18
混乱しているあたしを置いてきぼりにして、レアの告発は続く。
「聖人候補ミラ、あなたは自身の秘術が発現しないことに焦りを覚え、その現状を変えるため私に近づいたのですね」
「えっ?」
「すでに聖人指定を受けている私を排することで、教会は急ぎ新たな聖人を設けなければいけなくなります。年頃の女性ですでに聖人としての教育を受けているあなたがその筆頭になるでしょう」
レアは一体何を言っているの?
あたしがレアを排する?
「実際、あなたと出会ってから軽微な被害ですが学院内での嫌がらせが多発しました」
「あたしじゃないわよ!」
「私もその時点ではあなたのことを疑いもしていませんでした。ですが」
彼女はドレスの袖をめくる。
レアの白く細い腕が露わになる。美しいその白木に似つかわしくない痛々しい包帯。
「先月のことです。賊による襲撃がありました。これはその時の傷です」
会場の人々が騒めく。
公爵家の令嬢が襲われた。そんなのは大事件だ。
「本来は王都の警備隊に届けるべきなのでしょうが、内々で処理を済ませました」
「で、その賊というのは?」
来賓の一人が恐る恐ると問いかける。
「捕えています。そしてその賊こそ私が聖人候補ミラを告発する証人でもあります。ザジ!」
いつからいたのか、レアの背後からフードを深く被った従者が現れる。ザジと呼ばれた従者は縄で簀巻きにされた男を引きずっていた。
「この者が私の命を狙い。その過程で公爵家の騎士三名を殺害しました。失敗したとみるや逃亡を試みましたが間一髪でとらえました」
ザジが男の口に嵌められていた猿轡を外した。
「いま、この場で答えなさい。あなたに私を殺すよう依頼したのは誰なのですか?」
男が会場中を見回す。
あたしは足の震えが止まらなくなった。
この場にいる誰もが男から顔を逸らしたはずだ。心当たりがあるからではなく、誰もがこの男が今この場の生殺権を握っていることに気づいているからだ。
「こ、こいつだ! 俺に依頼したのはこいつだ!」
あたしを男が睨みつけ叫ぶ。
「知らない! あたしはこんな人を知らない!」
会場の人々の視線があたしに向けられる。
「違う、違う。ちがう。ちが……」
「こいつだ。こいつが命じたんだ! だから、ぐっ」
男の口に再び猿轡がはめられる。
会場を警備していた学院の騎士たちが男を連れていく。
「聖人候補ミラ。あなたは刺客を差し向けて私を排して聖人としての立場を奪おうとしただけではない。いえ、むしろ聖人としての立場を得るのも『このこと』が目的だったのでしょうね」
男が去ると再びレアが口を開く。
会場の誰もが言葉を挟むことなく、見守っている。
あたしの両脇にはいつの間にか騎士たちが立っていた。
「あなたは私の婚約者であるアスラン・アリストリア第二王子をも狙っていたのですね!」
アスランを狙う?
もうレアが何を言っているのかわからない。
「狙う、と言っても私のように殺すことではなく、あなたはアスラン様との婚約を狙っていた」
「な、なにを言ってるの? あたしは平民よ!」
「えぇ、だからこそ聖人という立場が欲しかった。星光神教という巨大な後ろ盾を持つことでその願いをかなえようとしたの」
「あたしがアスランと、そんなこと考えたこともない」
弁明を続けようとするが、周囲のひそひそ声を耳が拾う。
「名前を呼び捨てで」「やはりレア嬢の言っていることは事実」「なんて身の程知らずの女」
敵意のこもった無数の視線があたしに集まる。
騒めきが収まり会場には静寂。しかしあたしの耳には自分の心臓が煩いほどの鼓動を打つ音が響いていた。
「これは一体なんの騒ぎだいレア」
「アスラン殿下っ!」
会場に現れたアスランの姿に会場中が再び騒めく。
アスランは、あたしと対峙するレア。さらにあたしたちを取り巻くように立ちすくむ観衆を眺め渡して首を傾ける。こんな空気の中でも普段通りなのはやっぱり王族だからかな、と現実逃避。
「聖人候補ミラによる私への殺害未遂についての告発です」
レアはあたしから視線を外すことなくアスランに答える。
「っ! それは、どういうこと?」
「詳しいことはこの告発が終わり次第説明いたします」
「しかし、ミラ嬢が君を害する理由など」
アスランはあたしの味方なの?
「アスラン様は聖人候補ミラをどのようにお考えで?」
「レア、君の友人だ。そして僕の友人とも思っているよ」
「はぁ」
レアは呆れたように溜息を吐いて、アスランに向き直る。
「あなたのそのお優しさが今回の事件の原因です。それを自覚なさってくださいっ!」
読んでいただきありがとうございます。
それではまた明日もよろしくお願いします。
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