デート
翌日は幸い天気にも恵まれた。
デートと言ってもそれ用の服も靴もないし、いつもの服を洗濯して精一杯身綺麗にして出掛ける。
それはコーニコの方もそうだった様だが、首元にいつもは付けていないネックレスが光っていた。それだけで、エディはどうしようもなく浮かれてしまう。
「なんかさ、俺、今まで誕生日とか全然気にした事なくって、それで今日もさ、プレゼントとか用意出来てなくて、ごめんね!」
「ううん、うちもエディ君の誕生日知らんちゃ」
「あははっ! 俺はこの前終わったばっかりだ! 自分のも気にしてなくて、気付いたら二十三になってた。ねぇねぇ! これからは毎年祝おうか!」
「そうやね」
「じゃあ今日はさ、何しよっか。とりあえずご飯食べて……」
「エディ君お金ないやろ?」
「大丈夫! 土下座してヨーズに借り……大丈夫大丈夫! へそくりがあるから!」
「ならそのへそくりはとっておくっちゃ。うち、お弁当作って来たから青空の下で一緒に食べるばい」
「えっ……!」
コーニコの気遣いに言葉を失うエディ。本来なら誕生日のコーニコにこちらが何かしてやらなければならないだろうに。
「味は保証出来んけど」
コーニコが両手で持ったバスケットを少しだけ持ち上げた。
「美味しいに決まってる! ありがとうコーニコちゃん! コーニコちゃんありがとう!」
「ふふっ、大袈裟だっちゃ! 西公園の方ならお花とかも綺麗な筈ばい」
「そうだね、じゃーちょっと歩こう! 色々話しながらさ! あ、それ持つよ!」
「んーん! 大丈夫ばい! 重くなかから」
この流れなら手くらい握れるかと期待したエディだったが両手はバスケットに取られてしまった。どこか良いタイミングがある筈だとソワソワしながらコーニコとの散歩を楽しむ。
「だから良いって! 大丈夫!」
「いっ?!」
十分ほど歩いただろうか。西公園までの道中でアイリの大声が聞こえて来て無意識に身体が硬直する。狭い街だとは言っても普段からアイリとのエンカウントが多過ぎる。それはアイリの方が探しているからだが、今日はそっとしておいてくれる筈だ。
「それじゃ俺の気が済まねぇよ! 俺のせい……なんだろ? その傷……」
やはり別に連れがいる様だ。
エディはコーニコと目を合わせ、二人でそっとその声が聞こえた裏路地を覗いた。
「あはっ、違う違う! これは酔っ払って看板にぶつかったんだって! だから本当にいつでも良いんだよ。まだ薬必要なんでしょ? まずは元気になって、それからだよ!」
申し訳なさそうに頭を下げているのが中古魔石屋のロイだ。そしてもう一人、顔も声もアイリに見えるが……。
「誰だ……? あいつ?」
アイリの口から、いつでも良い、などとついぞ聞いた事のないフレーズが出て来てエディは混乱する。
「アイリちゃん、またボスに怒られて怪我しとう……」
コーニコの方はちゃんとアイリだと認識した様だが、エディはコーニコの言葉にも混乱してしまう。
「え? どうして? 看板にぶつかったって……」
「エディ君にぶか。どこの看板にどうぶつけたらあんなになると?」
「……た、確かに?」
アイリが新しく作った傷は頬の横傷。何か鋭利な物を投げつけられたとか、何かに引っ掻かれた様な傷に見えた。それこそ猫に引っ掻かれたのだと言えばそれで誤魔化せただろうが、下手な嘘が逆に墓穴を掘る結果になっている。
「事情を聞いちゃうと無理に取り立て出来ないからいっつもボスに怒られとう。吸瘴師ならあの痣も瘴気で出来たものじゃない事はすぐに分かるちゃ」
ああ、それでルアンジュなのに痣があるのかと納得すると同時に、どうしてそんな思いまでして取り立て屋なんてやっているんだろうと疑問が湧く。
「アイリちゃん、優しいから取り立ての仕事向いてないんやちゃ」
本人は昨日、お金の大事さを知ってるから向いてると言っていた事を思い出す。エディはコーニコの意見に賛成だ。
「それで……取り立て出来なくて、ボスに殴られたりしてるってワケか?」
「うん、本人は隠しとうけど、たぶん……」
おそらく、それは事実なのだろう。
エディ以外の人間にも、エディにやるくらいゴリゴリに取り立てが出来れば殴られる事もあるまいに。エディ自身がそう思った。
「コーニコちゃん」
「ん?」
「俺、死に物狂いで働かなきゃいけない理由がまた一つ増えたよ。だから、もしかしたらちょっと待たせる事になるかも知れないけど、でもやっぱ順番は間違えちゃいけないもんな」
「……?」
今のところ、エディの気持ちはコーニコに伝えていないが、色々とすっ飛ばしてエディの内心は暴走をしている。
借金はたっぷりの利子を付けてきっちり返す。アイリが他の人間から取り立てられないならその利子でカバー出来るくらいに。そうしてからコーニコと結婚する。小さな家を買い、大きな犬を飼う。ここまで妄想が広がった。




