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ある日、俺は死後の世界で君を知った  作者: 為世 斐文


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10/10

第10話「繰り返す運命」

昨日は新作あげれなくてごめんなさい!

「まず、私の名前は八重代 冬那です」

「はい」

「それで、あなたの名前が夜船 奏斗さん」

「……はい」

「今は、どこまでの記憶を持ってるんでしょう……」

 八重代と名乗る彼女は、顎に手を置いて、首を傾けた。

「新曲って出しましたか?」

「新曲……ですか?」

「はい。虚偽記憶って名前の曲なんですけど」

 虚偽記憶……?

「何ですかそれ」

 単語の意味も何もかも分からな過ぎて、頭が上手く働かない。

「出てないのであれば……まだ、私たちがビルから飛び降りた後ですかね……」

 飛び降りた……? 私たち?

 八重代さんは何が言いたいのだろうか。やはり、申し訳ないがそういう人だとしか思えない。

「あの……本当に、宗教絡みじゃないんですよね」

 再三問うと、八重代さんはまた笑った。

「確かに、今の夜船さんからしたらそう思っちゃいますよね。まだ出会って間もない状態ですもんね……」

 笑っていたのに、悲し気な顔を浮かべた。

「新手のストーカーですか……?」

「そんなわけないじゃないですか」

 んー……じゃあ、一体何だって言うんだ

 俺はこの人に曲を作っているなんて一言も喋ったことはない。名前も言ったことはないし、ネカフェ店員が言うはずもない。

 この人……なんなんだ?

 八重代さんは腕を組んで、首を傾けて、どこか目が据わっているようにも見える。

「あの……」

 無言の八重代さんに言葉をかけると、八重代さんは口を開いた。

「しっかりと聞いて欲しいんですけど」

「はい」

 一呼吸を置いて、俺の目に焦点を合わせた。

「正直、私もどうなってるのか分かりませんが……少なくとも、私と夜船さんは変な記憶について調べていたんです」

「変な記憶?」

「はい。最初は夜船さんの方が私の名前を言い当てたんです」

 俺が名前を言い当てた……?

「その時の私と今の夜船さんの様子は正直、そっくりで笑っちゃいます」

 八重代さんの口から語られるトンデモ発言に頭の処理能力がパンクしてしまいそうだ。

「でもその時は私もすぐに記憶を蘇らせることが出来たんですけど……おかしいですね」

 記憶を蘇らせる……

 やはり、作った話だとするのであれば出来が良すぎる。つまりは、八重代さんの言う通り、俺と八重代さんは何らかの接点があったとみて間違いないだろう。

 だとしても、受け入れられるかどうかと問われれば、到底受け入れられる話ではない。

 まずまず、俺はそんなに人との情に介入しようと思う人間ではなかったはずだ。

「私たちはもう何回も一緒に居ます。記憶がない夜船さんを怒れないですけど、最後の日は、ちょっと悲しかったですからね」

 八重代さんは怒りと涙を同時に見せる。

 俺……が人をここまで悲しませるほどに情を築いたのか?

 疑問が残る。俺はもう決して人助けや、情を築く行為はしないと心に決めていたはずだ。

 それは軽口などではない。人生のいわばルールとして決めたこと。掟にしていた。

 そんなルールを俺が破るとは考えられない。

 それは本当に俺……か?

「夜船さん、今回はどうするんですか……また、手持ちのお金が無くなったら死ぬんですか」

「え……」

 八重代さんは俺の生きる理由をずばっと言い当てた。

 その通りだ。今の所持金がなくなったときは、俺がこの世から亡くなるとき。

 なぜそんなことまで知っているのだろうか。

 八重代さんが言う、記憶の中の俺が喋ったのか。


 ――この人は、俺にとってのなんなんだ……


「その顔は、死ぬってことなんですね。また、私を置いて死ぬ気ですね」

「いや……関係ないですよね」

 そう反論する俺に、納得のいかない表情を浮かべては小さく溜息を吐く。

「これからは私が払います」

「いや……は?」

 意味の分からない言葉を連ね続ける八重代さんに、流石に限界が来た。

「あの……」

 言葉に悩む。

 完全否定してもいいだろうか。いや、別に否定したらいい。

 でも体がそれを拒否してくる。まるで傷つけることを恐れているみたいだ。

「ちょっと時間をくれませんか……?」

 やんわりと拒絶の意を示すと、八重代さんはそれに気づいていないのか頷いただけで終わった。

 いや……部屋から出ろって意味なんだけど……

 そうは思っても言うことが出来ず、俺は背を向けて考えることにした。

 まず、俺とこの八重代 冬那という女性は接点があった……それが、多分パラレルワールドか何かだと言いたいわけだろ? それで……記憶、記憶ってなんなんだよ……しかも、パラレルワールドだって言うんなら、あまりにも今の俺の暮らしと一緒すぎる気もするしな……同じ世界だけど、時間軸がずれてるみたいなことか……? でも、非現実的すぎる……意味が分からない……

 考えを巡らせても妥協できる考えが生まれることはなく、多くの疑問を残したまま時間が過ぎるだけだった。

 仕方ない……質問するだけ、質問は端的なもので、情を育む目的ではないものだ

「八重代さん……つまり、俺とあなたはどこで会ってたんですか?」

「死ぬ前……ですね」

 死ぬ前……? そうだ、その疑問も残っていたんだった……

「俺は、一回すでに死んでるんですか?」

「いや……多分、数回死んでると思います」

「数回……?」

 ますます謎が広まって、深く根を張っていく。

「えっと……何らかの影響があって、私たちは死んでも現世に戻されているんです。そして、時間も巻き戻ったりしていて……うまく説明ができないんですけど、いい方向に進まない限り、きっと終わらないようになってるんです」

 あ……?

「端的に言ってもらっていいですか……」

「えっと……死んでは現世に戻って、を繰り返しているってことです」

 そんな馬鹿げた話があるのか?

 やはり、宗教団体の人だと考える方がすぐに納得できてしまう。

「も、もういいじゃないですか。私と、夜船さんは、取り合えず接点があって、それで……また話をして……」

 やけに必死な様子で喋り始めたと思ったら、すぐにその勢いがなくなった。

 まあでも、確かに彼女の言う通り、もう考えることはいいのかもしれない。

 これ以上何かを言われても納得ができないだろうし、考えるよりも感じた方が早い。

「分かりました……とりあえずは納得しておきます」

 そういうと八重代さんは口を開けて笑顔を浮かべた。

 それがなんだか元カノに似ていて、胸騒ぎがした。


 ――この人と関わると危ない


 そう直感的に、脳が言っていた。


 不思議な八重代さんと出会ってから、数日が経った。

 やはり、俺はまだ何も分からない。というか、正直に言って俺が誰かと情を築くわけがないのだ。

 だけど、彼女は本当の事を喋っている時の人のそれと全く同じで、嘘を喋っている人に見られるような傾向も、不吉で隠せていない笑みも見受けられない。

 だから、俺は少し心を開いてしまっている。

 虚偽記憶……

 パソコンと睨めっこしながら調べていた俺の目に、その文字が止まった。

 実際には経験していない出来事や、誤った形での経験を本人が記憶としている状態。誰もが日常的に形成する可能性があります……か

 もし八重代さんの記憶がその虚偽記憶というのであれば、夢の中での体験を俺が虚偽記憶として持ってしまっている可能性も捨てきれない。

 「やっぱり、俺と八重代さんは会ったことはないだろう」そう考える自分と、「いや、それなら名前や生きるルールなどを言い当てられたことを論破できない」と、そう相反する考えを持つ自分が生まれる。

 でもなんか、久しぶりに熱がぶり返してくるような経験だな……

 そう感じてしまった俺は、疑問を全て忘れてさっそく曲作りを始めてしまった。




 翌々日。俺は曲を完成させてしまった。

 題材となるのは、恋愛。でも、それは虚偽記憶の中での恋愛だった。

 虚偽記憶で君と恋愛をして、現実でも普通に話しかけようとしたらそんなことはなかった。でも、記憶として確かにあるから、気味が悪くなってしまう。そんなストーリーだ。

 投稿……するか

 正直、今までの中で一番いい出来だ。そして俺は、結局これを投稿せずにはいられない性分の人間。

 反応見てから次の自殺決行を決めようか……どうせ見られないだろうし、いっても数千いいねくらいだろうけど……

 そんな悲観的な感情の中、投稿ボタンをクリックした。

 ん……?

 その時に、俺の頭の中で八重代さんと喋っていた内容を思い出した。

『新曲って出しましたか?』

『新曲……ですか?』

『はい。虚偽記憶って名前の曲なんですけど』

 その会話を思い出した俺は、思わず全身鳥肌が立った。

 え……は? な、なんで……

 俺は疑問があるなか、新曲を作らないといけないという謎の使命感が、曲を作っていた。

 まるで知っているメロディーで、知っている歌詞で、知っているリズムパターンで、体が覚えているのかと言うほどにすぐに出来上がっていた。

 作っていながらも、こんなに順調なのは初めてだと、そう感じていたくらいだった。

 どういうことだよ……

 居ても立っても居られなくなった俺は、すぐに八重代さんを探し始めた。

※この作品は他サイトでも掲載しています。

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