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卒業パーティは中止。
あたしは学院内にある貴賓室に連行された。
外への出入り口の前には学院の警護騎士が立っている。
「どうなってるのよ」
室内で一人頭を抱える。
「レアったら一体どうしたの。あたしがレアを殺そうとした?」
レアが先ほどのパーティで行った告発の内容。
ひとつも思い当たるところはない。そもそも聖人だってあたしは秘術が発現しないならそれはそれで構わない、と思っている。
聖人に選ばれて堅苦しい生活をするぐらいならば、村に戻って実家の仕事を手伝って生きていく方がいい。
「――」
頭を抱えて一人唸っていると外が騒がしい。騎士たちと誰かが揉めているらしい。
しばらくすると音は止んで扉が開かれた。
「ごきげんようミラ」
「レア」
開いた扉から入室してきたのはレアだった。
まるで先ほどまでのことがなかったかのような、いつも通りの柔和な笑顔。
「あたしは何もしてない! きっと誰かがあたしに罪を擦りつけようとしているのよ」
そうだ。
誰かがレアの命を狙って、その罪をあたしに擦りつけようとしているんだ。
出自が低いあたしは罪を吹っ掛ける相手としてはうってつけだ。
「その誰かを見つけなくちゃ!」
本当の犯人が見つかればあたしも助かるし、何よりレアが狙われることだってなくなる。
「あたしは本当に違うの! だからあたしを捕まえてもレアは危ないままなんだよ」
「あら、そんなことはないわ」
「レア?」
「そうよね。ミラは私の心配もしてくれているのね。本当にあなたは善い人。まずはあなたを安心させてあげなくてはいけないわね」
「どうしたの?」
レアが腕を捲る。
「この傷は自分でつけたものよ。私の命を狙う賊なんていないから安心していいの」
「え? 自分で? なんで? さっきのは」
「ふふっ、慌てないでね。さっきの男はクーリユ領内で捕らえた盗賊団の首領。あなたに命令されて私を襲いました、と証言すれば家族は見逃してあげるって約束してあったの」
「どうして」
「そうね。悪党を名乗っていても家族は大事なのでしょう。とても人らしくて素敵だと思ったから家族は助けてあげる、と約束したのよ」
「違う! どうしてあたしがレアを」
「そちらね。これは世界平和のためなの。ミラはこの世界が好きかしら? 私は嫌いよ。大嫌い。命っていうのはすべてが等しく貴いものだと思わない?」
レアはまるで酔いしれるように語り続ける。
「なのに人は生れで違うものだと決めつけ、私とミラ、アスランだって貴族、平民、王族と違っている」
「そんなの。あたしと比べたらレアやアスランはまったく違う!」
「そんなことないのよ。ただ育ち方が違うだけ。もしもミラがクーリユ公爵家に生れていたら、あなたが思う貴族令嬢のようなミラに育っていたでしょうね。高貴な血筋など存在しないのよ。環境が人を変えるだけ。さっきの盗賊団の男だって王家に生れていれば王様だった。そんなの可笑しい。とても可笑しいでしょ。ふふふっ」
一人笑うレア。
「身分というのは集団生活を効率的に行うための役割に過ぎなかったのよ。それがいつの間にか変容してしまった。そこに個の利益を求める者の欲求が絡んでしまう。その欲求のため巨大化した集団は対立を内外に孕み続け、殺し合いへと発展する。それは生存のためでも種の継続のためでもない。ただただ膨れ上がる欲望を満たすために、満たせば満たした分だけさらに膨れ上がる。生きるために必要のない欲求のために、人は戦争を行う」
「どうしたのレア」
「どうもしないの。私はずっとずっと悲しかった。人は誰も幸福になれない。どんな世界でも、どれだけ長い歴史の積み重ねを振り返っても人は争い。その争いは新しい争いを産むだけ」
「ちょっとそれとさっきのこととか、あたしがこんな状況のことの説明になってない」
「本来、この場で告発されるのはレア・クーリユだったのよ。相手はミラ」
「あたしが?」
あたしがレアを告発するって? どうして? というかレアは告発されるような悪事を働いているの。
戸惑うあたしに、レアは首を横に振る。
「ミラはミラでも違う人よ。あなたはたまたま同じ名前だっただけ。本来のミラは強力な秘術を持って聖人以上の存在、女神に近き聖女と呼ばれる存在にまで上り詰めることになるの。そしてこの国に繁栄をもたらす」
「それじゃあたしは」
「あなたは本来のミラが物語の主役として出現しないように、私が用意したスケープゴート。本物のミラは今頃どこかの村で自分の秘術も、本来の運命も知らず物語とは関係のない日々を生きているわ」
「意味がわからない」
「大丈夫よ。それにこれであなたは安心できたでしょう? 全部私が計画したことよ。本当はただの村人だったあなたに秘術があると偽って星光神教に聖人指定させた。そして本来学院の卒業パーティで起きる告発事件。告発される者と告発する者の立場を入れ替える」
レアは自分を指さす。
「本来は告発される私。それを告発する者へ」
「そんなことして何になるのよ」
「先に言ったでしょう。世界平和よ。これであなたは物語の舞台から消える。聖女ミラは生まれなかったけれど、代わりに聖女レアが誕生する」
「それと世界平和がどう関係するのよ」
「あなたも聖人候補として教育されているのなら、星光神教の教えは知っているでしょう? 人はみんな平等、そうでしょう。だから私は聖女として人々に平等をもたらすの」
「そんなことできるわけない」
いくら星光神教が大陸中の国々に影響を持っていても、レアの言うことができるように思えない。
「できるのよ。けどそれを説明するには時間が足りないようね」
「えっ。あれ、さっきの人」
部屋に新たな入室者。
それは先ほど会場にいたレアの従者。
「ザジ、準備はできているかしら?」
「あぁ、レアの言う通りにした」
フードを外した従者の頭にはヒトとは違う耳。獣人。
それよりも彼の手には血の付いた小ぶりのナイフ。もう片方の手には大きな袋。
「あっ」
さらにその背後。
わずかに開いた扉の向こう。廊下に倒れる騎士の姿が見える。
「それは?」
レアが獣人の青年が持つ袋を指さす。
「レアの言いつけ通り教会の人を捕まえてきた。これを犯人にするんだろう」
「えぇ、そうね。偉いわザジ」
袋を床に下ろす。その勢いで袋の中身が飛び出す。教会の祭服に身を包んだ男性。あたしも見覚えがある司祭さんだった。
そしてすでに死んでいた。
喉元に大きな刺し傷。きっとこの獣人が手にしているナイフ。
「きゃっ、ぐ」
叫ぼうとした口をふさがれる。
「そろそろ人が来てしまうから終わりにしましょう。聖人候補ミラの失態を知った星光神教の熱心な信徒である司祭様は強硬手段に出た。騎士二人と監禁されていたミラを殺害。その後自害した。どうこれで完璧よね」
レアは誇らしげに笑った。
狂ってる。
おかしい。
どうして、こんなことに。
お母さん。
お父さん。
助けて。
主人公ではなかったミラ編はここで終了です。
読んでいただきありがとうございます。
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