落ちた銀色
「では、色々とありがとうございました」
自分の女装に自信を付けたエディはまた小首を傾げて微笑んで見せた。
「気にするな、幸せになれよ」
そう言って手を振った騎士の鼻の下が伸びた気がして、簡単だなと面白くなる。
大橋を歩いて行き、振り返るとまだみんなでこちらを見ている。軽く頭を下げると一斉に手を振った。
「フフッ……、本当に間抜けな奴ら」
良い気になったエディは振り返り振り返り橋を渡り、その度に会釈して手を振ってもらった。そろそろお互いの表情が分からなくなった距離で深々と頭を下げてやる。これで最後だ、もう振り返らないと決めて。
ファサッ……。
お辞儀した先に、銀色の何かが落ちた。
「……」
サァッと血の気が引いて、ゆっくり顔を上げて橋の向こうを見てみる。陽気に手を振っていた騎士たちの動きがピタリと止まっていた。表情は分からないが、ジッとこちらを見ている。エディは腰を曲げたまま相手の動きを見守った。
一時停止していた騎士たちが顔を合わせだした。何やら話し合い、こちらを指差している。エディはそっと地面に落ちたウィッグに手を伸ばし、そっと拾い上げる。そしてまたそーっと腰を伸ばし、ゆっくりとそのウィッグをまた頭に乗せる。ちゃんとは被れないので片手で抑えたまま、もう一度丁寧にお辞儀をしてみたが……。
「……! ……!!」
「ですよねっ!!」
何やら大声が聞こえた。おそらく班長の号令だろう。その後で騎士たちが一斉に走って来る。ゆっくりやれば誤魔化せる道理などなく、当然の如くエディは終われる身となってしまった。
「マズいマズいマズい……!」
足には自信があるが土地勘がない。袋小路にでも迷い込んだらお終いだ。
大橋から続く石畳。少なくないルア製の街灯。隙間なく並ぶ煌びやかな店。あの街よりもずっと豊かな街だ。加えて、至る所に置かれたトラッシュカンが街の景観を守っているのだろう。ゴミも少ない。
「エディ! こっち!」
前方に何かが光った。
「アイリ?!」
街の外で待っている筈のアイリの髪だ。
一度後ろを振り返る。一直線に逃げて来ただけなのでまだ姿は見えるが、最初よりも引き離した様だ。指示通りアイリの居る方へ曲がる。
「入って!」
すると、曲がった先には巨大なトラッシュカン。アイリが蓋を全開にして生ゴミだらけのそこを指差す。躊躇したのは一瞬だ。エディは鼻をつまみ思い切り良くそこへ突っ込んだ。
すぐさま蓋は閉じられ、頭上でドカリと音がする。アイリが上に座った様だ。
「ちょっと! 危ないじゃないの!!」
続けて不自然な大声も聞こえて来る。
そしてドカドカと複数人が走る足音が迫り、近くで止まった。
「こっちに男が走って来たな?」
「ええ! 凄いスピードであっちへ行った! 危ないったらありゃしない! あたしぶつかりそうになったのよ? あれ誰よ! ちゃんと捕まえてくれるんでしょうね?!」
「ああ、ああ大丈夫だ、こっちだな?」
「そうよ!」
今度は足音が遠く離れていく。
「聞こえる?」
アイリがトラッシュカンに近付いて話し掛けた。どうやら上手く撒いてくれた様だ。
「ああ」
ほんの少しだけ蓋が開き、銀のウィッグが押し込まれてまた閉まった。
「はみ出してて焦ったわよ。あいつら間抜けで助かったわ」
あいつらが間抜けなのは同意だが、自分もかなり間抜けな事をしてしまったので押し黙る。
「落ち着くまでしばらくそこに居て」
「分かったよ。でも何でアイリがすでに中に居るんだ? 結局弱そうな奴殴って船でも奪ったのか?」
「違うわ。なんかやたらとあんたのとこに騎士が寄ってったじゃない。入口に一人だけになってたのよ。んで、あたしに何の合図もなしにランちゃんが急に距離詰めて絞め落として……」
「マジか」
「誰だっ?! くらいの声出してたけど、あんた達気付かなかったわね。一体何にそんなに集中してたの?」
「はは……」
女装のエディに親身になって相談に乗っていた……なんて事はいう必要はないだろう。
「何? 聞こえないよ」
「いや、分かんねぇ。で、ランは?」
「行くとこあるってどっか行っちゃった」
「結局別行動してるのかよ」
「うん、迎えに来るからこの辺であんたの事待って合流しろってさ。なんか目立つところに巻いとけって汚~いバンダナ置いてった」
と、言う事はランが来るまでこの中に隠れていた方が良さそうである。幸いまだネズミやゴキブリの気配はないが匂いはまぁまぁ強烈だ。




