ちゃんと笑える
「んで? こっから目標までどのくらいかかるんだ?」
ランの言う通りのルートで、エディ達は住み慣れた街を旅立った。
中央に比べれば田舎の街である為、一時間も歩けば店も家屋も見当たらなくなる。街中の道もそう整備されてはいなかったが、それでもだいぶマシだったのだと思い知った。
「歩いて行ける場所じゃないから隣の港町まで行って船に乗る」
隣町までなら休まずに歩けば日が暮れる前に到着出来るだろう。
「船ねぇ……お尋ね者が乗れるかしら。さすがに呑気な騎士団さんもリンカネーションを取り締まるって名目での調査には来るでしょう?」
「あ、俺女装とかしてみたい!」
「じゃーあたし男装してみたい!」
「う……うむ、賛成だ」
アイリの的確な危惧を前向きに捉える。まさかランまでこの提案に乗り気になるとは思わずエディは笑った。こんなくだらない事にちゃんと笑える自分はなかなかにしぶといらしいと呆れる。
「あんたが着れる女物があるわけないだろ! ははは!」
「む……」
「あはははは! 待って想像したらめっちゃ面白い!」
「はははは! バカ笑わすな!」
「おい、騒々しくするな」
いまいち緊張感のない二人にランは度々こう小言を言う事になるのだった。
しかし日も傾き、目当ての港町の屋根屋根が見えて来るとエディとアイリの顔にも深刻な影が差した。街の入口に等間隔で人間が立っている様に見えたからだ。
海に囲まれたこの街へ陸路から入るには唯一掛けられた橋を渡るしかない。それ以外の侵入には船が必要になる。街中も海水を利用した水路が張り巡らされているので船で入るのも一般的だが、エディ達には現実的ではないだろう。船上を囲まれたらお終いだ。
「大橋と……船着き場と……とりあえず出入りに使いそうな場所には何人か立ってるみたいだけど……」
「ああ、配備されてるって感じだ」
言ってから二人がランを見上げる。もう向こう側から気付かれている可能性もある。
「……!」
視線の意味に気付いたランは素早くその場に伏せ、二人も慌てて続いた。
「遅くねぇか?!」
「まだ、気のせいかな? くらいに思われてる筈だ」
「ホントかよ、あんた案外楽観的だな」
「このまま匍匐前進であの岩場まで進む」
ズリズリと身体を這わせ、ランの言った大きめの岩まで進んで身を縮める。
「……早過ぎるな」
街の方を覗き見ながらランが言った。
「と言う事はやはり……そう言う事だろうな」
「何だよ? どう言う事だよ?」
「前日に中央へルアを飛ばせば、おそらくは一番近くの屯所からの派遣は半日と待たずに依頼元へ来れる筈だ。そうでなければ意味がない。それなのに丸一日以上あの街は放置された。忙しかったで済む話ではない。エドワード・エイマーズがリンカネーションに加担したと言う情報は後回しにしていい話とも思えない」
「いやぁ……俺八年も大人しくしてましたけどね?」
「このタイミングであの規模の魔獣災害、やたらと早い港町の検問準備。おそらく最初からこちらに人手を送っていたのだろうな」
「え……」
確かにこの準備の良さには違和感がある。
「なんでそんな事……。街中を闇雲に探すより効率が良いと思ったって事か?」
「先に魔獣を仕掛け、それで始末出来ればそれが一番楽。かつ、逃げられた場合は検問であぶり出すの二段構えと言う事だ」
「魔獣を仕掛けって……魔獣災害は予知出来るものじゃないじゃないか……」
ランはしばらく前方を見続けていたが特に動きがないと見ると背を向けてその岩に身体を預けるようにした。
「動くなら夜の方が良い。それまで少し話しをするか? それとも反公国組織の話しは聞きたくないか?」
「あたしは暇だから聞いてあげても良いわ」
ランにならってアイリも岩に身体を預ける。
「ま、面倒そうだけどお前らの話しを邪魔するつもりもねぇよ」
三人揃って前方から目を背けるのは如何なものかと思ったエディは、少しだけ岩から頭を出したまま言った。




