17
アスランと出会ってから数日後。
講義室に入ると、視線がこちらに集まる。
好奇、嫌悪、嫉妬、様々な感情のこもった視線。
どうやらあたしはレアの婚約者を誑かす悪女ということになっていたのだ。
聞こえるように陰口をたたいてくるご令嬢たちの言葉を要約すると、身分を気にせず優しく接してくれていたレア、その恩を仇で返すようにあたしはアスランを誑かそうとしている、らしい。
というかお前ら。この間まではレアがあたしを苛めていると噂していたじゃないか。
「レアっ! 噂は噂だからね! あたしがアスランに色目を使ってるとかなんとか」
午後、あたしは中庭でレアに駆け寄ると噂の弁明をした。
レアは普段と変わらぬ穏やかな表情。
「わかっているから大丈夫よ。アスランさまは身分など気にしないお優しい方ですから」
「うぅレアってば本当にいい子」
「ありがとうミラ。私が噂を気にしていないか心配してくれたのね。それでアスランさまはどうだった?」
「え?」
まさか少し噂を気にしているの?
「仲良くできそうかしらって意味よ」
「あ、そりゃもちろんよ。レアもアスランもあたしの友達よ」
「それはよかったわ。ミラは私の大切なお友達ですもの。噂なんて気にしなくて大丈夫よ。皆様こういうお話が大好きなんですから。すぐに、えぇ、すぐに噂は聞こえなくなるから大丈夫」
「ん? そうよね。どうせまた新しい噂話へ飛びつくに決まっているよね」
そうよ。噂なんてしょせんは噂。すぐに新しい噂にかき消される。
あたし以外の噂だって学院内にはいろいろと出回っている。
今回のことだってそんなたくさんある噂のひとつ。あたしだけならいいけれど、友達であるレアやアスランに関係していることだったから少し取り乱してしまっただけだ。
うん。こんなこといちいち気にしていたらやってられない。
そうなのよ。
実際、レアの言う通り噂はすぐに聞こえなくなった。
だからあたしはこのことをすっかり忘れて学院生活を過ごした。
どのくらいの間忘れていたかって?
三年間。
えぇ、三年間。あたしはすっかり、きっかり、はっきりとこの噂を忘れて呑気に学院生活を過ごしていた。
それでなんで忘れていたこの噂を三年後の今思い出しているのか。
「聖人候補ミラ! あなたの悪行は目に余ります!」
淑女らしからぬ怒気を孕んだ声がホールに響き渡っている。
煌びやかなドレスで着飾った令嬢や、礼服に身を包んだ令息たちの視線があたしに突き刺さる。
ここは学院の卒業を記念して開かれた式典の会場。
学院内の大ホールには今日で学院での生活を終える卒業生たち。
さらにはその父兄。
さらにさらにその侍従まで含めて大勢の人々が集まっていた。
あたしは星光神教の祭服に身を纏って参加していた。結局学院生活の間、秘術の才能が開花することはなく聖人候補、という肩書から候補という文字が外れることはなかった。
一緒に会場へ向かいましょうね、と言っていたレアは当日用事があるから先に向かって、と彼女の使いを名乗る獣人が教えてくれた。
結局レアとアスラン以外の友人なんてできない学院生活だったなぁ。
レアが来るまでは壁の華、いやあたしなんかは壁の草だよね、を決め込んでいたのだ。
そんなあたしの下に真剣な表情をしたレアが数人の令嬢を引き連れてやってきた。
「私クーリユ公爵家長女レア・クーリユは、星光神教聖人として、さらにはアスラン・アリストリア様の婚約者として聖人候補ミラをここに告発します!」
そこで先ほどのセリフを言ってきたのだ。
「ちょっ、ちょっとレア⁉」
あたしは大混乱。そんなあたしをレアは睨んでいる。
読んでいただきありがとうございます。
また明日も読んでいただけると嬉しいであります!




