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星を巡るルア  作者: 焼肉一番


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庇護と裏切り

「うっ……!」


 コーニコに体重が乗りそうになるのを必死で耐えるが、筋力だけでどうにかなりそうにはない。まだ建物が崩れる音は鳴り続けていて、重量が増す事が想像出来る。


「エディ……く……」


 腕の中で細い声が聞こえて、エディは肘を伸ばしてコーニコとの間に空間を広げた。

 全身を、ほのかに碧く光らせながら。


「……エディ君……」


 カラカラとか、コツンとか、軽い音がする様になって、コーニコと自分の息遣いが良く聞こえた。崩壊は収まったらしい。

 崩壊した道具屋の下で、碧い光の中、二人は向かい合っていた。


「大丈夫?」


「うん……」


「カラは?」


「あの後すぐハンさんに会ったと」


 ハンさんとはカラの父親だ。道具屋が定休日だった為に外出していて、慌てて店へ戻る途中だったのである。


「そうか……良かった……」


「エディ君、血……」


 魔獣に抉られたこめかみは思いのほか出血が酷く、その血は顔の半分を濡らし、首筋まで流れていた。コーニコの顔にもかかってしまいそうだ。


「ごめん」


 イヤだろうなと思ってそう言ったエディだったが、コーニコはそっとそのこめかみに触れた。


「痛かね……」


「平気」


 そう言ったのに、碧い光の中で見るコーニコの瞳に涙が溜まって来たのに気付いた。


「コーニコちゃんこそどっか痛い?」


 黙って首を振るコーニコに少しだけ安心する。


「なしてこんなになってまで守ってくれると?」


「当たり前じゃない」


「うちだけやなくて……カラちゃんも」


「それも当たり前でしょ?」


「……なして……」


 コーニコの何故は、エディに対する何故だけではなくたくさんの意味がありそうだった。その答えは出ないまま、コーニコが小さく頭を振ってから言う。 


「すぐに! すぐに応援が来るはずやちゃ。それまでの辛抱ばい」


 コーニコが無理して笑顔を作っているのは分かったが、エディはそれに頷く気にはなれなかった。


「こんな……何の価値もない街に騎士団が来てくれるわけないよ。もし来たとしてもこの規模を見て引き返す、そういう連中なんだよ。……知らないけどね」


 言った後でエディは知らないけどと付け加えたが、実際に魔獣災害の規模を見て引き返す騎士団を目の当たりにした事がある。そしてその時の規模を今回は遥かに超えていると感じた。


「来るっちゃ……」


 来ない。来ても引き返す。これは確信に近かった。だからこそこの状況を自力でどうにかしなければいけないのだ。さぁどうする、と地面を掴むと、コーニコが続けた。


「だって……だってうち、騎士団にルアを飛ばしたとよ」


 どんなに貧しい街でも、大概は街に一つはルアを利用した通信機がある。大きな魔石に文字を書くと、遠隔に対となる魔石がありそれが浮かび上がるのだ。緊急時に中央へ騎士団の要請をしたりするのに使うのである。


「……いつ?」 


 魔獣が発生した時、コーニコは一緒に居た。


「昨日のうちに……エドワード・エイマーズが、リンカネーションに加担しました、って言ったと……」


「やっぱ知ってたんだ?」


 十五の時に中央に居たと聞いて正直イヤな予感はしていた。


「ごめん……。放出はしてないから、大丈夫、だと思うけど……。今はこれしか方法がない」


 見た事のない顔で笑うエディを見てコーニコは慌てて首を横に振った。


「知ってたけど……でも……」


 コーニコが知っていたエドワード・エイマーズとは、違った。


「うちの知ってるエドワード・エイマーズは……ルアの炎に、魔獣以上の、致死量の瘴気が含まれてる危険人物……」


「……はは」


 どう反応するのが正しいのか分からず、エディは口元を歪ませた。その認識はエディ本人と同じだ。

 若くして中央騎士団に入団したエディの初任務。

 巨大魔獣の発生ですでに手の施しようがなく、騎士団が撤退の選択をしたにも関わらずエドワード・エイマーズは一人残り魔獣を殲滅した。そこまでなら彼は英雄だ。

 しかし、その村の住人は結局、瘴気が原因で命を落としたのである。

 彼が残した、ルアの炎の瘴気で……。

 魔獣で死ぬならそれは災害。しかし、ルアンジュの瘴気で死んだとなればそれは殺人。しかも大量殺人だ。


「うち、あの事件があった時、そんなルアンジュがおるって聞いて、恐ろしくて、でも興味があって、エディ君の公開裁判を見に行って、そして死刑だっち言い渡されるのを見たんばい」


 そう、命令違反の出来損ないルアンジュは大いに危険とみなされ、中央が下した判決は死刑だった。

 もちろん殺意があってした事ではないが、殺意の有無など関係ない程、大量の人が死んでしまった。


「やから、エディ君が初めてお店に来た時他人だと思ったっちゃ。エドワード・エイマーズは危険人物として中央イースライ家に処刑された。良く似とるけど、そんなわけないって。でも……いつ来てもエディ君の身体に瘴気が溜まっていると感じた事はなかった」


「……」


「ずっと、おかしいと思っとった……。痣が出んと怪しまれん様にお店に通っとったっちゃね」


 違う、会いたかったからだ。だけど言ったら白々しいと思われるだろう。

 コーニコはあの時、痣の為にお店に通うのではないと言った時に「知っている」と答えた。エディは自分の気持ちが届いていると思って浮かれたがそんな意味ではなく、ルアンジュである事を隠す為だと気付いていると言う意味だったのだ。

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