第21話「痕」
第二十一話「信じること」
気分が悪い。
いつものあの嫌に白い空間が目をつんざく。
「やっほー。今回は結構長かったねー」
記憶が全て、蘇ってくる。
そうか……逆らえないんだよな
「今度はどうすんの」
神様の目も見ずにただ無気力に言うと、神様は微笑んだ。
「だいぶお疲れのようだね。いいんだよ別にやめてあげても」
どうせやめないだろ……
――人を嬲りやがって……
「え、なに? 聞こえないよ? “はきはき喋れよ”」
神様は俺の頬を力強くもって、見下す顔で俺をのぞき込む。
その目は深淵に染まり、中で悪魔が不敵な笑みを浮かべているかのようだった。
「まあ、お前も分かってる通り。拒否権なんてないんだ~。全て私の思い通りってわけ」
もう……いいよ
俺たちは死んでも生きても、結局運命に狂わされる。
死んでいるのか、生きているのかさえも分からない。
「さてと……記憶はなかったよね?」
神様はすでに起きていた八重代さんの髪を乱暴に掴んだ。
きっと何かを言ってしまったのだろう。
八重代さんの頬が赤く腫れていた。
ばかだな……
なんて考える自分と、許せないと気持ちが湧きたつ自分がいる。
「ないです……」
ん……? 日記は……?
「やったー。じゃあ成功だ。それなら……君たちが衝突するの見てて楽しいし、そこから戻すね~」
八重代さんは日記の事を喋らず、最後に俺の方を見て笑った。
まるで――神様への反逆行為だとでも言わんばかりに。
「ん……」
夜中、何か重いものが乗っかかってくる感覚に起こされた。
寝足りない気持ちの中、重いものが何かを確認しようと手を伸ばすと、ぷにぷにした感覚がそこにはあった。
まるでマシュマロのような、買ったばかりの枕のような、とろけるほどふわふわした感触だ。
なんだこれ……
俺の部屋にそんなものは置いていない。
もう一度よく触ってみると、それにはなんだか温度を感じられた。
少し冷たいけど、中の方は温かい。まるで生物のようだ。
「生き物!?」
すぐに飛び起きた。
するとバスっという音と共に、何かが起き上がった。
な、なんだ……
急いで電気をつけると、そこにはだらけた服装に、頬を赤く腫らしたの白髪の女性がいた。
「……は? 何してんすか……」
女性は女性で状況が上手くつかめていない様子で慌て始めた。
でも何かに気づいたのか、腕を見た女性は止まった。
「ここ俺の部屋なんで、出て行ってもらっていいですか……?」
疲れた感情を一斉に向けると、女性は聞こえてなかったのか、俺の話しを無視して自分の腕だけをずっと注視している。
ああ……もう!
怒りのボルテージがマックスまで達した俺は、女性の腕を掴んで目を見て言葉を喋った。
「出てけって言ってんだよ」
すると、女性は腕をくるっと回して、視線を腕に向けた。
なんだコイツ……
あまりにも腕をずっと見ているもんだから、俺もつい気になって見てしまった。
『喧嘩しないで。奏斗さん……ごめんなさい。怒るつもりはないの。またタイムリープして……今度は間違えないから』
そうひっかき傷のようなもので字が書かれていた。
なにこれ……
「これ、あなたが書いたんですか? きもいっすよ……」
そういうと、女性は何も言わずに瞬きの回数を増やした。
あ……?
「喋ってくれないと分かんないんですけど……。これ書いたんなら、流石に警察に突き飛ばしますよ。流石にそろそろ勧誘を疑ってますので……こっちとしては」
そこまで言いかけると女性が俺の腕を引っ張った。
その顔は泣く寸前の顔だった。
「夜船さん……もう喧嘩やめましょう。私、なんとなく分かるんです……多分、これは本当に前の自分が残したものだって……」
彼女は認めたくなさそうに、でも現実がそうであると感じているのか、一息吐いて俺の顔を覗き込んだ。
「私たち……やっぱり、何回死んでも生き返らされてるんですよ……。そんなの辛くないですか……? 向こうでも、もしかしたら神様にこき使われてるだけなのかもしれませんよ……? 今こうやって喧嘩してるのも、神様は嬉しがってるのかもしれませんよ……?」
宗教的なものではないとしたら、だいぶ核心的な言葉を吐いている。
でも本当に宗教まがいではないとするならだ。
「どうせ、その神に認められるために日々精進して、神に祈りを捧げるとか言うんだろ?」
荒々しく言葉を吐くと、女性はきっと顔を鋭いものに変えた。
「私、神様は大嫌いです……!!」
その言葉は嫌なほど脳に残っている言葉の一つだった。
元カノが良く言っていたからだろうか。
「じゃあ、宗教じゃないなんなんだよ……」
頭をかき乱すと、女性は俺の両腕を掴んだ。
「私も分かりません……でも、いや……」
悲しそうな声を上げて、顔を向けて、俺の心が段々熱くなってくるのを感じた。
女性を守ってあげたいという意思だ。
でも、それ以外にも変な感覚が芽生えた。
それは――神を許さないという変な意思だった。
とうとう俺までそっち側に傾いたのか……?
そう感じはしたが、そうではないことは自分が良く分かっている。
「とにかく……喧嘩はやめましょう。たぶん、夜船さんが前言ってたこと正しいんですね。あの動けなくなる体のこと……」
「は?」
「今、私は夜船さんを離したくなくて仕方ない心がいるんです」
ん……
その言葉を言われた瞬間、俺の心にあった棘が全て消え去ったかのような感覚がした。
「な、なんだよそれ……」
強がる言葉も、今は弱い。否定する言葉が心に鋭く突き刺さって痛い。
「……夜船さんも、感じますか? 相手に怒りをぶつけられにくくなったと」
女性の言葉が、今の俺の状況にぴったり重なった。
エスパーかよ……
「それがなんなんです……? 結局は」
「痛いでしょ」
そう言われて、次の言葉が出せなかった。
「私もなんです。だから……今は前の私が残した痕跡を信じるしかないと思います……」
女性はそう言って再度腕の傷を俺の前に突き出した。
さっきは飛ばし飛ばし読んでいた文章を、隅から隅まで心に刻み込むようにして読んだ。
「やめましょう。喧嘩」
そう言われて、俺はもう頷くほかなかった。
もう一度、言葉を喋ればまた心が鋭い痛みに苛まれてしまう気がした。
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