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「ねぇそこの平民」
中庭でレアと別れて講義室を目指していると、令嬢たちの集団に囲まれてしまった。
身なりは派手だし、村にいた他の同年代の少女と比べればとても美しいけれど、普段からレアを見慣れているあたしには大したことはない集団としか見えない。
「クーリユ嬢に苛められているのでしょう。この私たちが守ってあげてもいいのよ」
「そうそう、クーリユ様は平民であるあなたにご自身の聖人指定が邪魔されるのではないか、と危惧して酷いことを」
他にもあーだーこーだとあることないことを言ってきた。
あれだクーリユというのはレアの家名だったけ。
「いえ! その、別にレアは友達でイジメられてなんていないから! です」
夏の夜の蛙のように鳴りやまない合唱を遮るため声を張り上げる。
突然あたしが大声を出したことにご令嬢たちは一瞬ぽかんとした後、その表情が怒気色に変った。
「まぁ、たかが平民が公爵家の令嬢を呼び捨てに」
「しかも友達などと」
「教会に保護され、クーリユ様とお近づきだからと思いあがっているのではなくて?」
「やはりこのような平民に声をかけるだけ無駄ですわ」
こいつらは一体何なんだ。
その後もエスカレートするように、クーリユ嬢は傲慢だとか、鼻持ちならないとか、そんな言葉をつづけ。しまいには秘術持ちのくせに秘術も使えないあたしを罵る言葉に変る。
レアのことを悪く言われるのは嫌だが、まぁあたしのことに関しては事実だ。
平民であることに違いないし、秘術だって使えない。
まぁ、黙って聞いていればその内疲れてどこかにいくだろうと、冷めた気持ちでご令嬢たちを見ていた。
すると、
「そろそろ終わりにしてはどうかな?」
声の主に全員の視線が集まる。
背の高い少年。
視線が自分に集まったのを確認した少年はご令嬢たちを見回す。
先ほどまで真っ赤な顔で喚いていたご令嬢たちはその顔色を青くしている。
「あまり『過ぎる』と僕も動かないといけなくなるからね」
「そ、そのような」
「私たちはただ」
「繰り返しになるけれど、そろそろ終わりにして、ね」
ご令嬢たちは口を噤むとこの場を足早に去っていく。
「ふん、煤汚れ王子のくせに」
ご令嬢たちの一人が去り際に捨て台詞を残していく。
「君大丈夫?」
青年がこちらを振り返る。
背は高く、教会の司祭さんたちや村の大人たちよりも高い。褐色の肌が目を引く、どこか野性味を感じさせるがまだその顔には同世代の幼さが残っている。
「僕はアスラン・アリストリアだよ」
アリストリア?
この国と同じ名前。それって。えっ、それは。
うわぁ、あたし王子様に話しかけられちゃった!
「あ、あたしはミラ、です!」
「うん。知っているよ。君は有名だからね。それにレアの友達だよね」
おお、王子様なんか優しそうな人だ。
「助かりました。なんかあの人たちすごい勢いだったんで。ありがとうございました」
頭を下げると王子様は気にしないでいいよ、と微笑んで、
「しかし、君は平民だからと出自で差別する彼女たちが憎くはないかい?」
「うーん。むかっ腹はたつ、です。けど憎いとかまではいかないかな、です。別にそんなものかなって思う、です」
「ははっ、無理に口調を直そうとしなくていいよ。レアとは普通に話しているんだろう? 彼女は僕の婚約者だから、同じように話してくれてかまわない」
おお、流石はレアの婚約者だ。なんだやっぱり身分が高くなるほど性格も良くなるのかしら。
「しかしどうしてそんな風に君は思えるんだ?」
「憎まない理由? そんなのしょうがないことだし、そんなことに気を取られるよりも自分ができること、やらなくちゃいけないことを一生懸命にしたほうがいいじゃない」
王子様は不思議そうにあたしを見つめた後、突然笑い始めた。
「ははっ、そうだね。そんなことよりも自分がやるべきことだね。なるほどレアが興味を持つだけの子なんだね君は」
ほ、褒められているのかな?
「改めてよろしくねミラ。僕のことは友人たちと同じようにアスランと呼んでもらって構わないよ」
「うん。よろしくねアスラン」
この時のあたしは浮かれていた。
レアに続いてアスランという良い友人に恵まれて、浮かれないはずがない。
だから忘れていたの。
レアと仲良くなった当時に起こったこと。
読んでいただきありがとうございます。
また明日もお楽しみいただけると嬉しいです!!




