鉄の塊
「おーらぁっ!!!」
汗を飛ばしながらアイリは勇ましく攻撃を続け、コントロールにも自信が付いたのか、その一撃は四肢ではなく、おそらくは顔の役割であろう部分を捉え貫通させた。
「やった!」
大型魔獣はその穴を修復しようとゆらゆら揺れ、身体全体を波立たせる。穴が塞がればまた一回り小さくなる……今まではそうだ。
波が落ち着くと、エディの身体は嫌な予感でいっぱいになった。
そしてその予感は的中する。
「……アイリ!!!」
「えっ……?!」
大型魔獣のお尻の部分、そこから長い尻尾の様な物が現れたのだ。
そしてそれは今までのスピードを遥かに凌駕し、真下でちょこまかと動く獲物に一直線に、刺す様に迫って来た。
――使わなければアイリに当たる。
エディは右手を突き出し、尻尾に狙いを定めた。
肩、肘、手首……あの頃の感覚を思い出させる。散々やった筈だ。忘れるワケがない。現にアイリにも教えられるくらいに覚えていた。
しかし……。
「…………っ?!!」
ルアの炎は放出されなかった。
ちゃんとルアの感覚はある。なのにそれが炎になって放出されない。と、言うより、放出タイミングが想定よりも圧倒的に遅れている様だ。このままでは……!
炎を待つか、走るが速いか、一瞬の判断に迷い、背中に嫌な汗が流れた時……。
ズドッッッ……!!
聞いた事のない重低音と共に一筋の光が現れ、ただそこを横切る様に通った。
光が通った後で魔獣の尻尾は形を残したままポーンと宙を舞う。本体から離れた部分はすぐに霧散してしまう筈なのに、ほんのしばらくの間空の旅を楽しんでから、思い出したように霧散した。
「な……なん……?」
「ランちゃん!!」
光が来た方を見ると、そこには厳つい鉄の塊を担いだランが無表情に立っていた。
大きく身体の一部を失った魔獣は一度のけ反る様な動きを見せ、その後でまたウネウネと身体を波立たせる。
「一気に仕留める! 準備が整うまで再生させるな!」
言うと、ランはその鉄の塊をドカリと地面に置いて何やら手を加え出した。もう一度あの光を出す為に必要な手順なのだろう。
「ああ!」
「分かったっ!」
今ので学習したのか、アイリは少し離れた所から炎を放つ。本来のルアンジュの間合いだ。
それによって外れる炎も増えたがその分はエディが補えば良いだろう。
地味に、コツコツと削る。アイリが一つ外せば、エディが二撃与える。もちろん無意味ではないだろうが、さっきまでより修復速度が速い様だ。
「あとどれくらい?!」
三連続で攻撃を外したアイリが苛立った声でそう喚いた。
「待たせた」
ランは例の鉄の塊をもう一度肩に担ぎ、何やら筒の様な部分をまだウネウネしている大型に向ける。
その声はエディに届かなかったが、ガチャリと地面から持ち上げられた音で気付き、口径を追う。
ズドッッッッッッ……!!!
魔獣の尻尾を簡単に切り離したあの光の線が、もっと太くなって大型魔獣の顔部分に届いた。
「うわっ……!」
爆風が巻き起こり、エディは這いつくばって地面を掴む。身軽なアイリは吹っ飛ばされて尻もちを付く。
「こんなの撃つなら撃つって言ってから撃ってよ!!!」
アイリが喚いたのを聞いてエディはもっともだと思う。
光の線は大型魔獣の向こう側へ突き抜け、先程の尻尾の様に身体から離れた。形状を残したまま離れた尻尾とは違い、離れた瞬間に霧散し、残された胴体が激しく波打ち始めた。
「きっ……キモ……!」
こちらの想像通りに、今霧散したのが頭で、身体を動かす為の司令塔の役割を果たしているなら、今はそれを失ってどう動いて良いか分からない様な状態なのだろう。
波打ち、穴を修復していた大型魔獣は、不規則にジタバダともがき苦しんでいる様だった。その様がアイリにはかなり不気味に見えたのだろう。
だが叩くなら今だ。
エディは短剣を握り直し、かなり小さくなった大型……いや、もう大型とは呼べなくなったそれに迫った。あと少し削り取れれば完全に霧散するだろう。
すると後ろからガシャァッ! と、また別の金属音がして、そのままガシャガシャと近付いて来る。
「あんなとこ置きっぱで良いのぉ?!」
「どうせ誰にも扱えん」
あの謎の兵器をそのままに、ランがあの槍を持って肉弾戦に参加し、大いにその槍を振るう。
その様子を見ていたアイリはその場に座り込んだまま、膝を台に頬杖を付いてみるみる小さくなっていく魔獣を眺めていた。さすがに疲れもしたし、もはや修復もままならない魔獣に警戒する必要はないと思った様だ。
「あとは任せたー。頑張れー」
「はいはい働きますよぉっ……と!」
せめてここで活躍しなければ、ルアを使い切ったであろうアイリに申し訳が立たないし、この街の為に奔走し、強烈な一撃を放ったランに負けたくない気持ちもある。エディは運動不足の身体に鞭打った。




