:駅の向こう
夕暮れはとっくにすぎている。暗闇につつまれる駅前の商店街。数分前の会話を思い出している。
―駅の、いつも使ってない出口のほうに新しくスーパーができたらしいよ
と、僕が言ったんだった。
―お、開店セール
ズっちゃんはうきうきして返してきて、さっそく外に出る支度をはじめた。
そしていま、僕たちは目指している。駅の向こうに新たにオープンしたスーパー「39ベリマッチョ」に。
「ネーミングセンス、すごいね」
「でも、忘れないよね」
「マッチョな店員がいるとか?」
「裸で?」
「さすがにそれはないでしょ」
いつも使っている駅だけど、出口が違うだけで戸惑いが大きい。自分の行動範囲の狭さに、ちょっぴり情けなくなる。ズっちゃんはというと、そんなことないみたい。まあ、ズっちゃんだし、そこはねえ。
赤と黄色を基調とした新しいお店はすぐにわかった。お店に入りきれないくらいのお客さんを想像していたのだけど、そんなことはなかった。すんなり店には入れた。時間も時間だし、それに各駅しか止まらない駅なんだから、それもそうか。
「裸の店員さんいないね。それに細いし」
店に入って、いきなりズっちゃんはそんなことを言う。
「ベリマッチョってそういう意味じゃないんじゃない」
「ふうん。ねえ、今夜は冷奴で一杯やらない?」
「いいねえ。枝豆は?」
「それはもちろんだよ」
「この店、魚安いね」
「焼き魚? フライ?」
「ここんとこ、くだもの食べてないかあ」
「スイカは?」
「丸ごと一個は無理だよ」
「アイスならいいでしょ」
「そうだね。アイスにしよっか」
いつの間にか、買いものかごのなかは僕たちの好きなもので満杯になった。
「たまには違うお店で買いものっていうのもいいね」
駅の向こうというたったそれだけのことなのだけど、いつもと違う空間は僕たちにはえらく新鮮だった。
その日の夜は、僕たちにしては、まあまあのごちそうといったところだった。
「今日行ったスーパーからちょっと行ったところにおいしいパン屋さんあるんだって」
「よし。今度行こう」
「お。なんかやる気」
もしかしたら、初めて行ったあのスーパーに、少しばかりやる気をわけてもらえたのかもしれない。お礼を言わないとな。
―39ベリマッチョ




