シャオ
街中には当然騎士がウロウロしていた。すでに緊張感のなさそうな奴も居るが、あの大橋前の緩さに比べるとさすがにピリ付いている。下手な女装で正面突破されたのだ。無理もない。
足早に歩く青年の後に付いて二人はチラチラと顔を見合っていた。お互いの言いたい事は分かる。しかし無言のまま歩き続ける状況が続き、アイリがとうとう前を歩く青年を顎でしゃくるように刺し、エディがそれに応えた。
「あの~……、あなたは?」
要はこいつが何者なのか分からないまま付いて行くのは不安だと言う事だ。
ランの仲間だろうとは予想が出来るが、これからどこへ行くのか、ランはどこなのか、何も分からないのだから。
「シャオ」
どこに地雷があるか分からないので恐る恐るだったが、名前を教えてくれた。
「シャオ、これからランの所へ連れてってくれるのか? あんたも砂海の恵雨のメンバーだったり?」
「そうだ。違う」
まとめて質問をしてしまったので分かりにくかったが、ランの所へは連れてってくれるが砂海の恵雨のメンバーではないらしい。
「へ、へぇ~、じゃあランとはどう言う……?」
「親父が砂海の恵雨だった。必然的に俺も組織の一員だったが親父が殺された時、騎士団との戦闘に巻き込まれてこの様だ」
カツカツと石畳を叩く足の事だろう。この辺りにも上手くルアの力を使える技術があれば良いのだが、弱者の為には使われないと言うのが現実だった。シャオのそれも、木製の棒をベルトで巻き付けているだけの様だ。
「そうか……」
「別に戦えなくてもやる事はあるんじゃないの?」
父親が殺されただの、義足だの、デリケートな事を聞いてしまったエディは次の言葉を選んだが、アイリはまた言いたい事を口にしてしまう。さっきまで話し掛けるのも躊躇してエディに聞かせたくせにである。
その遠慮ない物言いにエディはヒヤリとしたがもうシャオは怒って掴みかかったりはしなかった。人目が多くて良かったと思う。
「俺が良いのは顔だけなんだ」
「うっ? お、おおぅ」
「そうなんだ……」
「親父は自分でオリジナルのルア製品を作り出せるくらい賢かったが俺は引き継がなかった。おまけに小さい頃から身体も弱くてここ数年は療養生活だ」
なるほど。さすがに療養生活をしながら反政府活動は難しそうだ。潜入前にランがここには良い医者が居ると言っていたっけとエディは思い出す。
「だが……気持ちはずっと砂海の恵雨と共にあるつもりだった。だから……憧れのランドルフさんが俺の事思い出してくれてクッソ嬉しかった!」
終始険しかったシャオの表情がパッと明るくなった。身体の弱かったシャオにとって、屈強を絵に描いた様なランドルフが憧れなのだと言うのは分かる気がした。
「まさかランドルフさんが訪ねて来てくれると思ってなかったから俺は! 俺は大いに張り切ってランドルフさんのお連れ様を探し出し、怪我無く無事に合流させてやろうと思った!」
「お連れ様……?」
「怪我無く無事に……?」
エディ達は顔を見合わせた。
「ところが探してたのはランドルフさんがくれたバンダナを汚いとか言いやがるクソアマと、生ゴミだらけの臭ぇ男。すでに死んでましたって報告したらランドルフさんが悲しむだろうと思ってどうにか我慢したけど……一生分の忍耐力を使い切った」
「謝ったじゃん!」
「謝りゃ親殺されても許すのかテメェは?!」
不自由な足で散々探してくれてたのかと思うと、シャオの怒りももっともだ。
「まっ……まぁまぁ! 憧れのランドルフさんって言ってたけど、やっぱ組織の中じゃ頼りになる存在だったりするのか?」
さっきランの名前を出した時に明らかに機嫌が良くなった気がしたのでエディがそっちへ誘導する。
「うむんっ」
効果は絶大だった。
「ランドルフさんと初めて会ったのは俺が十三の頃だった。それくらいの時の俺は美少年が爆発していて、良く女にも間違えられててな、そんな自分がイヤで仕方なかった時、ランドルフさんは二十歳そこそこででそりゃあもうムッキムキだった。ここんとこなんかボッコォ出てて、後ろから見るとここら辺とかボンッ! って感じで……」
「うんうん」
と、聞いてやれば機嫌良く居てくれそうだ。
「そして久々に会ったランドルフさんは髭も痣も筋肉も増量で、ああ! ほんと! 俺みたいな役立たずを頼ってくれるなんてマジさぁ!」
痣もポジティブに捉えているのが印象的だ。
「たまたまこの街に用事があって、たまたま俺の事思い出して、たまたま厄介事が起っちゃったんだろうけど、なら俺はその厄介事に大いに感謝するね」
「うんうん」
「匿って欲しいって、あの大きなランドルフさんが小さくなって俺の事頼ってくれたんだよ。俺を巻き込んでしまう事、申し訳ないってさぁ……」
「うんう……」
「そんな一面もあるなんて意外よ。あたし達の事は平気で巻き込んだってのに」
エディが調子良く相槌を打っていると言うのに、またアイリが水を差す。
「ああん?! 俺とお前を同列にすんなクソアマ! ランドルフさんは俺の親父を自分が死なせちまったと思い込んでんだよ! 全然違うのに! で、親父に何言われたか知らねぇけど俺に対して過保護なんだ。身体弱いのは元々なのによ」
「どう言う事だ?」
あまり踏み込むのもどうかと思ったが、ついするりと疑問が口から出てしまった。




