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ある日、俺は死後の世界で君を知った  作者: 為世 斐文


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第9話「八重代 冬那」

 ん……

 隣の人の生活音で目が覚めた。

 ああ……あのまま寝てしまったのか

 机には二本の酒缶と食べかけのさきいかがあった。

 結局……また死ねなかったのか

 気だるい体を起き上がらせて、肌寒い早朝の中、頭を働かせようと俺はシャワーに入ることにした。

 今日、どこかで死のうかな……でも、なんか体の節々が痛くて動きになれないな………

 起きてからと言うもの、夢遊病でずっと歩いていたのかというほどに体が痛い。

 これじゃ、背中を洗うのも一苦労だな……


 痛む腕をさすりながら洗顔をするために洗面台に向かうと、シャワールームの扉が開いた。

「あ」

 ん……ああ、

 入ってきたのはどうやら白髪の女性のようだった。

「おはようございます」

 今からシャワーなのだろうか。

「お早いですね」

「ああ、ちょっと変な時間に寝てしまいまして」

「そうだったんですか。これからお仕事ですか?」

 女性は話す気満々なんだろうか、俺の隣の洗面台に居座った。

「いや、今日は何もないです」

 まあ何時も何もないけど……

「それじゃあ、今日も記憶の……記憶?」

 女性は訝しんだ顔を浮かべた。

 どうしたというのだろう。

「記憶がどうかしたんですか?」

「あ、いや……勝手に言葉が出てきて……すみません。何でもないです」

「ああ、はい」

 女性は眉をひそめながら、それを隠すようにシャワーに入っていった。

 記憶……何かあったのか?

 疑問に残りながらも、俺もあまり気にしないで部屋に戻った。

 さてと……残りのお金は二千円か……どうしたもんかなー……

 ネカフェの代金、食事の代金、その二つを考えると過ごせてもあと二日と言ったところだろう。

 はぁー……やっぱり、この世界はごみだな


 だらだらとスマホの画面を見ては消して、寝転がっては座ってを繰り返しているとノック音が響いた。

 ん……

 服もだらけ、髪も中途半端に癖がつき、だらんとした顔つきでドアを開けると、そこには白髪の女性が立っていた。

「あ、今ちょっといいですか?」

「まあ、はい」

 女性は視線を部屋のへと移動させた。

「どうかされました……?」

 今日の朝からこの人はどこかおかしい。

 いつもみたく何の希望も持っていない目ではなくて、何かに必死になっているようなそんな感覚がする。

「私……ここ見たことあります」

「……はい?」

 思わず俺は強気な言葉でそう言い返してしまった。

「いや、どの部屋も変わりないですから――」

「この匂いと、物の配置の仕方。知ってます」

 何が言いたいんだろうか。

「だから……つまり何がいいたいんですか?」

「私……」

 そこまで言って女性は悲しそうに俯いた。

 その顔が俺の心を締め付けた。

 あー……もう

「とりあえず入って喋りますか?」

 そう聞くと頷いた。

 これじゃああいつが言った通りの展開になってしまう……対処しなければな……

 危惧する気持ちの中、俺は部屋のドアを閉めた。

「いきなりすみません……」

 女性はやはり、何かをずっと考えているのか、表面上では謝っているのに内面的にはその視点は俺の方にも、この部屋にもどこにも向いていない。

「今朝から様子おかしいですよ」

 女性にそういうと、女性は何かを言いたげに顔をあげて口を開け、やるせない顔で黙り込んだ。

「あの……何かあるんだったら言ってください」

 正直、前は仲良くなってもいいなんて思ったが、さすがに部屋までやってこられるのは困る。

 俺も男子だ。こんなにかわいい人が仮にも自分の部屋にいるというのは、流石に来るものもある。

 女性はもじもじとして、顔を俯かせて、何も喋らない。

 静寂の中で、隣の人の生活音だけが耳に入ってくる。

「黙っていても何も分からないんですけど……」

 俺にも刺さるような言葉を吐くと、女性は口を開いた。

「八重代 冬那」

「はい?」

 いや、誰だよ……

 女性は俺の表情をじっと見て、また俯いた。

「あの、用事がないなら帰ってもらってもいいですか?」

 立ち上がると、女性は涙を含めた目で俺を見た。

 はぁ……

 そういう顔を向けられて、どこかに行くほどの心を持っていない。

「何かあるんなら端的に言ってください」

 怒り気味で言うと、女性は俺の手を握った。

「な、なにしてるんですか……」

 無言で近寄る女性に警戒心マックスで答えると、女性はしょぼくれた様子で手を離した。

「夜船さん」

「……は?」

 女性は俺の名前を言い当てた。

 え、なんで……

「夜船 奏斗さん」

「いや、なんで知ってるんだよ……」

 俺は恐怖が芽生え、壁まで下がった。

「ごめんなさい……驚かせるつもりはなかったんです……。こう言ったら思い出してくれるんじゃないかって思って……」

「何を?」

 俺はこの女性と名前を分かち合うほどの仲を以前持っていたというのだろうか。

 学生時代か、それともまた別の何かなのか。

 立ち上がろうと、机に手を置いたとき、俺の指先が酒の缶に当たった。

 あ、まさか……

「昨日……俺から話しかけに行きました? 酒入ってたので、覚えてないかもしれないです」

 そういうと、女性は不意を突かれたように顔を固めて、次第に笑い出した。

「ふふふっ……やっぱり、夜船さんは夜船さんなんですね」

 口元を押さえて、綺麗な笑顔で笑う。とても気品があって、素敵な顔だ。

「すみません……何も覚えてなくて、昨日の事は忘れていただけたら」

 そういうと、女性は首を横に振った。

「お酒なんて関係ない話なんですけどね」

 女性は俺の対面、すぐ近くに移動してきた。

「私、八重代 冬那と夜船さん。もう何度もお会いしてるんですよ」

 いや……そりゃ、病室とこことでお会いしてるだろ

 そんなツッコミは飲み込んだ。

 女性の言っている内容がそういう意味を持っているとは考えられなかったからだ。

「でも……なんで私だけ記憶を残されたんでしょう……」

 さっきまでの女性とはまた一見変わった顔付きを浮かべた。

 もしかして……スピリチュアルな人なのか……?

 そんな考えが頭をよぎった。

「あ、俺……〝そっち系〟には疎くて、神とか信じてないんで……勧誘とかなら帰ってもらっていいですか」

 きっぱりと断りの文言を言うと、また女性は笑った。

「私、そう見えますか?」

「失礼でしたか……?」

「そう考える方が失礼ですけどね」

 正論を言われてぐうの音もでない。

「とにかく、ちょっとお話しましょう」

 女性はまた俺の手を握った。

 この人は一体何なんだろうか。

「分かりました……」

 その圧に圧倒された俺は、細々と喋って承諾してしまった。

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