合流
「……親父が……ランドルフさん専用に対魔獣用のルア製品を作ったんだ」
あれの事か、とすぐに思い当たる。確かに作成者は死んだと言っていた。
「当然公国にバレない様に人里離れた場所にラボを構えてたんだが、ラボの周りで不自然に魔獣が大量発生してな。ランドルフさんはそれを使った。そこを不自然に公国の犬に見られて、危険因子だと……ラボに居た砂海メンバーは始末された」
「えっ? まさか……始末って殺された……って事?」
「知らなかったか? これが公国のやり方だ。裁判も何も無しになぁ」
当たり前の様に言うが、当時はどれほどその理不尽に苦しめられたか想像に易い。
「ランドルフさんは自分がルアの武器を多用したからだって言うけど、使わなきゃ無理だった。魔獣に殺されるか、公国に殺されるかのどっちかだ。そして、一緒に死ぬか、逃げて生き延びるか、そんな選択も突き付けられて、ランドルフさんは俺を抱えて逃げたってわけ。あの時あのラボに居て生き残ったのは俺とランドルフさんだけだ。男気溢れるランドルフさんは砂海の恵雨を引き継いでリーダーになった。分かったかよヘタレ」
つまりシャオはランにとって、大事な仲間の息子で、たった一人守れた命なのだ。少々過保護にもなるだろう。
「そっか、じゃぁ、あんたは本当は砂海に参加したいのにランちゃんがさせないって感じなんだね」
「別に、俺自身役に立たねぇ自覚があるだけだ」
「そんな事ない。現にこうやって俺達を見付けれくれた」
「そうよ、それにその顔は何かと役に立つ場面もありそう」
さっきから微妙に失礼な言い方ではないだろうかと心配したが、シャオもそれは自覚している様だった。
「顔だけとは言えそれが半端ないからな。金には困ってない」
一体どんな方法で稼いでいるのか分からないが、何となく商売相手は女性なのではないかと思うエディ。
「顔に全振りしたのね」
「誰が頭も身体も悪いだ?」
「口も悪いが抜けてるわ」
「黙れクソアマ」
お互いに言いたい放題なアイリとシャオだが、テンポの良さに妙な心地良さを感じる。もしかしたら意外と馬が合うのかも知れない……と、思ったエディだったが、そんな事を言ったら二人から怒られそうなので止めておいた。
「ここだ」
騎士に怪しまれる事もなく、エディ達はシャオの家であろう小綺麗な一軒家へ辿り着いた。
「先月までアパート暮らしだったんだが最近太客を捕まえてな。ちょうど良かった」
庭先に花まで咲いている。シャオが自分で世話をしているとは思えないが……一見して幸せそうな家である。
「ランドルフさん! 遅くなってすみません!!」
扉を開けるや否やそう言って深々と頭を下げるシャオ。しかし頭を下げた先にランは居なかった。
「あれ? ランドルフさん……?!」
「ここだ」
「ギャッ……!」
ランは玄関扉のすぐ後ろへ隠れて立っていた。
「すまん、足音でシャオなのは分かったが念の為な。想定より遅かったから用心した」
「さすがランドルフさん! 隠れるならそこが一番ですもんね!」
「ああ……しかしまぁ……色々あった様だな?」
悪臭を放つエディを見てランが言うが、実際はバンダナをしていなかったせいで遅くなっただけである。
「いやランドルフさんのお連れさんを悪く言いたくはないですけどねぇ、コイツら最悪ですよ! 特にこの女……! って、ああ! このままじゃ家が臭くなる! 臭くなったらランドルフさんが寛げない! こっち来い!」
言われて付いて行くと立派な風呂場だ。この街のお風呂事情は分からないが、今まで住んでいた街では個人の家に風呂場などなかった。みんなお金を出して風呂屋へ行くのである。それも毎日行ける人の方が少なかった。
「水が溜まったらこれ入れろ。すぐ温かくなる」
水道の設備も整っている様で、蛇口から綺麗な水が出る。シャオに渡された小さなボール状の物はルア製の湯沸しアイテムだ。何から何まで贅沢である。中央に居た時以来だ。
「お湯を使わせてくれるなんてありがてぇ!」
「言われてみれば贅沢だな。返せ」
「ああっ!」
素直に言ったら戻されてしまった。
「夜ランドルフさんの為に入れ直すからその残り湯で温まれ」
「それでも十分ありがたいよ」
本当にそう思ったから言ったのだが控えめさが響いたのか、シャオはまたそれを投げて寄越した。
ありがたく温かい湯舟に身体を沈める。
今朝はウキウキでコーニコとデートをし、大型魔獣と戦って、住み慣れた街を負われ、女装して、ゴミ箱に入り、強烈な奴と知り合って、湯舟に浸かっている。
「はぁ……」
心身の疲れを逃がす様に大きく息を吐く。
あんまりのんびりしていても怒られそうだと早々に風呂を出ると、強烈な匂いのするデート服はどこかへ消え、代わりにシンプルだが厚手で動きやすい旅用の服が置いてあった。さらにリビングの方からは美味しそうな匂いもする。




