とした口調には呆れているように見える。これから始まり、ガーランド帝国で数回、クロノスに話しかけてきた。この世界に呼んでは、一方的に告げていた。クロノスが変わることで世界が救われると。彼女の本当の気持ちを知っていると。
「わたしたちのことを知るよりもあなたは自らの姉のことを理解しなければいけません」
「お前の問いかけは飽きた。俺は姉のことを理解している。馬鹿げたことをする姉は世界の敵だ」
「いいえ、あなたはなにも理解していないし、なにも理解しようとしていない。言葉の裏に隠された彼女の本心をわからないのは辛いことですね。わたしが言えることは目に見えるものだけを真実だと思わないことです」
「言葉の裏に隠された本心だと……」
「どうせ考えても、いまのクロノスさんには無理ですよ。それよりも、あなたの質問に答えましょう」
初めて、アルルの瞳が色濃くなるのを見た。言葉。それを知ることによって、なにかが起こる気がした。変化が欲しかった。なにも知らないのが嫌だった。だが、彼女の言葉は期待を裏切った。
「あなたはクロノア・ルナリアによって生み出された命です」
頭の中が真っ白になった。クロノスは強張る体を、激しく打ち付ける心臓に必死に語りかけた。息が苦しいと思った直後に、膝から崩れ落ちた。
ガクガクと震えては、力が入る気がしない。アルルはなんと言ったのか、思い出せなくなっていた。勝手な物言いだとしたら冗談でも激怒している。彼女に“生み出された命”と言っていたか? 矛盾よりも質が悪い戯言にギチギチと歯の軋む音が響いた。流れ込んでくる思考の渦に耐え切れず、クロノスは頭を床に叩きつけた。
「なんだと……」
受け入れられない因子を多く含んでいる。だから、クロノスはまっすぐにアルルを見ることができなくなった。
「彼女が母体の中で命を自覚した時、創造主はその声を届けた。それは逃れられない宿命として告げられた呪いとなって彼女の体に刻まれた。人類を滅ぼす破壊者とした」
アルルの言葉を信じられず、クロノスは殺意に満ちた瞳で相手を睨んだ。
「クロノス・ルナリア。あなたは彼女が世界に托した希望の光として、母体の中で作り上げた最後の希望なのです」
「ふざけるな!」
人の命を簡単に掻き消すほどの波動の中で、アルルは表情を一変させた。
「ふざけているのはあなたですよ。この場所はなんのためにあるのか、誰の言葉が真実なのか、あなたの姉はなにを思ってあなたを生み出したのか、どうしてこんな事態を引き起こしたのか、あなたの友はどうしてその隣に立っているのか――」
もはや、アルルの話に耳を貸すことも止めていた。事実でも受け入れられない。この世界のこと、真実の中の真実、クロノアの考え、レンの考え、どれもこれもクロノスにはわからない。世界は自分を置いて動いている。そういう風に感じるから。これが自分の運命だと宣告されたような気分にさせられる。だが、それをアルルに訴えたところでどうにかなるなんて思うほど愚かではない。誰にも分からないから運命は存在する。無限の可能性が未来を創り上げることになる。
「……俺の知ったことじゃない」
「考えなさい。クロノス・ルナリア。あなたならわかるはずです」
アルルは淡々とした声に、背後にいるなにかもクロノスに向かって強いメッセージをぶつけてきているように感じた。
「アルビノとはなにか。自分とはなにか。あなたは知らなくてはならない。全ての答えを知った時、あなたはわたしたちの加護を受けることになる」
「なにを言って……」
「わたしたち神々はあなたと共に生きることになる」




