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悪路王事件

「それでは、ご説明いたします」

 サナがパソコンを操作すると、画面は日本全体図から関東地方を拡大。そして、ある地点に赤印が点灯する。

「事件は、今から二週間ほど前。東京都心で、一人の男性が殺害されたことに始まります」

「東京? 悪路王あくろおうとか言うから、てっきり岩手辺りかと思ってたけど」

 サナの発言に、鈴鹿は少し意外な顔をする。

「はい。我々も調査をしましたが、始まりは、この事件だと考えています」

「ふむ。続けて」

「被害者は妖怪なのですが、事件は人間社会で起きました。発見されたのは、夜中の一時頃。その時にはすでに死亡しており、背中には致命傷となった大きな切り傷があったそうです。これは、後の調査で、長く鋭い刃物によって付けられた傷であることがわかっています」

「死体を発見したのは、妖怪?」

「いえ。人間です」

「そうなの? 妖怪の死体を発見して、よく騒ぎにならなかったね」

「被害者は、人間社会で生活をするために人間に化けていました。発見された時も、人間の姿だったそうです」

「へえ~。死んでも本性を現さなかったなんて、結構な能力者だったんだ」

 その鈴鹿の言葉に、ミュンヒが応じる。

「鈴鹿様。最近は、そういう道具があるんです」

「ん? どういう道具?」

変化へんげが解けないようにする道具です。意識を失っても大丈夫なように、人間社会で生活をする変化者へんげものたちには、必需品となっているんですよ。中でも、最近に発売された物は優秀らしくて、死んでも一週間は大丈夫という宣伝でしたが。この被害者が持っていたのは、それだったみたいですね」

「はあ~。そんな物があるんだ」

 感心する鈴鹿に、サナが事件の説明を続ける。

「はい。その道具のおかげで、被害者の正体は知られずに済みました。ただ、そのせいで、妖警ようけいの動きが遅れてしまったということはありますが……」

 『妖警ようけい』。それは、妖怪社会における警察機関である。人間社会同様、妖怪にとっても、統一された秩序がある方が生活はしやすい。それを維持していくための組織だった。

 ちなみに、妖警とは、人間社会から見た妖怪警察の名称。妖怪たちからは、単に警察と呼ばれている。そして、逆に、人間社会の警察のことを、彼らは『人警にんけい』と呼んでいた。

「事件を妖警が知ったのは、被害者の友人、こちらも妖怪ですが。その人が、テレビのニュースで事件を知って、妖警に通報をしてくれたおかげでして。それがなければ、もっと対応が遅れていたかもしれません」

 サナがそう言うと、地図に新たな赤印が一つ、二つと発生していく。すべてが東京都内にあるが、かなりの広範囲に散らばっていた。

「その翌日に、四人。変化者へんげものの死体が、発見されています。こちらも全員が男性で、第一被害者と同日の夜に殺されたことがわかっています。発見場所は、野外。いずれも、深夜に一人のところを襲われたようです」

「その人たちって、退魔師に見つかって、退治されただけじゃないの?」

「いえ。それならば、死体をそのままにはしないはずです。それに、妖警にも一往の連絡はするでしょうし」

「それは、そうか。じゃあ、それらの事件が、同一犯によるものだという理由は?」

「一つの理由としては、傷痕に残っていた残留妖気です。それが、五人の被害者で一致していました」

「傷痕に妖気が残っていたのか……。危険を冒してまで妖術を使うとは考えにくいし、妖刀使いの可能性がある?」

「はい。今、得られている情報から判断して、その可能性は高いと思います」

 鈴鹿の言う妖刀とは、恐ろしいほどに切れ味が鋭い刀という意味ではなく、長い年月を経た物や多くの人を斬ったことで、妖力を得た刀の意味である。

 では、なぜ傷痕に妖気が残っていたら、犯人が妖刀使いの可能性があるのか。

 まず、『妖気』もしくは『妖力』のどちらでも構わないが、それは『気』や『魔力』といった超常的なエネルギーと同種の物である。炎や水を発生させたり、治癒能力を高めたり、肉体そのものを強化したりと、そういった場合に妖気は多く使われる。

 今回の事件であるが、被害者たちは人間に化け、人間社会で生活をしていた。そこには、少なからず退魔を生業としている者たちがいるはずである。そんな中で、相手に致命傷を与えるような妖術を使用すれば、自分の存在を教えるようなものだ。しかし、犯人は、彼らに気付かれることなく、五人も殺害している。

 妖術を使わず、傷痕に妖気が残る。そして、大きな刃物傷。妖刀を使ったと考えるのが、妥当な線であった。

「その妖気を辿って……は、できていないと」

「はい。おそらく何らかの方法で、使用するとき以外は封じているのではないかと」

「なるほどね。それもあって、あたしに連絡したんだ」

 鈴鹿がミュンヒの方を見ると、彼はそれに答えて言った。

「はい。もし断られても、顕明連けんみょうれんの力を貸して頂こうと考えていました」

「まあ、占いよりかは確実だからね」

 鈴鹿の持つ『顕明連』には、特殊な能力がある。それは、朝日に刀身を当てることで『三千大千世界さんぜんだいせんせかい』、この世のすべてを見通せるというものだ。ミュンヒは、その力を使って、犯人の居場所を突き止めようと考えていたのである。

「それで、その後はどうなっているの? 手紙では、村が三つだか、襲われたって書いてあったけど」

 鈴鹿の問いに、サナは説明を再開する。

「合計五人、彼らを殺害した日から三日間は、犯人に動きはありませんでした。殺しに満足していたのか、それともニュースを見て行動を控えていたのかは不明です。ですが、四日目。被害が一気に大きくなります」

 ディスプレイの地図上に、新しい赤印が発生する。そこは東京から離れ、山梨県に少し入った山の中であった。

「ここで、一つの村が襲われます。化け狸の村だったんですが。被害は大きく、死者が三十四名、重傷が三名、軽傷が八名。殺害されたのは、全員が男性で、戦士として戦った者たちです。重軽傷者は、その戦闘に巻き込まれた女子供や老人たちでした」

「ここでも、男か……。あ、でも、戦士を狙った可能性も?」

「この村での被害から見ると、そう考えられます。ただ、東京の五人は、戦士ではないようです」

「ふむ」

 さらに、赤印が一つ。同じ山梨県内だが、今度は長野との県境に近い場所だった。

「狸の村が襲われてから、二日後。今度は、鬼の村が襲われます」

「鬼の村!?」

 鈴鹿が、少し驚いた声で聞き返す。

「はい。鬼の村です」

「よくも、そんな所を。命知らずにもほどがあるでしょ」

 鈴鹿の言葉も、最もである。

 妖怪の代表格として有名な鬼であるが、彼らは強い。術を使うことは少々苦手としているが、それを補うに余るほどの強靭な肉体と怪力を持ち、戦闘能力は高いのだ。そんな彼らに、ただ戦いを挑むわけではなく、その村を襲うなどは普通では考えられないことだった。

「さすがに、この時は狸の村のようにはいかず、逃げたそうですが」

「おお、撃退したんだ。さすがは、鬼というべきか」

「ですが、結構な被害を受けています。死者こそ出ませんでしたが、重傷が四名に、軽傷が十九名。対して、相手に与えた傷は、軽いものばかり。深いものでも、せいぜいが骨には届かない傷が一つだったそうで。それを与えた直後に、逃げられたそうです。村の長は、『穏和な性格の者が多く、戦いに不慣れなことが災いした』と、話されていましたが……」

「鬼ではあるけど、戦闘能力はそこまで高くないと」

「ですが、鬼は鬼です。半端な強さでは、逃げることすら難しいでしょう」

「うぅん。鬼と対等以上に戦い、引き際も心得ている、か……」

 厄介な相手に感じ、鈴鹿の表情が曇る。その時、何かを思ったように顔を上げた。

「そういえば、狸の被害は全員男だったけど、鬼もそうだったの?」

「いえ。鬼の方は、男女に関係なく被害が出ています。ただし、戦闘に参加した者に被害が限定している所は、同じです」

「そうなると、男を狙っているわけじゃなくて、戦う者を狙っている可能性が高い? でも、それだと、最初の被害者が違うか……」

 鈴鹿が考える仕草を見せると、サナがその疑問に対する自分たちの考えを述べた。

「それに関してですが。犯人の目的が自分を強くすることで、最初はそれほど戦闘能力が高くなかったと考えれば、どうでしょうか」

「弱かったから、まず一般人を狙って。次に、狸の村と鬼の村を襲ったってこと?」

「はい」

「それが本当だとして、最初の被害から鬼の村まで一週間くらいでしょ。そんな急に強くなる? それとも、ただ自信が無かっただけで、実はそこそこ強かったとか?」

「それについては、妖刀の能力で説明がつくと考えています」

 サナのその言葉に、鈴鹿は懐疑的な表情を浮かべる。

「なに。戦えば戦うほど強くなる能力、とか言うつもり?」

「少し違いますが、似たような能力を持っているのではないかと考えています。犯人と戦った鬼から、こんな話が聞けました。『相手の刀に斬られた後に、自分の力が抜けていくように感じた。相手は、戦いを続けるほどに強くなっていったようだった』と。これは、妖刀の能力が、斬った相手の妖力を奪い、それを持ち主に与えるのだと考えれば合点がいきます」

「うぅん。それで、最初は大したことない奴だったのが、狸の村を襲えるほどになって、次に鬼の村を襲えるほどになったってことか。確かにそれなら納得がいくけど、強くなることが目的なら、見逃された人たちがいたのはなんで? だって、その人たちも斬っておけば、もっと強くなれるでしょ」

「これも、想像にすぎませんが。ある程度の強さを手に入れて、余裕ができたのではないかと。強くはなりたいけれども、あまり道に外れることはしたくないと、考えているのではないでしょうか」

 初めの五人を除けば、非戦闘員に殺された者はいない。強くなることだけが目的ならば、少ない妖力でも吸収して損はないにもかかわらずだ。それをしないのには何らかの理由があるのだと考えると、サナの説はありえない話ではないと思えた。

 しかし、鈴鹿は、あまり肯定的ではない反応を見せる。

「それは、ちょっと良い方に考えすぎじゃない? ただ単に、妖刀の吸収力に限界があるだけなのかもよ」

「確かに、その可能性も否定はできませんが」

「悪路王だからって、あたしに気を使う必要はないんだって」

 鈴鹿は、コップに口を付けると、軽く喉を潤す。そして、少しだけ間を置いた。

「そういえば、その名前。この時には、もう名乗っているの?」

「いえ。それは、この後。三つ目の村を襲った時に」

「うん。じゃあ、その話を聞かせて」

 鈴鹿の促しに、サナは承知をすると、画面上に新たな赤印が生じた。今度は、長野県南部。もう少しで、静岡県に入るという地点だった。

「鬼の村が襲われてから三日後に、別の村が襲われます。この時点で妖警は、今までの行動からある程度の襲撃予測を立てており、対象となる五つの村に隊員を派遣していました。村一つに、三人一組のチームが四つ、合計十二人。もちろん、隊員の中から強者つわものを選んでいます。ですが、――」

「作戦は失敗したと……」

「はい……。襲撃された村は予想していた内の一つで、ここは成功でした。しかし、相手の強さが想像を超えていました。被害は、死亡が三名、重傷が十六名、軽傷が五名。そのすべてが妖警の隊員です。死亡した三名は最初に襲撃されたチームで、目撃者の話では、犯人が姿を現したと思ったら、応戦する暇もなく斬られたそうです」

「被害人数が十二人よりも多いけど、他の村からの援軍?」

「どこかの村が襲われたら、援護に向かう計画だったそうです。各村から六名ずつが援護に来ています」

 残りの六名はと言うと、念のために村の警備に残ることになっていた。

「襲撃の連絡が来て、まず二つの村から援護が到着します。その時点では、相手は逃げることなく応戦をしていたそうです。しかし、その後、別の援護が来る直前に逃げています。さらなる増員を察知したものと考えられています。そして、この時、自分のことを『悪路王』と名乗ったそうです」

「名乗った他に、なんか悪路王っぽさみたいのは、あったの?」

「どうなんでしょう。その名を聞いて思い浮かぶのは、『鬼』と呼ばれていたことくらいで、これといった特徴は……。ただ、鎧武者の姿だったそうです」

「ふぅん、鎧姿か。無くはないけど……。というか、それだけの動員をして、倒すことも、捕らえることもできなかったのね」

「逃走されないように結界も張ってあったそうですが、破壊されてしまったそうです」

「厳しいなぁ」

「受けた傷の治癒に時間が掛かっているのか、それとも、獲物の品定めをしているのかは不明ですが。三つ目の村を襲撃してから今日までの五日間、被害の報告も目撃情報もありません」

 サナの報告を聞いて、鈴鹿は一つ溜息をついた。

「被害は大きく、犯人には逃げられて。妖警の面目丸潰れじゃない」

「そう。それで、我々に討伐依頼が来たんです」

 鈴鹿の発言を受けたのは、サナではなくミュンヒだった。

「襲撃を受けた村と、その近隣の村々から直接に。妖警だけでは、不安だと言って」

「それはまた、大丈夫なの? 妖警が知ったら、関係が悪くならない?」

「なるでしょうね。だから、最初は断ったんです。妖警が大々的に動いている中に、私たちが入っていくわけにはいかないって。どうしてもというなら、妖警を通してくれって。そうしたら、その翌日に妖警が尋ねてきましたよ」

「あら、早い」

「村人から懇願されたから仕方なく、みたいな感じでしたけど。どうも、彼らの方も対策を決められず困っていたみたいで。思っていたよりは簡単に受け入れてくれたと、村人が話していました」

「まあ、ねえ。強者つわものを揃えて駄目だったんだから、対策しようが無いでしょ」

「現場の反応も、複雑な感じでしたね。自分たちが戦わなくて済んだという安堵感の一方で、仲間の敵を討つことを放棄した惨めさと情けなさが入り混じっていて。特に、現場で指揮を執っていた人は、納得していない感じでしたけど」

 その指揮者は、有志を募って討伐に向かうつもりでいた。しかし、力不足の者が赴いてもただ被害を増やすだけだと、直前で止められたのである。その指摘は正しいのであるが、心は納得できるはずも無く、相当に苛立っている様子だった。

「だから、適材適所。攻撃は我々に任せて、あなたたちは守りに専念してほしいとお願いしたんです。自分たちは、人数が少ないから村を守ることには向かないと。あなたたちが、しっかりと守っていると確信できるからこそ、遠慮なく攻勢にでることができるのだと。それで、なんとか納得してもらいました。たぶん、我々が鈴鹿様にお願いしたと知れば、彼らの気持ちも収まるんじゃないでしょうか」

「そっか。顕明連の他に、それも理由か」

 鈴鹿に討伐を依頼したということは、つまり、桜命館でも討伐不可能な相手だったと考えることができる。ミュンヒは、そんな報告をするつもりはないが、そう思わせるつもりではあった。それで、妖警の体面も保たれると考えたのである。

「でも。あたしが断ってたら、どうするつもりだったの?」

「その時は、自分たちでやってました。妖警との関係よりも、我々の信頼の方が大事ですから」

「まあ、村人も、解決してくれると思ってミュンたちにお願いしたんだからね」

「はい。その信頼は、裏切れません」

 そう言って、ミュンヒは、話しを終えようとしたのだが、何かを思い出したように再び口を開く。

「そうだ、忘れてました。討伐に成功したら、村から報酬が出るそうです」

「報酬?」

「はい。前金無し、成功した場合にのみ、五千万円を支払うと。おそらく、我々が失敗したら、賞金稼ぎにも声を掛けるつもりなんでしょう」

「それって、高いの? 安いの?」

「かなりの高額ですよ。一千万を超える賞金首なんて、十年に一人、出るか出ないかですから」

「そうなんだ。そんな高額、よく出せたね」

「出せる範囲の金額で、無理はしていないという話ですが。けっこうな負担ではあると思います」

「そうだよねぇ……」

 鈴鹿は少し考えて言った。

「報酬は、私が貰っていいの?」

「はい。全額、鈴鹿様がお受け取りください」

「わかった。そうさせて貰う」

 鈴鹿は、また考える様子を見せたが、それはほんの少しの間だけ。すぐに、サナの方を向いて言った。

「ここまでをまとめると。犯人は、鎧武者の姿をしていて、妖刀を装備している。そして、自分のことを、悪路王と名乗っている。わかっているのは、これくらい?」

「あとは、村が襲われたのは、いずれも日が沈んでからです」

「昼間の行動は避けている可能性が高い、か」

「それと、犯人はおそらく男であろう、と。背は高く、体もがっしりとしていたそうです」

「まあ、悪路王を名乗って、女ってことはないでしょ。他には、ある?」

「いえ。私からは、ありません」

「ミュンは?」

「僕もないです。逆に何か、鈴鹿様からあれば、おっしゃって下さい。もっと、調査してほしいとか。こういうものを準備してほしいとか」

「いや。悪路王かどうかは、会ってみないとわからないし。対策も、取り敢えず妖刀に注意すればいいみたいだし」

「そうですか。それでは、――」

 そう言って、ミュンヒが立ち上がろうとした時、鈴鹿が思い出したように声を上げた。

「ああ、一つあった」

「何ですか?」

 上げかけた腰を、一度下ろすミュンヒ。

「今日、泊めてくれると嬉しいです」

 鈴鹿は、ぺこりと頭を下げる。

「それは、もちろんです。というか、こちら的には、最初から泊まって頂くつもりでしたので、お部屋の用意もしてありますよ」

「さすが。ありがとう」

 鈴鹿は、再び頭を下げた。

「頭を上げて下さい、鈴鹿様。そもそも、我々がお願いをしたんですから、このくらいは当然です」

「いやいや。そっちが当然なら、こっちも当然。されて当然だからって、感謝しない人なんて最低じゃない? そういう人には、なりたくないからね。ここは、素直に受け取ってください」

 『くだ・さい』に合わせて、勢いよく頭を下げる鈴鹿。

「わかりました。鈴鹿様の感謝、お受け取りいたします」

 ミュンヒとサナの二人も、合わせて頭を下げた。

 顔を上げると、ミュンヒが再度の確認をする。

「他には、ないですか?」

「う~ん。たぶん、大丈夫」

「わかりました。もし、何かあったら、誰でもいいのでお申し付けください」

「ん。了解」

 鈴鹿が頷いた瞬間、館内にチャイムの音が鳴り響く。それは、昼食の時間を告げる音だった。

 それを聞いたミュンヒは、ポンと両膝を叩く。

「もう、お昼か。よろしければ、ご一緒にどうですか? まあ、食堂なんですけど」

「行くよぉ、当たり前じゃない。食事は、ここの楽しみの一つでしょうが」

「ははっ。そう言って頂けると、嬉しいですね。どうします。直接、食堂へ行かれますか? それとも、まずは、お部屋へ?」

「そうだね。あれ置いていきたいから、まずは部屋かな」

 そう言って、鈴鹿は、部屋の隅に置いていた光球を差した。

「そうですか。では、サナが、ご案内致しますので」

「んっ」

 真剣な表情から解放され、鈴鹿とミュンヒは、にこやかに立ち上がる。そして、扉の元へ向かうと、ミュンヒの見送りを受けて、鈴鹿は執務室を後にした。


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