:バンジージャンプ
「怖かった。できてよかった」
こう言ってはなんだけど、人生初のバンジージャンプの感想としては普通な気がしてしまったのは、やはりその言葉がズっちゃんのものだからだったと思う。
―なんか、らくちんだったよ
―もう一回やっていい?
―あそこ思ったより高くて、遠くまでよく見えるねえ
そんなことを言うのだろうなあなんて考えていた僕は、だからちょっと肩透かしにあった感じになった。
やる前とやったあとで、ズっちゃんはハッキリと口数が減ってしまった。
「疲れたよね。少し休もっか」
「…うん」
「何か飲む? 買ってくるけど」
「…いい」
「だいじょぶなの?」
「…たぶん」
と、ぜんぜん大丈夫じゃないような口ぶりと表情でズっちゃんは返してくる。ついには、
「ああ、あああ。もうダメかもしんない」
と言い残し、出口に向かってふらふら歩きはじめてしまった。
「帰るの?」
ズっちゃんは何も言ってくれない。事ここに至って僕は、激しく心配になってしまった。僕はズっちゃんの手を握りしめる。まったく頼りにならない僕が、いま考えられること。いま僕ができること。
「元気出して」
ズっちゃんは立ちどまり、
「お。おお」
「どしたの?」
「おおおおお」
やがて、いま歩いてきた道を引き返していく。
「え、ちょ…」
「もっかい行ってくる」
短く決意して、ズっちゃんは向かっていく。人生で2回目のバンジージャンプに。その後ろ姿は、いつものズっちゃんそのものだった。




