誕生日教えて
「うちの事……この街の人の事、騙しとったと?」
違う……違う……。そんなつもりなかった。けど、結果そうかも知れない。そう思うと言葉が出て来ない。
「……ごめん」
「あの日……、エディ君の様子がおかしかったけん、様子ば見に部屋に訪ねたと。そしたら、リンカネーションとか、エドワード・エイマーズとか聞こえて来て……それで騎士団に知らせたっちゃ……」
そして逃がすまいと、誕生日に一緒に居て欲しいと頼んだ。
エディにとってあまりに残酷な仕打ちだが、一般人がエドワード・エイマーズとリンカネーションと聞いてやる行動としてはごく当たり前の事だろう。コーニコの方が裏切られた気持ちなのだ。
「……今日、誕生日じゃないのか……」
「……」
責めるような事を言ってすぐに後悔する。三年もこの街に居て誕生日を知らなかった自分が悪いのだと思った。
「なして生きとうと?」
ザァッと血の気が引いた感覚がした。
何か言おうと考えていたけど、もう何も思い付かなくなった。
「……やっぱ……生きてる価値ないかなぁ……」
「そっ……そげな意味じゃなか……!」
コーニコは慌てて取り繕ったが、もはやその真意はどうでも良い。
ルアンジュでありながらその力は災害と同等。家族も居ない。
コーニコとの未来を一瞬夢見てしまったが、随分と過ぎた願いだった様だ。
このまま耐え続ければ、きっとそのうち騎士団がやって来るだろう。すっかり街が蹂躙され尽くされるまでここで耐え、コーニコは騎士団に保護してもらって自分はそのまま抵抗しない。それで良いじゃないか。
「大丈夫だよコーニコちゃん、俺は別にリンカネーションじゃない。このまま俺を信じて、ジッとしててね……」
パァーンッッ!
豪快な破裂音がして、ほのかな碧の、二人だけの空間は瞬時に一掃された。
「?!」
全身に圧し掛かっていた重みや痛みが一気に消し飛んで、目の前がパァッと明るくなる。
一体何だ? と理解が追い付かないまま開けた景色に目を向けると、木片の山の上で金髪の少女が碧い炎を纏って勇ましく立っている。
「なーにジッとしてんのよっ?! 何でも屋なら肉弾戦もわきまえてんでしょ?! さっさと立つ!!」
目が合うと、そうまくし立てられた。
「アイリ……」
あまりの苛烈さに思わず背筋が伸びる。もうこのまま、動くつもりはなかったのに。
気付くと膝を立てていた。
「アイリちゃんも……ルアンジュ?!」
その炎を見てコーニコが言うと、アイリはフンと鼻を鳴らした。
「こっちだ!」
声の方を見るとランも来ている。手にはかなりのリーチの槍が握られていて、今まで見えなかったマントの下の逞しい身体も見えた。あの巨大な背嚢の中身は組み立て式の武器だったのだろう。かなり頼もしいと思えた。
「北にある頑丈な建物に住民を避難させている。この辺を見回って、彼女も連れて行こう。数は恐らく小型が十~十五、中心地に大型が一だ。ここに来るまでに四体霧散させた。住民の避難が済んで獲物がなくなればおそらく大型に寄って行くだろう。二人でそっちを目指せ」
「……あ、ああ」
貴重なルアンジュを口説き落とそうにも、ろくな事を言えなかったランがやたらと的確に指示を飛ばすではないか。付いていたもう片方の膝も立て、エディは立ち上がり、コーニコも立たせた。
「来い。歩けるな?」
ランは素早くコーニコに近付き怪我のない事を確認するとすぐに北の建物を目指し大股で歩き出した。おそらく船の部品を作っている工場だろう。
「ああ、丸腰だったな、これを使え。ないよりはマシだろう」
そう言ってもう一度エディに振り返り、腰に付けていた短剣を投げて寄越す。むき身だったが、それは上手に柄の部分がエディの手に収まった。
そしてまた歩き出すともう振り返る様子はない。
「あのっ……エディく……」
「さっさと行かないと置いて行かれるわよ! 全員助けられるかなんて分かんない状況なんだからね!」
「あ……」
ランは速度を落とさない。アイリの言う通りなんだろう。それでもこの場を去るのが憚られるのか、コーニコは戸惑った。カラと一緒に逃げずにわざわざ戻って来たのはコーニコ自身なのだ。
「コーニコちゃん……」
そんなコーニコに、自分は何を言ってあげられるのだろう。何が正しいのだろう。
「今度誕生日教えて!」
少し迷ってから、エディはそう言ってコーニコに笑顔を見せた。上手に出来たかは分からないけど。そしてエディの方からその場を去る。
「行こうアイリ」
「走れるんなら走る!」
「分かったよ」
正直走るにはまだ辛かったがエディは懸命にアイリに続いて走り出した。
さっきは本当に、もう終わりにしようと思っていたのに。 揺れる金髪を見ながら思い出す。
借金も返さずに死ぬのは……勝手だよなぁ。




