超感覚
「大丈夫だ。いざとなれば使う。俺がルアの炎を使えば魔獣相手に絶対負ける事はない。それが超大型でも、その上でも」
そう言って目標を見据える。
アイリがこちらを見た気配がしたが、目標から目を逸らさない。
「ふんっ、使わせないわよ」
先に走り出したのはアイリだ。
大型魔獣の姿はもう確認出来るところまで近付いた。
どうやら肩高で一階建ての建物の屋根くらい。大型の中でも大きい方だろうが、これでも超大型とは言わない。
「合体して大きくなったみたいだけど、こうなったら魔獣は次にどんな行動を取るわけ?」
「近くに人間が来なけりゃ大人しいもんらしいぞ」
「ああ、だから大きくなり過ぎた魔獣は騎士団も放っておくんだ」
「放っておくと言うか、ルアの結界で閉じ込めているらしい」
「街の人間にしてみたら突然魔獣に住処を奪われたってのにね」
「……ここはそんな風にさせない」
とうとう二人は、大型魔獣に対峙した。
コォォオオオォォ……。
どこからどんな原理で出ている音なのか分からないが、大型魔獣からは不気味な息遣いの様な音が聞こえていた。
周りの建物はあらかた壊されていて、お世話になった薬屋の看板が黒く焦げて大型魔獣の足元に転がっている。正直どう見ても一人でどうにか出来る規模ではないが……新米ルアンジュとリンカネーションのリーダーに期待するしかない。
「やってくれちゃって……」
「どうすれば良い?」
エディは少々感情的になったが、アイリは突っ込まずにエディに作戦を仰いだ。
「まぁやる事は大型でも一緒だよ。とにかく炎で削る」
「だけどあのサイズ削るって……」
小型でも数が必要だった。短剣の補助があってようやくだ。的が大きい分無駄撃ちはしないかも知れないが、ルアの炎は無限ではない。空になっても死ぬ事はないが、また体内に満ちるまで時間が必要なのだ。
ヌゥッ……。
「……!」
戸惑うアイリを魔獣側が待っていてくれる筈もない。大きく一歩、ただ魔獣はこちらに歩みを進めただけで、二人は大きく後退を余儀なくされた。
「あのさぁ……あー……えっとなんて言ったら良いかなぁ……わぁっと!」
「きゃぁっ……! 何よ?!」
巨大な分、鈍重になったのか足元でちょこまかと逃げ回る二人に大型魔獣はなかなか狙いを定められずにいる様だ。逃げながらエディがアイリに何か伝えようと言葉を探している。
「こ~、やるじゃん? その時に肩のあたりのアレをさ……わわっと! アレしてみて」
「肩のアレをアレ?! うわぁっ!」
探したわりにろくな言葉が並ばない。アイリは困惑してそれをただ繰り返し、ギリギリで大型の前足をかわして尻もちをついた。
「いったた……この……っ!」
尻もちをついたまま右腕を突き出し、巨木の幹の様な大型魔獣の足を狙うアイリ。
「その時に肩のアレ!」
「はぁっ……?! 肩の何……あ?」
それはルアンジュにしか分からない、しかもルアの炎をちゃんと放出した事がある人間にしか分からない、超感覚的なものだった。
肩のあたりに意識を向けると何か……言うなれば火力調整装置の様な感覚がある。しっかりここを通せば、限られた体内のルアを増幅する事が出来そうだ。
「うっ……うわぁぁっ!!」
えいっ! でも、やぁっ! でも、ましてや、ほいっ! でもなく、アイリは右手からルアの炎を放出させた。いや、させてしまった。
近距離だった為それは見事に大型魔獣の足に当たり三分の一程を霧散させる事に成功した。
「お……おお……」
「あと放出する時に何か……こう……グッ! ギュイッて感じでやれば暴発とかも防げる筈だから。おらっ!」
足元で逃げ回るしか出来なかったエディだが、アイリの攻撃で穴の修復に入った魔獣を斬り付ける。しかしルアの炎に比べれば、大型魔獣にとってそれは微々たる攻撃だ。せいぜい気を逸らさせてアイリが攻撃を加えやすくしてやれれば良いだろう。
「ぐぅーっ! ぎゅいーっ!!」
「違う! グッ! ギュイッ!」
「グッ! ギュイッ! あっ!!」
「そうそれ!」
戦いの中で、アイリは徐々にルアンジュの戦い方を習得してゆく。一般人からしてみれば何が何やらサッパリだろうが、ルアンジュならば分かる何かがある様だ。
もちろん本来、大型魔獣を相手にやる事ではない。この個体が大型と言うのを差し引いても鈍重なタイプであるのが救いだ。
「はぁ……はぁ……」
「一旦距離を取って整えろ!」
アイリの様子を細かく確認しながら指示を出していたエディがそう言ったがアイリは聞かなかった。
「へっ……平気よ! だんだん小さくなって来てる!」
「大型は持久戦だ! 無理すんな!」
「無理するわよ! これ以上街を壊されてたまるかっての!」
ある意味、戦闘によって興奮状態に陥っている様だ。
「おりゃあっ!」
火力は上がっている様で、狙いも定まって来た。調子は良い様だが、だからこそ危ういとエディは思った。
それに……確かに小さくはなって来たが、それで確実に弱くなっていくとは限らないのが、未だ謎が多いこの魔獣と言う物体だ。今のところ単調な攻撃、動きしか見せていないが完全に削り切るまでこのままで済むとは思えない。つまりこの愚鈍な動きに慣れてしまってはいけないのだ。




