:初めての喫茶店にて
あからさまに肩を落としたズっちゃんを見て何を言いたいのかなんとなくわかる。緑色じゃなくて青いその色に、のっかっているのがアイスじゃなくて生クリームだということに、たいそう不満があるのだろう。けど、かろうじてなんとか視線を向けるのが可能な真っ赤なさくらんぼからの主張は「ウチの店ではこれがクリームソーダなんですよ」だった。
―ねえ、雰囲気のいい喫茶店、見つけたんだ。今度、行こうよ
ズっちゃんからそう言われたのは一ヶ月くらい前だったかな。お互いの休みがなかなか合わなくて、やっと今日、こうして来ることができたっていうのに。
「緑じゃ… ないんだね…」
小学校の飼育小屋にいるウサギが死んでしまったときみたいな声でズっちゃんは悲しく言って、それがあまりにもだったから僕まで胸が詰まってしまった。
「あああ。あああああ」
あ、マズい。ズっちゃんのよくない兆候。というか、ことが上手く呑み込めなくって頭のなかで消化不良を起こしてるようだ。
「真実は、時に毒よりも人を殺すわよね」
こうなってしまうとどうすることもできない。
「…」
「ずいぶんと喫茶店も進化したものよねえ」
「…」
「巻きこみ巻きこみ」
「…」
「アワイモヤモヤのみすぼらしさにめぐりあわせて」
「…」
「このお店のは、緑じゃないんだね」
「混乱、おさまってきた?」
「うん。でも、この青が緑にはならないんだよ」
「まあ… それは…」
「受け入れるしかないんだよねえ」
ズっちゃんはあきらめてクリームソーダに取りかかる。切りかえがはやいのがズっちゃんのいいところ。顔にかかっていた霧が少しずつ晴れていく。そのズっちゃんにすすめてみる。
「これも飲んでみる?」
「いいの? 気になってたんだ、ミルクセーキ」
ひと口含んでズっちゃんは、
「おお。この甘さは私の合う甘さだわ」
と言ってから続けて、
「私のミルクセーキはこのお店にて」
と、ヘミングウェイみたいなことを言ってはストローを葉巻のようにくわえてみせる。うかれてるいまのズっちゃんは、通常の姿に向けてのいい兆候だったりする。




