その日暮らしのエディ
質素な木造の建物が並ぶ貧しいこの街のメインストリートは、それでも活気に溢れていた。
「おーう、エディじゃねぇか!」
「何やってんだよエディ!」
「寄ってけよエディ、ツケてはやらねぇけど」
聞く者が聞けばお行儀が悪いと言われそうな大声で男どもが皆エディに話し掛ける。
「エディ~、また屋根から変な音がするのよ、見てくれない?」
「エディ機嫌が良さそうね~」
「あらエディ仕事帰り? お疲れ様!」
女達もまた、エディを見掛けると揃って声を掛けた。
街灯が灯り始めたメインストリートを歩くエディと呼ばれた青年はそれぞれに短く返事をして歩き続ける。
「ども! ははっ、完了のサイン貰い忘れて一回戻ったの。え? ツケじゃなくて奢りって事ぉ? えー? あん時のネズミが子供でも生んでたのかなぁ? 近々行くよ。今日はもう仕事終わりだもん! ああ! お疲れ~!」
どうやらこのエディと言う男は愛されている様だ。
キャラメル色の髪に、この街では珍しい緑色の瞳。たいして目を惹くイケメン……と言うワケではないが、なるほど人懐こそうな笑顔と明るい声質は人好きがしそうである。
そうしてしばらく歩き、エディが入ったのは『ヨーズ』と看板が掲げられた、様々な仕事を紹介する……所謂斡旋所であった。
「遅かったな、今日はたかだか三件くらいやったろ?」
簡素なカウンターの向こうで暇そうに雑誌を読んでいた初老の男がエディに気付いて顔を上げる。すっかり興味を失った様にポイと手放した雑誌の表紙で、大きな胸を露わにした女性が怪しく微笑んでいた。
「へへ、マールんとこの犬とちょっと遊んで来ちゃった」
「お前な、完了報告はすぐに来いって言っとるだろ!」
「ごめんよ」
悪びれずにそう言い、エディはその雑誌を脇へ追いやると、代わりに報告書を三枚並べた。
「ちゃんと片付けて来たから!」
割れた窓の交換作業、使用済魔石の回収、看板の清掃。
特にこれと言った技術、特技を持っていない事にしているエディはここで出来そうな仕事をもらってその日暮らしをしているのだった。
「ちゃんと片付けただぁ? そんなの当たり前やろ」
男はざっと報告書に目を通すと傍らに置いてあった箱に手をかざした。カシャンッと勢い良く下部から引き出しが飛び出し、そこに入っていた金を掴む。ただの箱ではなく、だいぶ型落ちのレジスターだったらしい。
型落ちとはいえ、やはり動力はルア。この星を巡る魔法エネルギーだ。
「随分黒いじゃないかその魔石。使えてるのか?」
かざした手首に付いていたブレスレットを見てエディが言った。黒々としたブレスレットである。
「ふん、もうとっくに飾りだよ。そろそろ廃棄しないとな」
男は自嘲気味に笑い、ブレスレットを付けた腕を差し出すとシャツを肘までまくってそれをエディに見せてやる。
「おお、働き者の良い腕だ」
痣だらけのその腕を、エディはそう言って労ってやる。
「うるせぇよ」
口は悪かったが男は笑っていた。
男は裸のままいくらかの金をカウンターに置いてやる。そこそこの稼ぎがあれば封筒や布袋に入れて渡してやるが、今日のエディの稼ぎはそれに満たなかったらしい。
「おいおい、今日の魔石の回収聞いてたより重かったぞ! それに看板! 屋根の上の看板とか聞いてなかったし危険作業料金を……」
「だから、そう思ったなら直接客から貰えって言ってんだろ!」
「言えるワケないでしょう~?! 今日の依頼人みんなお年寄りじゃん! 何パーセント仲介料取ってるか知らないけど今回はそこから少し……」
「魔石の一つも新調出来ねぇでこんなになってる俺からなら金取れるってのか?」
男はこれ見よがしにエディが褒めた痣だらけの腕を撫でる。
「ううっ……」
エディは渡された金を確認し、まぁ良いかと小さく呟いて男に背を向けた。
「無駄遣いすんじぇねぇぞ~」
エディの背中に男がそう声を掛けるとエディは「もちろん!」と力強く言って一度振り返り、満面の笑みを浮かべた。
「じゃ! これから使って来る! またなー!」
報酬額に文句を言っていたエディはもうすっかりこれから行く場所へ想いを馳せ、意気揚々と出て行ってしまう。
「はぁ……。究極の無駄遣いだろうが」
エディがどこに行くのか簡単に見当が付いた男はやれやれと溜息を吐き、端へ追いやられていた雑誌を手繰り寄せた。




