02
「うわぁ、絶景ですね!」
やってきましたクーリユ公爵領。
お嬢様付きの侍女となってなんと一年。
まるで次話に飛ぶくらいあっという間の一年だった。
本日は王都の公爵邸を離れて馬車に揺られて数日の場所にある公爵領へ。
現在わたしたちがいるのは公爵領と他領の境界にある山の中腹部。領邸へ行く前に公爵領の全景を眺めよう、というお嬢様の提案でやってきました。
「そうですね。前世と比べて王都周辺も自然豊かな場所でしたけれど、ここはすごいです!」
お嬢様のふわふわしたブロンド色の髪が風にたなびいている。
「そうですねぇ。前世でもこんな景色は映像でしか見たことなかったです」
「あら、海外旅行とかは行かなかったの?」
「ないですね。そんな裕福な家でもなかったですし、そもそも飛行機とか船だって乗ったことないです」
「学校の旅行は?」
「新幹線で京都です」
「京都いいわね。私、旅行とか行ったことなかったから」
「修学旅行とかもですか?」
「うーん。私学校行ってなかったから」
あっ、地雷踏んだ?
わたしの世代なんかは学年に結構な人数いたし、理由だって様々だった。お嬢様って前世わたしより年上よね? 結構ナイーブな理由だったりするのかな。
「あっ、気にしないで。別にそれは気にしていないのよ。やることが多かったの」
「やること?」
仕事とかかしら?
学校にいけないほどってもしかして芸能人とかだったりする。
「お嬢様の前世って――」
「!」
名前を聞こうとした言葉は突然の叫び声に遮られた。
「ニーナ」
「はい、お嬢様」
わたしは周囲に控えていた公爵家の騎士たちに目くばせを送った。
三名がお嬢様を囲んで警戒態勢をとり、残りが周囲の警戒に散らばる。
「ひ、人の叫び声でしたね」
「えぇ」
お嬢様はまっすぐと正面を見つめている。
わたしは震える身体を抱きしめながら周囲をきょろきょろと見回していることしかできない。
「馬車が峡谷に落下したようです」
「まぁ!」
周辺の警邏にでかけていた騎士が戻ってきて報告を行う。
「まだ生きている人がいるかもしれません。すぐに救助を。あなたは馬を奔らせて領邸に報告と人手を確保してきなさい」
「は、はっ!」
お嬢様が騎士たちに指示を飛ばす。
「ニーナ私たちも移動しますよ」
「えっ、お嬢様⁉」
「私たちも移動しないと騎士たちが動けません。事故ならば人手は多ければ多いほうがいいはずです」
騎士たちに先導されながら事故現場へ。
「うわぁ、これは」
「どうやらマズル商会の馬車のようですね」
「隣領で商品を仕入れて王都に向かおうとしていたようです」
馬車は大破して、周囲には積み荷と馬や商人であろう人が倒れているのが見える。
あれは助からないだろうな。
すると谷底に降りていた騎士が大声をあげる。
「生存者がいますっ!」
騎士が小さな人影を背負ってあがってくる。
「これは」
「えぇ。そうですね」
男の子。ボロの布っ切れで身体は傷だらけ。事故でついた傷以外にも古傷が無数についている。
それよりも目につくのは本来耳がある場所には何もなく、頭頂部に獣耳が生えている。尾骶骨のあたりからは黒毛の細長い尻尾が伸びている。
「じ、獣人ですね」
「まぁ、初めて見ました」
うーんこの獣人の子供どこかで見覚えがあるような。ないような。
「お嬢様お下がりください。穢れが移ります」
獣人の子供を覗き込もうとしたレアお嬢様を騎士のひとりが下がらせる。
そうなのだ。
この世界の元? となっている小説でも亜人種差別はテンプレートとして存在している。
星光神教の聖典。その中で書かれていることによれば、女神がこの世界に十二の使徒を遣わせた。彼らはそれぞれに女神からの命を帯びていた。
第一使徒は女神からの命を遂行した。それを女神は祝福し、彼と彼の子孫に永劫の繁栄を約束した。
その第一使徒こそがヒト族の祖先だ。
しかしそれ以外の使徒たちは女神の命も忘れて、奔放に生きた。中には大罪を犯すものまでいた。よって女神は彼らに罰を与えた。その罰は獣と交わらせるというものだった。
よって星光神教において、彼ら亜人種は罪人の子孫であり、その姿は罰であり、穢れそのものと言える。
「黙りなさいっ!」
「お嬢様?」
レアお嬢様が静かな怒りをその身に漂わせている。
「うぅっ」
「あなた大丈夫ですか⁉」
獣人の子供が唸り声をあげた。
お嬢様はなおも制止しようとする騎士の手を払いのけて駆け寄る。
「すぐに手当てを! ニーナできますね」
「は、はい」
名前を呼ばれて咄嗟に返事を返す。
これでも前世は看護大学の学生ですから、簡単な手当やなんかはできますとも。
「大丈夫。必ず助けます。だから貴方も諦めないでください」
お嬢様が獣人の子供の手を、その両手で握りしめる。
「彼を連れ帰ります。屋敷にお医者様の手配を」
「お、お嬢様。ですが獣人を」
「いい加減になさい。レア・クーリユが命じます。疾く動き、私の命に従いなさい」
「は、はいっ!」
手当を行いながら、騎士たちに指示を出すお嬢様を垣間見る。
この方はなんというか命じることに慣れているし、その姿も様になっている。公爵令嬢だとか関係なく、なんというかこの人の本質を見たような気がした。
レアお嬢様、あなたの前世って。
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