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「アスラン様。お久しぶりです」
「やぁ、レア久しぶりだね」
星光心教教会。その一室で聖女レアと元王太子アスランの会合。あの卒業パーティからすでに一年が経過していた。
「ヒュー君とリズの婚約が決まったらしいね」
「えぇ、喜ばしいことですね」
「それで君の計画通りに進んでいるんだよね」
アスランがレアに尋ねる。
「はい。順調ですよ。民たちはアスラン様とミラの悲恋の物語に夢中です」
「ははっ、よく信じたね。あの卒業パーティはたくさんの人がいたのに」
「貴族と平民の間にそれだけの隔たりがある、ということです。そして民衆はいつだってそういう物語に飢えているんです」
「ふーん。そしたら次は僕が頑張らなくてはね」
◇◇◇
悲恋の王子アスランを旗頭とした聖地奪還騎士団、通称ニラグ騎士団の成立の噂は大陸中に広まった。
聖人候補であった敬虔な星光神教徒であったミラの意思を次ぎ、アスランはニラグ・ドールを奪還すべく国の垣根を越えた騎士団が結成したのだそうだ。
民衆を盛り上げた悲恋の物語。その続きに彼らは大いに沸き立った。
その盛り上がりは国境を越え、大陸中に広がる。
「星光の女神。その輝きを地上に再臨させよう。ニラグ騎士団アスランがここに宣言する! 今は亡き乙女の願い、其の願いは我らの願いだ」
「「「おおおーっ‼」」」
ニラグ騎士団の人気は日に日に強まり、国境や身分の垣根を越えた信徒たちで結成された彼らを支援する商人、貴族も増えていく。
しかしそれはいいことばかりではなかった。
◇◇◇
「まったくあの煤汚れは!」
アリストリア王国、次期国王クリストフは苛立ちをぶつけるように壁を殴る。側近たちはその荒れぶりに怯えるだけ。
「殿下落ち着いてください」
「煩いっ! 何がニラグ騎士団だ。あれのせいで俺の考えていた筋書きが大きく乱されたんだぞ」
「確かに殿下が計画していた帝国への侵攻作戦は」
「頓挫だ。バカな民衆どものみならず貴族の中にも教会へ寄進したり、騎士団に加わるものまで出てくる始末。国力が下がるばかりだ」
いくら星光神教の教えが人類みな平等、身分制度を批判するものであっても貴族の中には傾倒するものも数多くいる。
そんな貴族たちの中には自分が抱えている騎士団をニラグ騎士団に派遣したり、物資を支援するものまでいた。そうした動きは王国のみならず多数の国の経済を停滞させた。
「どうにかせねば。あの愚か共をどうにかしなければ」
クリストフが苦々し気に窓から王都を見下ろす。
「殿下。私に案があります」
そんな中、いつの間にか加わっていた初老の男が前に進み出る。
「フラド司教か。どうした? ニラグ騎士団とやらのことで忙しいのではないか」
「私も殿下と同じです。あの騎士団は邪魔なのですよ」
「司教からすれば教会に信望が集まるのは願ったりではないのか、それにニラグ奪還はそなたらの悲願だったはずでは?」
フラド司教はその通り、と頷くが眉根に皺が寄っている。
「その通り。ですが、我々も人間。信仰だけでは生きていけないのです」
「そうかっ! 司教、そなたとは話が合いそうだ」
クリストフとフラドが手を取り合う。
それすらも聖女レアの思惑の内にあると知らず。
◇◇◇
それは殆どの人にとっては唐突な出来事だった。
「教会騎士アスランは聖地奪還という甘言を用いて民を扇動。星光神教は騎士アスランを破門とする」
聖地奪還騎士団団長アスランへの異端認定。そして教会側は新たな団長を任命。
しかしこれに騎士団は反発。
「それはそうでしょう。お馬鹿な人たちね。焦り過ぎたのよ」
レアがザジからの報告を聞きながら答える。
「ニラグ騎士団は聖地への遠征を急遽中止し、アリストリア王国への侵攻を開始。さらに帝国側はニラグ騎士団を擁護し、援軍派兵を決定したらしい」
「帝国もニラグ騎士団は悩みの種でしょうけれど、その悩みの種が敵国である王国を苦しめるとあれば協力を惜しまないでしょうね」
「アリストリア王国はこれで滅ぶのか」
「えぇ、この国は滅びるの。そしてアリストリア王国領土を占領するのはアスラン様を筆頭とする星光神教騎士団」
「しかしアスランは破門されているのだろう」
「その通りよ。ここからアスラン様を国王とする宗教国家が誕生するの」
「嬉しそうだな」
レアは自分をじっと見つめるザジに微笑み返す。
「えぇ、嬉しいわ。ようやく動きだすの。私の悲願が」
「本当に可能なのか」
「できるわ」
人々が聖女と称えるレア。その佇まいはまさしく聖女。
「この世界からすべての国家、社会制度、身分、すべての人々を争いに駆り立てる仕組みを消し去るわ。傲慢な人間をただのヒトに戻すの」
「そうすれば」
「そうすれば世界は平和になる」
とてもいいことね、とレアは微笑んだ。




