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星を巡るルア  作者: 焼肉一番


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砂海の恵雨

「……」

「答えてくれ」


 男は長らく旅をして辿り着いたのか、旅人用のマントはかなり汚れて……いや、あらゆる持ち物が土埃にまみれていた。

 髪は肩まで無造作に伸び放題。浅黒い顔には無精ひげもボーボーだ。だがそこに浮き出ている濃い瘴気痣は隠せていない。

 ヤンゼンが言っていた男に違いないだろう。


「……だったら何?」


「仕事を頼みたい」


「何を期待しているのか分からないけど俺はもう……」


「いくらの仕事っ?」


 この会話に割り込んで来たのは先程ひどい目に合わされたアイリだ。


「おっ……お前さっき吹っ飛ばされたってのに何入って来てんの??!」


「まぁ怪我はしてないしそこは大目に見てあげるわよ、で? わざわざ指名で仕事頼むって事はそこそこ報酬が出る話しなんでしょ?」


 得体の知れない大男にずいと一歩近付くアイリにエディは慌てて立ち上がった。


「俺いくら出されてもやらないよ! 嫌な予感しかしないもん!」


「へぇ? じゃーコーニコちゃぁーんに、会えなくなっても良いんだぁ?」


「……ぐっ……、それはイヤだから別の事でどうにかす……」


「話しだけでも聞かせなさいよ」


「ダメだ! 首突っ込むなよ!」


 聞く耳を持たないアイリに少々強めに言うが全く響いていない様子である。


「部外者に聞かせて良い話しではない」


 当の依頼人にもそう言われるが、それでもアイリは怯まなかった。


「部外者じゃないわよ。借金さえ返してくれたら綺麗に部外者になってあげるけど、お金のやりとりがある以上は部外者なんて言わせないわ。何よりも強く繋がってると言って良い。あんたのお金に関する事は把握しておかなきゃ」


「ちゃんと返すって! なんで信じてくんないの」


「何の当てもないのにそうやって軽い返事をするとことかが信じられない」


 もっとも過ぎてエディは何も言えなくなる。


「別に居ても構わないが……こいつが何者でも、借金の取り立て優先って事で良いんだな?」


「良いわ」


「こいつが大罪人で、お前の良心で政府へ突き出したら金は返ってこない」


「おいっ……!」


 エディが素早く立ち上がり、そのままの勢いで手を出した。

 と言っても、つい胸倉を掴んでしまっただけで、男は小動もしない。


「それは例えばの話しだ」


 墓穴を掘ったと思ったエディはすぐに手を放したが、続いた言葉に今度は顔を覆った。


「偉大なルアンジュだと思っている」


 顔を覆ったまま溜息を吐くエディ。今アイリはどんな顔をしているのだろう、そう過ぎった。


「で、依頼って何?」


 しかしアイリはエディが大罪人である事にもルアンジュと呼ばれた事にもあまり興味を示さなかった。

 言葉の意味が分からないのか、それより金がいくら入るかが重要なのか、指の隙間からアイリの表情を確認したが良く分からなかった。


「ではまずは自己紹介からさせてもらおう。俺は反公国組織『砂海の恵雨』リーダー、ランドルフ・リュディガー」


「なっが。ラン以降忘れたからランさんでいっすか」


 ランドルフ・リュディガーは極めて真っすぐに言ったが、それに対してエディはくだらない事の様にそう吐き捨てた。


「さすがに反公国組織に反応したら? リンカネーションよ?」


 一方でアイリはランが寄越した情報をしっかりと受け止めた様だが、それでもきっと一民間人としては薄いリアクションであろう。

 数百年と言う長い間、世界の権力イースライ家が治めているこの公国で反旗を翻すレジスタンスの存在は決して歓迎されたものではなかった。世界に魔石を流通させ、ルアの穢れから人々を守った公国に反するなどあってはならない。

 かつてルアの使用をやめ、もっと自然と共に生きるのだと警鐘したリンカネーションと言う男は、結局ルアを否定して痩せ細って死んだのだと言われている。

 それも百年単位で昔の話しだが愚かな男だと語り継がれ、反公国組織等はすべてこう呼ばれてしまう。すべてと言っても、今現在堂々と反公国組織だと公言しているのは砂海の恵雨くらいであるが。


「いやそこ触れたら面倒そうだから敢えて」


「なるほど。続けて?」


「巨大魔獣を退治して欲しい」


 エディに長い話を聞く気はなさそうだと判断したのか、ランドルフ・リュディガーと名乗った男……エディ曰くランは極めて端的に依頼を告げた。


「巨大魔獣……そりゃールアンジュの力が欲しいでしょうね~」


 どちらにしろあまり聞く気のないエディの代わりにアイリがうんうんと腕組をして分かった風な顔をしている。


 ルアンジュとは、ルアの力を借りても身体に痣などの影響が出ず、自在にその力を操る事の出来る特異体質の人間の事だ。星を巡る魔力エネルギーであるルアが、体内に流れてると考えられている。

 やっかみからルアの偏愛と呼ばれ、昔は迫害傾向にあったがルアンジュの活躍が認められるとそれは憧れや羨望に変った。今や公国の大事な資産として扱われている。

 ルアンジュの活躍の場は主に戦場。体内のルアを放出する事による戦闘能力はどんな兵器も凌駕した。そして世界を公国が統率する様になってからは各地に発生する巨大魔獣の討伐でその戦闘力を見せ付けている。

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