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ある日、俺は死後の世界で君を知った  作者: 為世 斐文


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第22話「君がいたから」

 第二十二話「君がいたから」



 あれから女性が俺の部屋に泊ることになった。

 どうやら俺の元を離れることが無理な体になってしまっているらしい。

 困った……

 そう思っている自分がいるのは確かだが、なぜか体が女性を触ろうとする動きを見せることが増えた。

「夜船さん。モニター、使いますか?」

「あー……いやいいよ。パソコンあるし、スマホじゃ画面ちっちゃいでしょ。使いなよ」

「そうですか。じゃあお言葉に甘えますね」

「ん」

 何の意見に対しても折り合いがつくのはありがたい。

「あ、あとでお昼ご飯を買いに行きましょう」

「ああ、うん」

 なんだろう……すんごい笑顔だな

 そんなにお腹を空かせているのだろうか。

「あ、お金ならちょっとは出すので言ってくださいね」

「いや……」

「我慢されても、困るのは私なんですから」

「あー……まあ、ちょっとの間は大丈夫だけど」

「分かりました。でもすぐに言ってくださいね」

「……うん」

 嫌いにしていたものが、この人と一緒だと気にならなくなっていく。

 不思議だな……前の俺が好きだったとでも言うのか


 そんな生活を暮らしているうちに、俺は少し有名な音楽家。彼女はショート動画でお金を稼ぐようになった。

「マンション、買えるかもしれないですね」

「あー……確かに。狭いしなここ。しかも長期的に見たら安いしな」

「はい」

 ありかもしれないけど……距離は離れるのか

「自室とか持つの夢なんです」

 あー……

「分かった。ちょっと物件見に行こうか」

「やったー、嬉しいです」

 こうやってはしゃぐ彼女を見ていると、なんだか親になった気持ちになってくる。

 見持ってあげたい。傍に居て支えてあげたい。微笑んで会話をしたい。

 多分俺はまた過ちを犯そうとしている。

 でも……仕方ないだろ……

 自分の気持ちに嘘をついて、本音をずっと隠して成し遂げられる人はこの世に存在しない。どこかでみんな弱音を吐く瞬間がある。

 だからこの彼女への気持ちを隠しても、いつかは彼女にボロが出てしまうのだ。

「行きましょー」

 財布を手に取る俺に、彼女はまた無邪気な笑顔を浮かべた。

「うん」


 とんとん拍子でマンションの生活にも慣れてきた。

 部屋の中には二人で買った物が並んでいる。

 料理当番とか、洗濯当番とか、二人で決めた物が沢山だ。

 客観的に見れば、ただの恋人同士の同棲。そうなはずなんだ。

 俺は今日、彼女に心を打ち明ける準備をする。

「ちょっといい?」

 扉をノックして、開ける。

 彼女は笑ってこっちを向いた。

「どうしたんですか?」

 俺は、君を手放したくない。

「デート行かない?」

「デート……ですか?」

「うん。デート」

 俺は彼女に本音をぶつけることにした。

「正直さ……ここまで心が許せる相手は初めてなんだ。居心地がよくて、ずっと一緒にいたい。離れられるようになっても、俺は離れたくない」

 真摯に受け止めてくれる彼女は、何を想ってくれているだろう。

「死ぬ気で居たけど、君とならまだこの最悪な世界を旅したい。もっといろんな場所に行って、笑い合って、生きたいんだ……」

 彼女は微笑んだ。

「だめかな……」

「いいですよ」

 え……

「でも……お互い、いつ死ぬかは分かりません。それだけは承知しておくべき事実だと受け止めるのが妥当です。日記によると死ぬのに躊躇しない人たちですからね。私たち」

「そうだね」

 彼女の言うことは、理解できた。

 つまり、「私はいつか死ぬかもしれませんよ」と遠回しに言いたかったのだろう。

 でも、俺はそれでも彼女を幸せにしたい。もう二度と死ぬなんて思いをさせたくない。

 いや、そうさせない。

「デートですね。行きましょうか」

「うん。でもその前に、敬語とかやめない?」

 そう提案すると、彼女は少し悩んだ末に頷いた。

「うん。分かった。よろしくね」

 初めて聞く彼女の素に、俺は嬉しさと緊張が混じった感情を持った。

「うん。よろしく」


 彼女と付き合い始めてはや一週間が過ぎようとしていた。

 今日は彼女がどれほど離れられるのかを調べようと、河川敷に来ていた。

「じゃあ、離れるね。ちょっと待っててね」

「うん。待っとくよ」

 彼女はゆっくりと後ろに下がっていった。

 案外、順調だ。

 もっと少しはいざこざがあると予想していたが、彼女が優しいからだろうか。それともすでにネカフェで過ごしていた時期があるから、乗り越えた先に立っていたのだろうか。

 まあどちらにせよ、安定した恋が出来るのはとても嬉しいことだ。

 この時間がこのまま続けばいい。

 一生二人で、一生このままで、一生を最期まで。

 彼女はある地点で止まった。多分そこからは動けなくなるのだろう。

 なんとなく手を振ると、彼女はそれに気づいたのか手を大きく振って帰ってきた。

「奏斗くん、結構離れられるようになったね、私たち」

「だね。でも、あまり意味がない気もするけど。これ」

 そういうと、彼女は汲み取れない顔で微笑んだ。

「意味あるよ。だって買い物とかいっつも二人だったら疲れない? 当番制にできちゃうんだよ」

「まあ……分かるけど」

 それって、二人で行くのが面倒に感じる時があるってことなのか……?

 その疑問が頭の中で渦を巻いた。

「俺は二人で行く方が色々と楽だし、気分転換にもなるし、冬那を守れるし、好きだけどな」

 彼女は俺の言葉を聞いて、考えを回しているのか少し下を向いた。

 やはり何か思うところがあるのではないだろうか。

「なんか、嫌な事あったなら言って。隠してても付き合ってるんだから意味ないしさ」

「んー……ただ、お金の心配があるだけだよ」

 あー……

「私たちって、定職についてるわけじゃないからさ。将来でもちゃんとご飯食べれるのかなって……だから、当番制にして仕事の効率上げてもいいのかなって思って」

 彼女の言うことは一理ある。

 確かに俺は軌道に乗ってはいても、それでも廃れてくるのが一般的だ。

 根強い層のために頑張るとしても、いづれかはこの人気もなくなっていく。

 きっとそれを彼女は怖がっている。

 いや、多分もっと明確な理由だ。

「ご飯、いっぱい食べたいだけでしょ」

 そういうと、図星だったのか恥ずかしそうに頷いた。

「いいよ。俺もっと頑張るし、無理そうだったら、その時は近くの店でバイトとか探すし」

「奏斗くんだけに負担はかけてられないよ」

「俺は冬那のためなら、死ねないよ」

 そういうと彼女はまた恥ずかしそうに笑った。

 その顔を見てるだけで、いいんだ。生きる理由なんて

 心の中で、彼女にそんな言葉をぶつけていた。

「寒くなってきたし、そろそろ帰ろうか」

「うん。夕飯は今日私が作る」

「え、一昨日からずっとじゃん」

「いいの。またギターの音色聞かせてよ」

「分かった」

 彼女は素直で、気遣えて、優しい。

「新曲ももう少しで出来るからさ、楽しみにしといてよ」

「私はほぼネタバレくらってるけどね」

「それはご愛敬」

「うん」

 ユーモアもあるし、距離感も一定だし、よく笑う。

「なんて名前なの?」


「――死後の世界で君を知った。だよ」


※この作品は他サイトでも掲載しています。

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