:スポーツ観戦
「なにこれ?」
「プロジェクター」
「うん、知ってる」
「壁とかに」
「それも知ってる」
短い言葉をラリーしたあと、
「ひとまず恋愛ものでもレンタルしてみる?」
との僕の提案に、ズっちゃんは、
「雨、降ってるよ」
と言って、濡れた肩を見せてきた。ごめんね。お疲れさま。ココロのなかで言って、ちゃんと伝えられない自分の情けなさをひたすら情けなく思う。
僕がまだ名前を覚えきれていないスペインの選手が主審に猛烈な抗議をしている。その選手の前には黄色いカードが示されている。同じ色のユニフォームを着た選手たちがなだめようと、あるいは、引きはがそうと、してはいるけれど、その選手はおさまらない。
「あんま言うと赤になっちゃうぞ」
ハラハラしてしまう。
「ねえ、野球って9人でやんだね」
ズっちゃんからの、ひどく間の抜けた問いかけ。
「…そうだけど」
「ラグビーは15人なんだよ」
「…うん …そうだね」
「知ってんだあ。すごいね」
「あのさ、なんで野球? なんでラグビー? いまみてんのサッカーだよ」
「知ってる、知ってる。11人」
ズっちゃんは、やけに遅い夜ごはんが終わってシュークリームに取りかかっているところ。結局、あの選手への判定はくつがえらなかった。何ごともないように見せて、でも再開直後いきなりのパスミス。交代させたほうがいいかもねえ。でも、かわりになる選手いたっけなあ。
「ねえ、今度、バッティングセンター行かない?」
「…え …うん」
「やった。へへ」
ズっちゃんは、口のまわりについたクリームを舐めとった。
「…運動したかったの?」
「うん」
ズっちゃんは、こっちを見ないで返事をしてくる。
まったくなあ。なんだかなあ。ズっちゃんのこと、ちゃんと見てるようでまったくわかってなかったんだなあ。それとも、ただ見てただけだったかなあ。ごめんね。ほんとごめんね。ちゃんと伝えられない自分の情けなさをひたすら情けなく思いつつ、でもズっちゃんは、そんな言葉、求めてなんていないんだろう。
ふたたびのパスミスのあと、ボールがラインの外に出て笛が鳴る。あの選手は、やっぱり交代させられてしまった。僕の関心はプロジェクターが映し出す映像から急激に離れてしまう。
「卓球はひとりだよ」
「ダブルスだとふたりだよね」
「カバディは1チーム7人で、セパタクは1チーム3人で」
「セパタクって、イケメンアイドルみたいだね」
ズっちゃんの頬に赤みが戻ってきて、僕は安堵する。ズっちゃんの求めてるものは、ふたりで運動することでもなくて、こういう何気ない会話だったりするのかなって。きっと。たぶん。そうなのかなって。




