やるは決定
「あたしは公国の為に尽くすつもりないの。どんなに良い暮らしが出来てもね。あ、でも勘違いしないでよ? だからって別に反政府運動する気もない。公国が嫌いなだけ」
「何故だ?」
大概の人間は公国を妄信している。こんなに嫌うのには絶対に何か理由がある筈だとランが聞いた。
「あたしが信じたものを取り上げたからよ」
具体的に話すつもりはないらしいが、ランはそれで納得した顔を見せる。
「だけど寄りにも寄ってなんで取り立て屋なんて悪魔みたいな仕事してんだよ!」
「お金を借りて返さない悪魔を許せないからよ!」
「ごめんなさい!!!」
「それにあたしお金の大事さをよーく知ってるから向いてると思うんだよね~」
「ルアンジュならその痣はなんだよ?!」
アイリは痣の少ない方ではない。
「こっ……これは瘴気で出来た痣じゃなくて……色々あんのよ! とにかく手伝ってあげるって言ってんの! これ以上ない相棒だと思わない?」
「それはそうだけど……」
「悪いが二人分も報酬を払えないからやはり俺が行く」
「馬鹿なの?! 死ぬっつってんだ!」
「大丈夫だと思うんだ」
「根拠でもあんのか?!」
「確かに根拠はない。だから行くのは俺一人になってしまうが……試したいんだ。そうする必要がある」
「あのなぁ……! あんたさっきから何言って……!」
「まぁまぁ良いわよ、あたしがどうにかするって。あんたはいざと言う時の保険って感じで」
また埒のあかないループに入ったと見るやアイリが二人に割って入る。
「それなら報酬も一人分で良いのでは?」
「うわー! 仕事奪うなー! せっかくやる気出してんのに! 結局やれる事ないのかよ?!」
「はいはい、荷物持ちで働いてね」
「それなら俺じゃなくても良いだろうが!」
「あーのーねー!!!」
さっきからどうにも話しが進まない状況に焦れてアイリがとうとう大きな声を出す。
「あんた選べる状況なの? まとまったお金欲しいんでしょ? で、困ってる様だったからあたしが助けるって言ってんのに何が気に入らないわけ?」
「うっ……!」
何も言えなくなったエディを見てランが口元をほころばせる。しかし、矛先はすぐに変った。
「それからあんた! あんただって相当切羽詰まってようやく見つけたルアンジュなんじゃないの?! だったらもっと魅力的と思えるような交渉をしなさいよ! ボソボソボソボソ聞かれた事に答えるだけで人の心が動くと思う?!」
「ううっ……」
大の大人を二人も黙らせ、アイリは腕組みをする。
「お互いに選んでられる状況じゃないんだからやるしかないの! やるは決定! 後の事はやってみて詰める! 良いわね?!」
「「はぃ……」」
背中から碧い炎が見えた気がした。どうやら、契約は成立したらしい。
「あ……じゃー、もう少し詳しい話しを覗いましょうかね? あ、リンカネーションの理念みたいなのは省いて良いんでやる事だけ」
「分かった」
そう言ってランは懐から丸めた地図を取り出して広げた。
「倒して欲しいのはここの巨大規模魔獣」
広げられた地図を覗き込んだエディとアイリは、その地図に赤で示された場所がどこだか分からない。
「どこだよこれ」
「なんか大陸の形が……」
「そうだ、これはトアナ大陸の山岳地帯。俺の故郷でもある」
「はぁ?! 海を渡るのか?!」
「はいはいもうやるって決めたんだからいちいち喚かないの。……あたしも驚いたけど」
ランの故郷……なるほど、この辺りではあまり見ない顔立ちだったワケだ。
「まぁ隣町まで行けば船にはすぐ乗れるし、トアナ大陸に行くのはそう大変じゃないでしょ」
「ああ、でも……尺図とか良く分かんねぇけど、目的地トアナの最北じゃねぇか。一体どれくらいかかるんだよ」
「聞いてもギャーギャー言うんじゃないわよ?」
ランからの答えを聞く前にアイリが釘を刺す。
「ちゃんとルア製の乗り物に乗れれば一週間もあれば着く」
いくらアイリに釘を刺されたところでとっさにリアクションしてしまうかも知れないと覚悟していたエディだったが、それは予想外に短い日数だった。
「一週間……か」
きっとランはルア製品を拒否し、何ヶ月も歩いて向かう事になるのではと予想していたのだが、リンカネーションからルア製の乗り物、なんて言葉が出るとも思っていなかった。
「分かったよ、道中長くなりそうだ。詳しくは道すがらで良い」
今まで一体何に迷っていたのかと聞きたくなるくらい、エディは急に立ち上がった。
「えっ?! ちょっと待って今から行くの?」
「俺別に準備とかねぇもん。行くのは決定だってお前が言ったんだろ?」
「そりゃ言ったけど……」
突然のスピード感にアイリの方が戸惑い始めると、ふいにドアをノックする音が聞こえた。
「あれ? 客なんか珍しいな」
その言葉に、ランの顔にはサッと緊張の色が走る。大声で、あまり聞かれたくない話をし過ぎた。
だが招かれざる客ならそもそもノックなどしまい。質素な木製のドアを開けると、そこに立っていたのは……。
「コーニコちゃん?!」
「こんにちは……、何だか賑やかだっちゃね?」
狭小なエディの住まいは、入口を開ければすぐに部屋の中の全体が分かる。逆に部屋の中に居ればたいがいどこに座って居ても玄関に誰が立っているのか分かる。
「う、うん! たまたまね! それよりどうしたの?! 俺んち来てくれるなんて初めてだよね!」
分かりやすく浮足立ってエディがそわそわとコーニコに言った。
「……あ、お、お誘いに来たばい」
「お誘い?」




