:夜の買いもの
ベッドに横になって、膝は立てて、両の手はお腹の上に。ズっちゃんのよくない兆候。わかっていても僕には何もできない。気の利いたことを言うことも、おいしいものをつくってあげることも。せめて近くで本を読むふりをしながら、その気配によりそうことくらいしか。
ふううううう
大きく長く息を、ズっちゃんは吐き出した。お腹のなかにたまってる悪いものを全部、カラダの外に追い出すみたいに。
「アイス食べない?」
とズっちゃん。
「ないでしょ」
と僕。
「買い行かない?」
「…行こっか」
ズっちゃんは薄く笑顔を見せる。ぺたんこの靴を履きながら、でもその背中から鼻歌は聞こえてこない。
「この前、仕事の合間にホームセンター行ってさ」
ふいにズっちゃんが言って、
「え、ああ、うん」
いつものことながら、僕は間の抜けた返答しかできない。
「園芸コーナーを見て回ってたときにさ、小さなハーブの苗あるでしょ、その苗に隠れてさ、夏の気配が潜んでたんだ」
「え?」
「ひとりだけでね」
「ひとりで…」
「さびしそうだった。ちょこんと座ってた。誰も気がついてなくってね。それが不思議だった。だから、きっと気のせいだったのかなって」
僕は返答できなかった。
「もしくはさ…」
「え、なに? 怖い話?」
「へへ。犬と暮らすとしてさ」
「え、ああ、うん」
「ねことも暮らすとしてさ」
「…うん」
「あ~、あたしピノにしよっかな。ピノピノピノ~」
いつの間にかコンビニは目の前にあって、ズっちゃんは飛ぶように軽い足取りで入っていく。かすかに聞こえてきた鼻歌は、ズっちゃんのいい感じの兆候。そのことに少しばかりの安堵しか、僕にはできないけれど…
でも僕は、とっくに気がついていた。意味のない会話は、ズっちゃんの復活の証だと。




