おっぱい大きいね
エディを挟む様にしてアイリとランが居て、無言のままコーニコに冷たい視線を向ける。コーニコは自分がした事が伝わっているのだと感じただろう。
「もう大丈夫だよ。……恐かった?」
それでもエディはコーニコに優しい言葉を掛け、一歩近付いた。
「んーん……エディ君が……守ってくれたち……」
「はは、そんな、カッコ良い事はしてな……」
「なして?」
「え?」
「なしてそんなにボロボロになってまで、裏切ったうちを……」
「当たり前だって言ったでしょ」
コーニコの口から裏切り、なんて聞きたくはなかったエディは食い気味に言った。むしろ裏切ったのは自分の方だと思ってるからだ。
「もちろんコーニコちゃんはめちゃくちゃ大事だけど、他の人でも俺はそうしたよ。俺はもう騎士じゃないし、ルアの炎も使わないけど……でも、あの頃は、ルアンジュに一番大事なのは、そーゆー気持ちだと思ってたから、さ」
言いながら久しぶりに、騎士団時代の上司の言葉を思い出した。
ソルヴィと言う名の男だった。当時は随分おじさんに見えたが恐らく三十代か、今で四十代前半といったところじゃないだろうか。
『ルアンジュに一番大切な資質とは何だと思う』
そんな事を聞かれた事があった。
『みんなを守りたいって言う正義感! 俺はこの力をそうやって使いたい!』
『ふ……なるほどな』
『あ! 何すか! 何か馬鹿にされた?! 正解は何なんですか? 教えて下さいよ!』
『正解は人それぞれで良いと思っている。まぁ、私の答えとは違うとだけ言っておこう』
エディはソルヴィが好きだった。イースライ家に所縁のある人間で揃えられた中央の騎士団に入ったエディは、いつもどこか堅苦しさを覚えていたのだが、地方出身で、実力で中央に配属されたソルヴィには素の自分を出せた。
あの時ははぐらかされたが、きっと何か深い信念があるんだと思っている。
「まぁ、本当に一番大事なのは何か、分かってないけどさ」
「……」
ぎこちなく笑うエディに、コーニコは何も言えずに唇を噛んだ。何か言いたい事があって探していただろうに、うまく出て来ない様だ。
「エディを売った罪悪感があるならこれからのこのこやって来るであろう騎士団にエドワード・エイマーズは死んだと言っておけ」
そんなコーニコの心情を察し、ランが口を挟む。
「おいっ! 売ったとか言うなよ! 街にリンカネーションが来た時点で中央に報告すんのはまず当たり前だろうか! コーニコちゃんは街を守ろうとしただけだよ!」
なおもエディはコーニコを守ろうとし、コーニコは益々何も言えなくなる。結局街を守ったのは、そのリンカネーションだ。
「ねぇ、話しないならもう行かないと」
アイリはコーニコを見ずに言った。
「そうだな、じゃ、エドワード・エイマーズは死んだって事で頼むぞ」
「魔獣が一掃されてんのよ? ルアンジュがここに居た事の証明じゃない。実際大した働きはしてないけどさすがに信じてもらえないって」
それもそうかとランは頬を掻いた。
「そう言います! 信じてもらえなくても……エドワード・エイマーズは、この街を守ろうとして、魔獣に殺されたと……」
「死体を確認しなきゃ信じるワケないし、そんな事言ってコーニコちゃんが公国に背く事ないよ。まぁ、出来れば何も知らない、見てないって言ってくれたら、それで良い」
「まぁ、それが無難だな。行くぞ」
ランが行くと言って歩き出したらもうグングン進んでしまう。それを学習したアイリもすぐに後に続き、エディも続いた。
「じゃあ、ね。風邪ひかない様に」
ランを見習って、もう振り返らないと決める。
「エディ君!」
振り返らないと決めた。
代わりにアイリが振り向き、しばらく後ろ歩きで付いて来ながらコーニコを見ている様だ。
「……」
「転ぶぞ」
「ちょっと先行ってて」
落ち着かないのでそう声を掛けたが、アイリはパッと駆け出しコーニコの元まで戻った。振り返らないと決めたのに思わず振り返り、慌ててまた前を向く。何やらコーニコに話しでもあるのか……。
少しして、アイリが追い付いた。
「何言ってたんだよ?」
「んー? おっぱい大きいねって」
「あー、お前ちっちゃいもんな……ちぎれるっっ!!」
もの凄い反射神経で顔を抓られた。どうやら地雷だったらしい。
「だから、お前たちは騒々しいって言ってるだろう。口を閉じてられないのか」
「黙っててもランちゃんの方が目立つと思いまーす」
「いひゃいいひゃい! いい加減にひゃなせ!」
まだ背中にコーニコの視線を感じていたが、何だかそれどころではなくなった。一人じゃなくて良かったと、エディは頬に激しい痛みを感じながらも思うのだった。




