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星を巡るルア  作者: 焼肉一番


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かく語りき

「魔獣は何故中央に出ないと思う?」


 一体何を語るかと思えば、まずは質問からだった。しかも小さな頃から叩きこまれているただの常識を聞かれている。


「公国が抱える優秀なルアンジュが居るからでしょ? ルアンジュはルア、つまりはこの星に愛されているから魔獣も避ける」


「だったらどうして、今日お前らの街は魔獣に襲われたんだ?」


 星に愛されたルアンジュが二人も居たではないか。どう考えてもこの説は破綻している。だが小さな頃からこの常識しか知らないアイリは、そう言われても尚その常識にしがみ付いた。


「まぁ……たまにはイレギュラー的にそんな事も……あるでしょうよ」


「俺はそうは思わない」


 曖昧な事を言うアイリにランは真っすぐ発する。


「あの魔獣、紛れもないルアンジュが二人も居る街で、本当に自然に生まれたと思うか? しかもあの規模の魔獣が。可能性はゼロとは言わない。証拠もない。だが今回の事で憶測でしかなかった仮説に真実味を帯びて来たと思ってる」


「どう言う事だよ」 


 二人の話しを邪魔しないスタンスだった筈のエディが早くも口を挟んだ。


「魔獣の原因が、魔石だって事だ」


「……」

「……」


 公国、魔石、ルア、ルアンジュ、それらで成り立った世界で生き、そう言うものだと信じ、考える事を止めた民間人にとってそれはあまりにも突飛な発想だった。どうして人は子をなすのか、どうして太陽は眩しいのか、日々忙しく生きるのにそんな事は考えないのと同じだ。


「そんな筈……ないでしょ?」


「ああ、まだ仮説だ。だけどあり得ない話ではないと思っている」


「だったら魔石を使わなければ魔獣は生まれないって事? そんな……そんな簡単な話しだったらすぐに……!」


 魔石を使用禁止にすれば良い。そう言おうとしてアイリは言葉を飲み込んだ。それは簡単ではない。

 長い間魔石を、ルアに頼って生きて来た人間がそれを捨てたらこれまで出来ていた事が途端に出来なくなってしまう。乗ろうと思っている船だって、遠方への通信だって、いや、食事をする際に使う火さえ、人はルアを使っているのだから。


「本当は簡単な話しの筈だ。我々砂海の恵雨の主張はルアを使うなではない。魔石を使うなと言っているのだから」


「でもそうしたら……」


 痣だらけのランの顔を見てまた言葉を飲み込む。いつも歯切れのいいアイリがだ。そんなアイリがおかしいのか、ランはフッと口元を綻ばせた。


「この痣が醜いと言い出したのは一体誰だ?」


 右半分が痣に覆われた自分の顔を指でなぞりながら言う。


「……分からないわ……」


 それももはや考える事ではなかった。そう言うもの、それだけだ。


「なら魔石を売っているのは誰だ?」


「それなら分かる」


 イースライ家。公国だ。


「痣が醜いと言ったのも公国。魔石を売るのも公国。ルアを使うだけなら魔石は要らないだろう?」

「じゃあ……」


 とうとうエディも前方から目を逸らしてランを見詰めた。


「じゃあ……? え? どう言う、事だよ」


 先の言葉が上手く出て来ない。まだランの言った事を受け入れられない。


「今回の事で言えば、公国は魔石を使い、わざと魔獣にあの街を襲わせて、住民ごと我々を始末しようとした……なんて事が考えられる。まぁ、もう一度言うがあくまで仮説だ。ただの事実として加えると、エドワード・エイマーズの瘴気で人が死ぬと言ったのも公国だ」


「あ……な……何でそんな大事な事さっさと言わないのよ?!」


 ランの言う事の半分も信じていないエディと違い、アイリはもうそれと決まった様なリアクションを返した。


「騒々しくするな。決まった話しではない。それに我々の活動には興味はなさそうだったのでな」


「バカじゃないのっ?! いくらなんでも自分が公国に騙されてたかも知れないなんて話しは聞いておきたいわよっ?!」


「そう言うものか」


 ランはエディを見る。


「……いきなりそんな話しされても、信じられないし……、本当だとして、出来る事があるとも思えないな」


「良いんだ。ただの傭兵で」


「じゃ、とりあえずそれで」


 そんなエディをアイリはじれったそうに睨んでもう一度岩に身体を預け、更に足と腕を組んだ。


「夜まで休憩?」


「そうしてくれ」


 結局着の身着のままで街を出たアイリは旅の用意も何もなく、そのまま目を瞑ったが眩しそうに眉間に皺を寄せた。


「お、おい、お前までここで寝る気?」


「大丈夫だ、何かあれば起きる」


 そう言ってランも目を瞑る。


「……このパーティで一番まともなの、俺だな」


 エディはとても眠る気になどなれずもう一度前方を見る。動きはない。


「……」


 もし、ランの仮説が正しくて、エディのルアに瘴気なんて含まれていなかったんだとしたら……。


 ――セブズ村の住民は何故死ななければならなかったのだ……。


 感謝されて嬉しかった。自分の力が役に立った事が本当に誇らしかった。

 お爺さんもお婆さんも、小さな女の子も、自分に寄って来て笑顔を向けてくれた。

 あの笑顔は……すべて消えた。


「……っ」


 口の中に血の味が広がって慌てて吐き出す。


「はぁ……」


 少し大きな溜息が出てしまったエディを、アイリがチラリと横目で見てまた目を閉じた。

 ザワつく心中とは裏腹に、この時期の夕日はとても綺麗で……。変わりゆく空と、それをキラキラ映す海を見ていたらあっという間に暗くなった。

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