女装
「ぐぅ……ぐぅ……」
「ラン」
「そろそろか」
「オンオフえげつない!」
いびきまでかいて寝ていたランに呆れ気味に声を掛けたエディは急に覚醒したランに驚いた。アイリも起きてエディと同じ目でランを見ている。
「マジで寝れてた事にビックリする」
「これくらいじゃなきゃ反公国組織なんてやってらんないんだろうな」
「警備の穴を探すぞ」
短く言ってずっしりと思い背嚢を背負うラン。
「警備の穴ったって……」
「なるほど、弱そうな奴をぶん殴って中に潜入するわけね」
やたらと好戦的な事を言うアイリに一言言ってやろうと思って口を開いたエディだったが、続いたランの言葉で開いた口が塞がらなくなった。
「そう言う事だ」
パッ……と、暗くなった周囲が突然明るくなった。
どうやら所々に明かりが用意され始め、街に近付く者が分かる様遠くを照らしている様だ。
「うわ……やたらと明るいわね、何かしらあの装置。ルア製品なんだろうけど」
「公国の持ち物だろうな。ただし数は少なそうだ。薄暗そうなところを探して……」
「弱そうな奴を……」
「待て待て待てお前ら!」
思わず大きめな声が出てしまい二人にシッ! と口の前に人差し指を立てられる。
「ああ、作戦がザックリ過ぎるってんだよ。お前はそれで上手くやって来たのかも知れないがアイリだって巻き込んじまったんだ。こっからはもうちょっと考えて行動しないと」
「あら! 巻き込んだなんて考えてくれてたんだ? へぇ~」
アイリがニヤニヤとエディに迫った。
「な……何だよ……」
「借金も返さないダメ男がそんな気を使えるとはねぇと思ってさ~」
「それとこれとは別だろ」
「うん! お陰で良い方法を思い付いたかも!」
自信満々に言うアイリにエディはイヤな予感しかしないが、ランが聞かせろと乗り気だ。
「巻き込まれただけのあたしは当然顔が割れてない……。後は分かるわね?」
つまり、何食わぬ顔で先に街へ潜入し、中から二人を手引きしようと言うのだろう。
「頼めるか」
「まっかせといて!」
危険だと反対はしたものの、暗そうなところの弱そうな奴を殴って潜入する……よりはだいぶマシな作戦に思えたエディは結局この案に賛成するしかなかった。
「分かった……。ただし、俺が潜入する」
「はぁ?! 何言ってんのよ、顔が割れてないのはあたしだけなのよ?」
「俺が女装して潜入する」
「ズルい! あんた女装したいだけでしょ!」
「違うよ! さすがにアイリを別行動させられないって言ってんだよ! それに考えてみてくれ。俺の顔だって割れてないのと一緒だ。なんせ世間を騒がせたのは八年前だからな? その間に俺は立派な成人男性、見違える程のイケメンとなった。昔からの知り合いでもない限りすぐに分かるわけないって」
「立派な成人男性が女装するって言ってるの違和感なんだけど……」
「それなら俺が……」
「「いや無理だって!!」」
またもや女装に前向きなランに二人で突っ込む。
「だいたい、女装する準備もないでしょうが」
アイリが言うと、ランが一度背負った背嚢をもう一度下ろし何やら中を漁り出した。そして取り出したのは銀髪のロングウィッグだった。
「な……何でそんなもん持ってんだよ……? お前、女装の趣味が?」
「女装……と言うわけではないが、こんな事をしていれば変装したいと思う事もあるかと思ってな。なるべく自分とかけ離れた派手なウィッグを入れておいた」
「そ……そうか、別に女装じゃなくても別人と思わせれば良かったんだ」
「でもこれ女性用だと思うけど……。このカット、ちょっと前に女の子に流行ったカットよ?」
「……そう、だったか?」
もしかしたらランは本当に女装がしてみたいと言う願望を持っているのかも知れないと思ったが、エディはとりあえずそれには触れない事にした。
「まぁ女と思ってくれた方が甘くなりそうだし、持ってるものでどうにか形にしてみましょ。それで変だったらやっぱあたしが行くわ」
旅の衣装もないのに女が一人港町へ来るのは不自然だと、ランの背嚢の中から使えそうなものを身にまとう。薄手の上着をマント代わりに巻き付け、薬の入った袋を肩から下げられるように細工する。
「何者だ?」
「んんっ! コホンコホン、ただの娘です」
「あははっ! 裏声上手いじゃん!」
「どこから来た?」
「えーっと、ルハシ村とかにしとこっかな」
「その辺はなんでも良いわよ」
「何しにここへ?」
「病気の母の為に良い医者を探しに」
「いいね! 泣ける! 警備も甘くなるっしょ!」
「……医者……か、確かにここにはちょっと名の知れた医者が居るらしいからな。良し、通れ」
ランとのシミュレーションもバッチリだと、いよいよエディは街からのライトに自ら飛び込んで行った。




