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星を巡るルア  作者: 焼肉一番


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吸瘴師コーニコ

 報酬を握り締めたまま、ある場所へと向かうエディ。

 メインストリートから外れると街灯も薄暗い。貧しい村だからどこにも着飾った人間など居ないが、それにしても薄汚れた奴が増えて来た。


「コーニコちゃん、居る?」


 エディは慣れた様子で一軒の店へ入る。

 扉はなく、すぐにカウンターだ。


「居るよ」


 受付の男も客であろうエディに対してかしこまる様子もない。


「へへっ、お願いしまーす」


 それを聞いたエディは案内される前に、カウンター横のカーテンを潜った。

 隙間風が入る様な質素な建物の中、その奥には個室がいくつか。エディは迷わずそのうちの一室へ入る。


「こんばんわ」


 さっきまでより声のトーンを落とし、そっとピンクのカーテンを開けて入ると可愛らしい声がエディを迎えてくれた。


「エディ君! また来てくれたと?」


 すぐに後ろ手でカーテンを閉じると、ベッドが一つだけの小さな密室だ。 


「う、うん、また溜まっちゃってさ、コーニコちゃんじゃないとダメだから、俺」


「んもーエディ君、そう言っていつもたいして溜まってなかとよ?」


 そのベッドに腰掛けていたコーニコがパッと立ち上がり、代わりに使う様にとエディを誘導する。ここまでずかずか勝手に入って来た割にエディは大人しくゆっくり誘導に従った。


「え? ダメ? いっぱい溜めてからじゃコーニコちゃんも大変かなと思って」


 靴を脱いでそこに横たわる。見上げるかたちになったコーニコが可笑しそうに口元を抑えて笑った。とても可憐で、儚そうで、エディはその笑顔がとても好きなのだ。

 太めの眉に、零れそうに大きな琥珀の瞳、瞳に良く似合う薄茶色でふわふわの髪がいつも肩の上で跳ねているのも可愛らしいし、良く見ると傷んだ毛先も、仕事柄いつも短く切っている爪も、意地らしくて好きだと思う。


「ふふっ、やる事は一緒ばい」


「ははっ、それもそうか! でもさ、定期的にコーニコちゃんに抜いてもらわないとなんか調子出ないんだよね」


 定期的に会っているのに、始まる前はいつもドキドキしてしまう。


「嬉しかけど……」


「けど?」


「お金、困っとるんやろ? うち、昨日エディ君がアイリちゃんに追い回されているところを見てしまったとよ」


「うっ……」


 アイリ。借金の取り立て屋だ。今一番思い出したくない顔と言って間違いないだろう。それなのに、一瞬であの苛烈な瞳が脳裏に過ぎる。金色に輝くポニーテールを揺らしながら、エディを執拗に追い掛けるあの碧眼はまるで碧い炎だ。そこかしこが薄暗いこの街において色んな意味で目立つ存在なので、先に居場所に気付いて回避出来る事もあるのだが、見つかったら最後なのだ。

 寄りによってなんてところを見られてしまったんだろうと思うが、実はコーニコがそんな現場を見たのは一度や二度ではなかった。


「カッコ悪いとこ見られちゃってたか……でも大丈夫! 明日からまた一生懸命働く為になんだよ! さぁもう焦らさないで早くしてコーニコちゃん!」


 これ以上アイリの名前を出されるのはごめんだ。エディは事を急ぎ、着ていた上着を脱ぎ捨てた。

 柔和な顔に似つかわしくない、なかなかに逞しい筋肉が現れる。しかし、良く見ればそれは過去の産物だ。余分なものも多い。


「……分かったばい」


 その身体に手を這わせるコーニコ。その手には薄手の手袋がはめられていた。

 ゆっくりと肩から斜めにその手を這わせて行き、腰の辺りで止める。


「やるね」


 えい! でも、やぁ! でもなく、コーニコはただそう呟いた。

 手袋が光を発し、エディをぼんやり照らす。コーニコはこの街の吸瘴師なのだ。


「やっぱり全然溜まってなか。魔石も使ってなかのに」


「こうやってこまめにコーニコちゃんとこ来てるからじゃない?」


「ルアを使う街におったら皆多少の痣は出るとよ。今どきはよっぽどの田舎じゃない限り、どこでもルアを使ってる」


 ルアと呼ばれる星を巡る魔力エネルギー。

 人の歴史が始まった時からそれは人と共にあり、人はそれを用いて生活している。ごく当たり前の営みだ。

 だがルアの力を借りると身体に瘴気が溜まり、やがてそれは痣となる。

 かつて人は、姿かたちを持たないルアを精霊と呼び、その痣は光り輝く精霊が落とした影、精霊との絆として尊んだが……、時が移ろうと、人はその痣を忌み嫌う様になった。

 どうにか痣を消せないかと試行錯誤を重ね、身体に溜まった瘴気を吸い出す道具を作り出したのだ。だがそれも、ルアの力を使ってである。

 コーニコがはめた手袋がそれだ。

 それを通して触られた者は、そこから身体に溜まった瘴気が吸い出され、手袋を装着した者の中へと移る。もちろん、吸瘴師の瘴気は増えるが、そうする事で賃金を貰う。

 街が発展すればルアを使う機会も増える為、痣のリスクが高まる。田舎に行けば行くほど生活が不便になる代わりに痣は出来ないので、吸瘴師が居るか居ないかでその街が田舎かどうかの指標になり、「吸瘴師も居ないようなド田舎」と馬鹿にされたりする事もある様だ。


「さすがに自分で火を起こさなきゃいけない様な田舎はイヤだなぁ。それなら俺は痣くらい出ても良いよ」


「まめに魔石を買い替えられる様なお金持ちになれればどっちも解決やけどね」


 コーニコの途方のない提案にエディは肩を竦めるくらいしか出来ないが、おそらくリアクションとしては間違っていない。

 痣の原因となる瘴気を消す方法、吸瘴師以外の方法がコーニコの言う魔石である。

 ルアを使用する際にブレスレットや指輪に加工した魔石を通す事によって瘴気を吸わせるのだ。使い続けると黒く変色して効力を失うので回収して廃棄する。

 この魔石を開発、流通させているのは公国政府、イースライ家である。

 かなりの高級品、かつ消耗品なので一般人には到底手の出ない代物だが、実は完全に廃棄される前に一度中古品が出回る。効力が落ち、安くなった貴族のおさがりを一般人が使い切ると言うわけだ。

 それさえ手を出せない者も多いし、その中古品にどれくらいの効果が残っているかも怪しい。その証拠に吸瘴師と言う職業が在り続けているのだろう。

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