バスケットの中身
「芝生の方と花壇の方どっちが良かと?」
「犬が走れるように芝生にしようか!」
「……? うん、ほならこっちばい」
噛み合わぬままに二人は目的の西公園に辿り着き、お弁当を食べられる場所を探した。
「何か敷く物も持ってくれば良かったっちゃけど……大丈夫そうやね」
「あっ! これ! 敷いたら良いから!」
芝生の状態を確認してそのまま座ろうとしたコーニコの下にエディがサッと着ていた上着を滑り込ませた。
「えっ、良かよ! 芝生綺麗やし、エディ君の服が皺になってしまうとよ!」
「これくらいさせてよ! コーニコちゃんの誕生日なのに、俺何も用意出来てないし」
「そんなの良かって! うちが急に言ったんやし!」
「お願い! 何なら芝生の方が綺麗かも知れないけど!」
エディがそこまで言うと、コーニコは負けた様に少し笑い、エディの上着に腰を下ろした。
「エディ君……優しかね……」
その顔が悲しそうに見えてエディは途端に不安になって言った。
「コーニコちゃん?」
「エディ君、いつも優しか。吸瘴師の仕事ば馬鹿にして、口も聞いてくれんお客さんもおるとに、エディ君いつも楽しい話ば聞かせてくれるし、うちの話しも聞いてくれる」
「誰だよそれ! 俺が一言注意してやるよ!」
「あっ! ううん! この街でじゃなか! うち……出身はここなんやけど、でも、一度イースライに出た事があると」
「えっ?」
世界を治めるイースライ家の本邸、経済の中心部である巨大な都市がそのままイースライと呼ばれている。それはもうすっかり都市としての呼称だ。中央、と呼ばれる事もある。
「へ、へぇ! そうだったんだ!? いつ頃行ってたの?」
「十五になってすぐ」
「へぇ……あ、あーええっと何だっけ、そうか! そこで嫌な客が居たって話しか!」
「うちに出来る事なんて吸瘴師くらいしかなかのに、中央に憧れてしもて。でも中央じゃすっかり魔石が流通して、お金持ちばっかりおったと。吸瘴屋に通わなきゃならない事が屈辱やって、そんなお客さんばっかりやったばい」
コーニコはすっかり元気をなくし、どんどん俯き加減になっていく。
「今は! 今はそんな客居ないだろ?! 昔の事なんか忘れてさ! あ、あーまぁ、どうしても思い出しちゃう時はあるかも知れないけど……そういう時は……そうだなぁ、どうしたら良いんだろう……な」
忘れてしまえば良い。そんな風に言うのは簡単で無責任だと、エディは知っている。だからこそ上手い言葉が出て来ない。
「俺だったら、コーニコちゃんとこ行っちゃうけど」
そう言って少しおどけて見せると、ほんのちょっとだけコーニコの口角が上がった気がした。その隙とばかりに言葉を重ねたエディだったが、次の言葉はまたコーニコに暗い影を落とした。
「そうだ! お弁当! 持って来てくれたんだよね! 早く食べたいな!」
「……ごめんちゃ」
コーニコが持って来たバスケットの中身を開く。そっと中を見てみると、何も入っていなかった。
「あれっ? 中身忘れて来ちゃったの? あははっ! おっちょこちょいだなぁ~! 良いよ! また今度のお楽しみで……」
「最初から用意してなかちゃ」
「えっ? あー! あははっ! ドッキリ?! ははっ! 騙されたぁ~! あっ、だからバスケット持たせてくれなかったん……」
「違うばい。うち……」
バゥッ……!!
何かが破裂した様な音が鳴り、震源地から広範囲で爆風が広がった。
「キャッ……!」
コーニコが正面に風を受けて小さな悲鳴を上げると、背中にそれを受けたエディが後方を確認する前にコーニコに飛び付いた。コーニコをそれから守る様に腕の中に匿う。
そうして首だけを動かし、音がした方を確認する。




